【危険薬物法】医療大麻・CBDオイルをめぐるマレーシアの動き  

はじめに
マレーシアは、世界的にみても薬物の規制が厳しい国として知られています。大麻は所持・栽培・売買とも禁じられていて、現在の法律では、医療大麻も、嗜好品としての大麻と区別されておらず、取り締まりの対象になります。しかしここ数年、医療・研究目的の大麻草の栽培や利用について、新しい動きが出ています。

イギリス統治時代の遺産「危険薬物法」 

マレーシアにおいて薬物の取り締まりを規定する法律は、1952年に制定された「危険薬物法」(Dangerous Drugs Act 1952)です。イギリスの植民地だったマレーシアが「マラヤ連邦」としてイギリスから独立したのは1957年ですから、植民地時代の法律が、改正を経て今も効力をもっていることになります。

「麻薬等の危険薬物の違法売買は死刑であり、所持は最高で無期懲役の重刑が科せられます。また、一定量以上の薬物、例えばヘロインであれば15g以上、大麻であれば200g以上を所持していた場合は、違法売買の目的があったと見なされ死刑が科される場合もある。」 *1

用途による区別は設けられていないので、大麻草に含まれるカンナビノイド*2のひとつで、薬理効果があるCBD(カンナビジオール)製品も違法です。 

医療目的のCBDオイル所持による死刑、大勢の嘆願により停止

医療目的の大麻の使用については、各国で規制の見直し・緩和が続いています。マレーシアでは、ある事件を契機に、医療大麻が注目を集めることになりました。

2015年11月、違法に大麻を所持・販売していた容疑で、ムハンマド・ルクマン・ビン・モハマッド氏が逮捕されました。同氏は、非合法に入手した大麻からCBDオイルを抽出し、がんや精神疾患などに苦しむ人びと800人以上にインターネットを通じて販売、費用が払えない人には無償で供与していたのです。逮捕された際、同氏の自宅から CBDオイル(3.1リットル)、大麻(279グラム)、テトラヒドロカンナビノール (THC) を含む物質(1.4キログラム)が押収されました。

2018年8月、高裁では死刑が求刑されました。しかし、ムハンマド・ルクマン氏の友人たち、同氏のCBDオイルを使っていた患者やその家族が減刑を嘆願する署名を開始、地元報道機関だけでなく、外国メディアでも報道されたこともあり、世界中から7万筆を超える賛同*3を集めて注目を浴びました。 

「われわれは判決を見直すべきだ」*4。同年9月、ついにはマハティール・ビン・モハマッド首相(当時)も、医療目的で大麻を所持・流通させていたこのケースの特殊性から判決の見直しを示唆、10月、マレーシア政府は閣議で死刑停止に同意しました。 

同様に、医療大麻での治療を試みたために、2017年に逮捕されたアミルディン・ナダラジャン・アブドゥラー氏も、違法薬物にまつわる36の罪状で死刑判決を受けています。「ガンジャ先生」とよばれ、末期の不治の病に苦しむ患者とその家族から頼りにされてきた同氏の生涯と、医療目的の大麻を勧める活動をドキュメンタリー映画にする動き*5が最近報じられています。 

在英マレーシア人企業の成功が与えた影響 

「特定の条件を満たして保健大臣の認可を受ければ、医療目的の大麻は栽培できる」。
2019年2月、内務省の国家薬物取締庁のズルキフリ・アブドゥラー長官は、保健省の認可を得ることを前提として、医療・研究目的の大麻の栽培については認める余地があるという見方*6を明らかにしました。

発言のきっかけになったのは、地元紙で、イギリス在住のマレーシア人の若者3人がCBDオイルを扱う会社を興して成功を収めた*7ことが取り上げられたこと。ズルキフリ・アブドゥラー長官は、「同様の可能性を検討しないとすれば、機会を逃していると感じる」とも延べました。

若者たちがイギリスで設立したのは Malaysia – Malaya Hemp *8という会社です。創業者のひとりは、心臓疾患で妻を亡くしたことから、医療大麻のような代替医療があれば命を救えたのではないかという思いをもっていました。もうひとりの女性は、出産後2年にわたって続いていた背中の痛みが、CBDオイルを使うことで副作用もなく改善した経験がありました。彼らは医療目的のCBDオイルの可能性に着目して事業を立ち上げ、ヨーロッパ市場で顧客を獲得、CBDオイルだけで月5万ポンドの売り上げを出しています。

