北欧のデザインデュオが人気家具ブランドのノーマン・コペンハーゲンと協力、大麻ベースのチェア・コレクションを発表しました。サステナブルでスタイリッシュなデザインと技術についてご紹介するほか、大麻草のさまざまな利用法についてご紹介します。
北欧デザインの魅力
北欧デザインといえば、スタイリッシュでモダンなデザインや自然をモチーフにした温かみのある質感を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。
広大な自然に恵まれた北欧では機能性を備えた温かみのあるインテリアが人気です。
長く厳しい北欧の冬は、優れた室内デザインを生み出しました。暖かみのある色や自然素材、柔らかなライティング。家具や家具の配置は機能的で使いやすく、長い冬でも心地よさと美しさを備えた快適な生活を生み出します。無駄を削ぎ落としたシンプルなフォルムは和の空間にもしっくりと馴染み、日本でも人気があります。
そんな北欧デザインの中でも有名な家具ブランドの「ノーマン・コペンハーゲン」がデンマークのデザインデュオとコラボレーションを行い、大麻で作られた椅子を発表し話題となっています。
植物由来の美しいデザインチェア
2024年2月初旬に行われた「ストックホルム・デザイン・ウィーク」で発表されたこのチェアはMatコレクションと呼ばれ、1つはヘンプ、もう1つはヘンプと海洋植物であるアマモ (eelgrass)を組み合わせた素材でから作られています。植物由来の素材は注入成形プラスチックの代わりにシェルチェアの座面となり、スティール製の脚があしらわれています。このシリーズは「ノーマン・コペンハーゲン」による、初のバイオベースのプラスチック使用製品になります。
家具デザイン・デュオのフォアソム&ヒョルト・ローレンセンは1990 年代後半にはすでに家具に使われるプラスチックの代替品として植物繊維を使用することに関心を持ち、研究を重ねたのち2005 年に最初の椅子のプロトタイプ発表し、よりサステナブルで美しいデザインを追求してきました。
開発過程ではデンマーク工科大学のヘンプの専門家と協力し、ヘンプの茎を加工。これらの素材はすでに食品や繊維製品の生産において生産している農場から廃棄物となったものを利用します。そしてアマモの椅子には、デンマークの海岸に打ち上げられたアマモを乾燥させたものと、ヘンプ繊維が組み合わされています。
植物を丈夫な椅子にする仕組み
製造工程では、細かく砕いた大麻とアマモの繊維をシート材料に加工します。その後、専用に開発された圧縮機を使って形を整え、切り分けます。シート材料を形成しやすくするために繊維はバイコバインダーと呼ばれる生分解性の素材とミックスされます。これは椅子の形を整えるだけでなく、椅子が寿命を終えた時にリサイクルしやすくするためです。
異なる繊維を組み合わせることにより、それぞれの落ち着いた色あいが得られます。麻の椅子はオーク材に似た温かみのある明るい色が特徴で、アマモの椅子は落ち着いた茶色です。
座面は手作業で磨かれてなめらかに仕上げられ、VOC(揮発性有機化合物)フリーの亜麻仁油で仕上げられます。設計と製造工程の両方において廃棄物を出さないサステナブルなアプローチで、修理が不可能になった古い椅子は製造時に出た切りくずと一緒に再加工して、新しい椅子を作ることもできます。
石油由来のプラスチック製品が廃棄されると、焼却処理によって有害な排出物が発生したり、不適切な違法投機により野生動物や生態系に悪影響を及ぼすことがあります。また埋立地に送られても分解されるには数百年の年月が必要であるといわれます。
リサイクルが可能で、土に還る性質のある素材を使った家具は、これらの問題を大幅に軽減してくれます。
環境ダメージを減らすヘンプの可能性
近年、環境問題への意識の高まりから、従来のプラスチック素材に代わるバイオプラスチックが注目されています。バイオプラスチックは石油の代わりに植物や微生物などの再生可能な資源から作られる素材を指します。ヘンプやアマモの繊維のほかにも、竹、デンプン類、植物油などが材料に使われます。
これらのバイオプラスチックは従来のプラスチックと比べ、以下の利点があります。
植物由来の原料は二酸化炭素を吸収し、製造時の温室効果ガス排出が少ない。
再生可能な資源から作られるため、石油の枯渇問題を軽減できる。
生分解性があるため、微生物によって分解され、環境に長期間残留する心配が少ない。
中でもヘンプは成長が早く安定した生産が期待できるほか、ガラス繊維のようにプラスチックの強化材として使えるため、家具のほか、車のパーツなどにも使われるようになっています。メルセデス・ベンツやアウディもヘンプ素材を内装材として採用しています。さらに、自転車王のヘンリー・フォードが1941年にヘンプとサイザル麻を加工したバイオプラスチックで車のドアとフェンダーを作ったことも有名です。
石油は現代社会に欠かせないエネルギー源であり、交通や産業、化学製品など様々な分野で利用されています。しかし将来は枯渇してしまうだけでなく、環境問題や価格の高騰などの課題を抱えています。このため再生エネルギーの活用や脱プラスチックなど、石油に依存しない社会を目指す必要があります。バイオプラスチックは現在のところ、従来の石油由来の製品と比べてコストがかかることや耐熱性などの点で課題があります。しかし、これらの課題を解決し、石油問題を解決するために様々な研究が進行しています。
バイオプラスチックの未来
バイオプラスチック製家具は環境問題への意識の高まりとともに、今後ますます市場が拡大していくと予想されます。技術開発が進み、コストが低減、強度や耐熱性が向上すれば、従来のプラスチック製家具に取って代わる可能性もあります。
バイオプラスチック製家具や雑貨は、環境に優しいだけでなく、質感も優しく、新たなデザインの可能性も広げてくれます。心地よい色あいでデザインも美しく私たちが手にしやすいのも魅力です。今後、どのような革新的な家具が登場するのか楽しみですね。
<参考資料>
https://www.dezeen.com/2024/02/06/mat-eelgrass-hemp-chairs-normann-copenhagen/