現在戦禍にあるウクライナは、ウォッカの原料となる小麦の産地でもあり農業国として知られています。本稿ではヘンプ産出国でもあるウクライナの麻農業事情と大麻の受け止め方についてご紹介します。
ウクライナはどんな国
ロシア侵攻で急に耳にするようになったものの、地理的に遠いため「ウクライナのこと、あまり知らない」と感じた人も多いのではないでしょうか。
ウクライナは東ヨーロッパに位置する共和制国家。黒海に面しており、東をロシアに、西を欧州連合(EU)の国々に挟まれた人口4千万人を超える国です。隣がロシアという点は日本と同じ。ロシア以外の隣国はベラルーシとポーランド、ルーマニアです。
ウクライナは土壌の養分が豊富で生産力の高い「チェルノーゼム(黒い土)」の恵みを生かした農業国としても知られています。観光でウクライナに行く日本人はまだ少ないですが、名産品はクリミアのワイン、そしてビーツと呼ばれる赤カブを使った料理。ロシア料理と思われがちなボルシチも実はウクライナが本場。香草入りバターを薄切りバターで包み揚げたキエフ風カツレツ(チキン・キエフ)は、イギリスなどのヨーロッパ諸国でも親しまれています。
また日本でもおなじみの童話「てぶくろ」はウクライナの民話で、今回の戦争をきっかけに日本でも改めて注目されています。
ウォッカの原料はウクライナでも作られている
ロシアによるウクライナへの侵攻が始まって以来、石油など様々な物価が上昇していますが、小麦もその影響を受けている商品の1つです。ウクライナ政府は3月初めに小麦、トウモロコシ、穀物、塩や肉を含む主要な農産物の輸出禁止を決定しています。
ウクライナの小麦生産量は世界7位で、ロシアは世界4位。両国からの小麦輸入に頼っている国は多く、パン不足におちいる国も出てきました。
小麦はまたウォッカの原料としても使われます。ロシアへの反発から、世界各地でウォッカ 不買運動が起こっていますが、ロシアの地酒として知られるウォッカの生産地の多くがラトビアやルクセンブルグなど国外にあり、その原料である小麦はウクライナ産であることも多いのです。
ちなみにウクライナ産のウォッカで有名なのは、1700年代からこの地で行われているウォッカの製造伝統的製法を引き継ぐ「ネミロフ(Nemiroff )」。世界中のコンクールで数々の受賞し、世界80カ国以上で愛されています。
産業ヘンプの栽培も盛ん
土壌の豊かなウクライナではヘンプ栽培も盛んです。種子と繊維利用のためヘンプは伝統的に栽培されてきました。多くの国と同じように、大麻草に含まれる向精神作用のある大麻成分THC(テトラヒドロカンナビノール)は規制されていますが、医療や健康効果のあるCBD(カンナビジオール)に関しては、人々の意識も変化しつつあり受け入れ態勢が整ってきています。
世界的な産業大麻マーケットの拡大を受け、2022年2月時点では、ウクライナのスームィ地域では、2025年に向けた大麻開発のための州目標プログラムの概念案が作成されました。今回の戦争の影響による遅れは見られるかもしれませんが、国家規模での大麻栽培と国内の大麻産業の後押しが行われる予定になっています。
ヘンプの生産はカーボンネガティブ。つまりヘンプを栽培すると、収穫、処理、輸送の際に排出される二酸化炭素(環境ガス)よりも、より多くの二酸化炭素を吸収するということです。このためヘンプは環境に優しい作物とされており、様々な用途に使用できるためサステナブルな社会作りに貢献すると言われます。ウクライナが豊かな土地を活用してヘンプ栽培を推し進め、サステナブル国家になる道も開かれているのです。
米政府、ヘンプ種子輸入でウクライナをサポート
他国支援でシンプルかつ有効的とされる方法は、その国の商品を買うことです。
アメリカ農務省(The U.S. Department of Agriculture)では、現在、ウクライナへのサポートとして、「ウクライナ・ヘンプを積極輸入」という動きが見られます。農務長官のトム・ビルサック氏は米メディアにおいて「現在、ウクライナ産の産業用大麻の種子をどのように使用できるかを模索している」と語りました。
ウクライナ産のヘンプに含まれるテトラヒドロカンナビノール(THC)含有量は0.08%(EUでは0.2%)に制限されており、米国での利用基準にもマッチします。米国で一大産業となったヘンプ関連商品にウクライナが原料を輸出できるとあれば、今後長期的なサポートを行っていくことができるのではないでしょうか。
例えばウクライナ最大のヘンプ種子ストックバンクとしてはUkrainianHemp®が知られています。同社では国際的な品質基準に沿った、使用目的に合わせた幅広い品種を取り揃えています。
ウクライナにおける医療大麻のとらえ方は
「グリーンラッシュ(大麻特需)」と呼ばれる世界的な産業大麻ブームも影響し、ウクライナの大麻農場の数は2018年までに10倍に増え、2020年にはゼレンスキー大統領が医療大麻に関する全国世論調査を実施しています。
ウクライナは遊牧民の戦士、古代スキタイ人の時代から大麻とかなり緊密な関係を築いてきました。しかし現代に入り多くの国と同じく大麻は違法薬物とみなされ、利用者は非難され犯罪者扱いされるようになりました。
現在のところ、ウクライナでは特定の大麻ベースの精神活性物質(ナビロン、ナビキシモルス、ドロナビノール)の限定的な使用を除いては、大麻の医学的使用は禁止されています。また娯楽目的での使用も禁じられています。
深刻な病気の患者の痛みを軽減するために医療大麻の是非を問う2020年の世論調査では、
65%が賛成、30%が反対、5%が無回答の結果。
2021年に大麻ベースのナビロン、ナビキシモルス、ドロナビノールを含む製剤の規制が変更されたものの、これらの薬はまだ非常に高価なため、実際にはあまり病気治療には生かされていないのが現状です。ウクライナの大麻の状況は、合法化が始まる前の米国に似ているといえそうです。
私たちができる支援の道は
前述のUkrainianHemp®など様々な企業や団体が、自社ウェブサイトを通してポーランドなどの隣国にある拠点を通じて民間からの物資や資金の援助を呼びかけています。そのリストは救急車のような輸送車両から止血剤、食品、衣服やベビー用品、医薬品のような生活必需品がずらり。国内避難民の間で必需品の供給が非常に困難になっている様子が伺えます。
ロシア侵攻で小麦や大麻など農作物の収穫や種まきも危ぶまれる状況だというウクライナの状況。著名人による寄付がニュースになったり、SNSを介した『寄付報告』が飛び交うといったり今の時代ならではの動きも見られます。物資や募金など直接的な支援はもちろんのこと、難民支援や受け入れなども含め、日本からも長いスパンでできる経済と復活支援サポートの道を模索していきたいものです。
参考資料
https://www.huffpost.com/entry/us-to-help-ukraine-by-imp_b_5061462