背景には、医療目的の大麻の使用を認める国が増えている世界的な潮流があります。東南アジアでは2019年、マレーシアの隣国タイが医療・研究目的の大麻の使用を合法化*9した最初の国になりました。続いて2020年には、医療用大麻の栽培・使用に関連する法案の改正をタイ政府が承認して、いち早く動き出しています。

医療・研究目的での大麻草栽培が可能に? 

続いて2019年11月、「繊維や種子を研究する目的での麻(ヘンプ)栽培を認めることを検討している」*10という保健大臣の発言がありました。
しかし、水・土地・天然資源省との調整が必要という理由で、実施の日程は明らかにされませんでした。

マレーシアでは、翌2020年3月のマハティール首相の辞任に伴い事実上の政権交代があり、ムヒディン・ヤシン首相が就任しました。その後すぐに新型コロナウイルスの大流行で関連の施策に追われたため、新政権が、前政権の考えを踏襲するのかどうかははっきりしていません。

まとめ
市場調査の会社の試算によれば「現在50億ドル規模のCBD市場が、2023年までに280億ドル(約3兆円)近くに拡大する」*11と見込まれています。政権交代による政策の方向性は明らかではありませんが、拡大中の新しい市場には早期に参入した方が有利なのは確かですので、政府・企業とも関心を寄せている、とは言えそうです。

 合わせて読みたい記事はこちら↓ 
情報引用元(参考文献、URL、URKページ タイトル記載)

*1 在マレーシア日本大使館「麻薬等薬物の厳しい取締り」
https://www.my.emb-japan.go.jp/Japanese/guide/5.html
*2 カンナビノイド 「化学辞典(第2版)」森北出版
https://kotobank.jp/word/%E3%82%AB%E3%83%B3%E3%83%8A%E3%83%93%E3%83%8E%E3%82%A4%E3%83%89-2124270#E3.83.87.E3.82.B8.E3.82.BF.E3.83.AB.E5.A4.A7.E8.BE.9E.E6.B3.89
*3  70,000 petitions to free M’sian on pot death row
https://www.thesundaily.my/local/70000-petitions-to-free-m-sian-on-pot-death-row-DY2562335
*4 Malaysian PM urges review of death penalty for man who sold medicinal cannabis
https://br.reuters.com/article/us-malaysia-cannabis-idUSKCN1LY1QB
*5 “Doktor Ganja” – Documentary To Follow Man Fighting For His Life & Medical Marijuana in Malaysian Prison
https://freedomfilm.my/news/doktor-ganja-documentary-to-follow-man-fighting-for-his-life-medical-marijuana-in-malaysian-prison/
*6 Boleh tanam pokok ganja, jika…’
https://www.hmetro.com.my/mutakhir/2019/02/421510/boleh-tanam-pokok-ganja-jika
*7 Tiga Anak Muda Malaysia Harumkan Nama Negara Cipta Produk Berasaskan Ganja Di UK. Hebat!
https://says.com/my/seismik/tiga-anak-melayu-malaysia-mengharumkan-nama-cipta-produk-berasaskan-kanabis-di-eropah
*8  CBD Oils Malaysia – Malaya Hemp (Facebook)
https://www.facebook.com/cbdoilsmalaysiamh
*9 タイ、医療・研究目的の大麻使用を認める
https://fr.reuters.com/article/thailand-cannabis-idJPKCN1OP019
*10 Health Ministry okays hemp cultivation for research purposes
Malay Mail, 07 Nov. 2019.
https://www.malaymail.com/news/malaysia/2019/11/07/health-minister-okays-hemp-cultivation-for-research-purposes/1807711?fbclid=IwAR2ZUclLThEZrfZ_HSStGQBVeHXiSbgrpBUjOVvRDM4tABax0qNsVkd_Hqo
*11 急拡大する「大麻オイル」CBD市場、米国が新ガイドライン策定へ
https://forbesjapan.com/articles/detail/30954

アーカイブ