【繊維としての麻】タイのケナフ産業  

はじめに
「洋麻」ともよばれるケナフは、麻の仲間の繊維植物です。タイでは1950年代から栽培が進められ、1960年代にかけての10年間で生産量は30倍に急増しました。換金作物としてケナフが選ばれたのには、ケナフの特質や栽培条件に理由がありました。

ケナフとは

ケナフは、アオイ科ハイビスカス属の一年草で、芙蓉(アオイ科)のような花をつけます。日本では「タイジュート」「キューバケナフ」「アオイツナソ」「アサアオイ」などとも呼ばれていますが*1、学名の Hibiscus cannabinus から、麻の仲間であることがわかります。

ケナフはアフリカ、またはインド原産といわれていて、東アジアと東南アジア、南アメリカなど広い地域で栽培されています。主な生産国はインドと中国で、この2か国で世界の生産量の約7割を占めています。*2 ほかに、ブラジル、キューバなどでもケナフが栽培されています。

「生長が早く,土壌条件を選ばないなどの特色から,靭皮部を分離することなく,全茎を利用したパルプには,製紙原料として木材に一部代替することが期待されている」*3

生長の早い植物で、2~4 m の高さに育ち、種をまいてから4~5か月で収穫できます。栽培期間が短いことから換金作物として注目され、1950年代ごろから商業的な栽培が始まっています。

繊維植物としてのケナフ

ケナフには、特質を生かしたさまざまな用途があります。もっとも重要なのは、繊維としての利用です。

「繊維はジュートに似て、その代用として麻袋や網、ロープなどをつくり、製紙原料ともする。種子には20%ほどの油が含まれており、搾って食用や灯火用、せっけんなどの原料とする。搾り粕(かす)は家畜の飼料となる。」*4

ジュートは*5重要な繊維作物で、砂糖や大豆などの穀類を入れるガーニー・バッグとよばれる袋の素材に用いられます。ケナフは 「価格はジュートよりも安いが、繊維が粗硬で、維度も太い。したがって、ジュートの混紡用か、または中級~下級品用原料である。」*6

日本でもケナフはさまざまに利用されて、1980年代にはタイから大量のケナフが輸入されていました。

タイにおけるケナフ栽培

タイでのケナフ栽培は、「イサーン」とよばれる東北地方に集中しています。かつては32万ヘクタールも作付されていました。

熱帯モンスーン(季節風)気候のタイには、暑季、雨季、涼季の3つの季節があります。イサーン地域は降雨が不安定でしばしば干ばつに見舞われることから、土壌を選ばず、雨の少ない乾燥した場所でも成長するケナフが栽培されていました。

東北部の都市コーンケーンを例にとると、年間の平均降水量は1246 ミリメートル。首都バンコクの平均年間降水量は1648 ミリメートル と比べると雨が少ないことがわかります。3~5月が暑い時期で、もっとも暑さの厳しい4月の最高気温は36℃に達します。7月~9月にかけてが雨季で、月平均の降水量は173~232 ミリメートル。地域によって降雨が一定しない特徴があります。*7

タイでケナフの栽培が始まったのは1950年ごろのこと。作付面積は、1950年には4960 ヘクタールだったのが、1966年には52万8千ヘクタール、生産量は62万2千トンに急増します。1974年 には作付面積が54万4千ヘクタール、生産量は62万5千トンまで増えました。*8

ケナフの繊維はロープやガーニー・バッグに利用されるために、タイ国内のほか、ヨーロッパやアメリカ、日本などにも大量に輸出されました。

しかしその後、化学繊維が開発されてジュートやケナフの需要が減ったこと、新興の国がより安く輸出するようになったことにより生産量は減少しました。やはり乾燥した土地で育つ、キャッサバやトウモロコシといった作物に置き換えられて、現在の生産量は400トンあまりになりました。*2

ケナフの利用

収穫したケナフは、束ねてため池で水に浸けおかれます。レッティングとよばれる作業で、2~3週間浸漬して外皮と木質部が簡単にむけるようになったら、手作業で繊維を取り出して何度も洗い、天日で乾燥させます。*9

こうして抽出された繊維は、全体の4%に当たります。残り94%の活用法のひとつに、製紙材料があります。紙の原料となるパルプは主に木材から採りますが、産業需要が増大するにつれて、木材の不足が危惧されるようになりました。

生長が早いケナフを利用すれば木材資源を守ることになるという考えから、ケナフは紙ナプキンやコーヒーフィルター、壁紙や建材などにも利用されたり、環境教育の素材として各地で取り上げられたりするようになりました。

一方で、外来種であるケナフを栽培することが生態系に与える影響や、非木材パルプとして製紙に利用する場合は廃棄する部分が多いことから、CO2排出の面での課題も指摘されています。

まとめ
現在も、地域おこしの一環としてケナフを栽培するグループもあり、技術開発により、新素材としてケナフを利用する企業も増えています。経済の上での効率性と地域開発・貧困削減、環境保護など、この50年あまりのケナフの利用には、さまざまな議論がありました。21世紀にはどんな展開がみられるのでしょうか。

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情報引用元(参考文献、URL、URKページ タイトル記載)

*1 「ケナフ」国立環境研究所 侵入生物データベース
https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/80210.html
*2 Jute, kenaf, sisal, abaca, coir and allied fibres, Statistical Bulletin 2018, Food and Agriculture Organization of the United Nations(FAO), 2018. http://www.fao.org/fileadmin/templates/est/COMM_MARKETS_MONITORING/Jute_Hard_Fibres/Documents/Final_Statistical_Bulletin_2018_for_PWS.pdf
*3 「ケナフ」化学辞典(第2版)、森北出版
https://kotobank.jp/word/%E3%82%B1%E3%83%8A%E3%83%95-490850
*4 「ケナフ」日本大百科全書(ニッポニカ)、小学館
https://kotobank.jp/word/%E3%82%B1%E3%83%8A%E3%83%95-490850
*5 「ジュートについて」日本麻紡績協会
https://asabo.jp/knowledge/jute/
*6 中村耀『繊維の実際知識』(第6版)、東洋経済新報社、1980年。
*7 CLIMATOLOGICAL DATA FOR THE PERIOD 1981-2010  http://climate.tmd.go.th/content/file/75
*8 小林良生「タイ王国におけるケナフ栽培研究とそのパルプ化計画」『新パ技協雑誌』(紙パルプ技術協会)第33巻第7号、1979年。
*9 岡啓『タイのケナフ栽培』『農業技術』47巻5号、1992年5月。

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