はじめに
テルペン、カンナビノイド、カンナビジオール(CBD)、テトラヒドロカンナビノール(THC)については聞いたことがあると思いますが、ヘンプバイオマスとは一体何なのでしょうか。なぜ多くの企業や研究者がヘンプバイオマスの利用方法を考えているのでしょうか。
ヘンプとは
ヘンプバイオマスを理解するためには、まずヘンプを理解する必要があります。ヘンプは工業用ヘンプとも呼ばれ、カンナビス・サティバ種の一種です。通常、サティバ種から抽出される大部分はカンナビジオールです。そして、この化合物の使用者に精神的な影響を与えることはありません。
ヘンプとマリファナの主な違いは、おそらく後者のテトラヒドロカンナビノール(THC)の含有量が高いことです。
THCはマリファナ植物に由来する精神作用を引き起こす成分です。マリファナが約15~40%のTHCを含んでいるのに対し、ヘンプは1%以下のTHCしか含まれていません。
最近の2018年のfarm bill [1]により、THC含有量が法的な含有量ならば、ヘンプはすべての州で栽培が合法となりました。国によって、一般的に使用できるTHCの含有量は異なりますが、世界的に、このTHCの含有量による制限が緩和されており(もちろん精神に影響を与えない量)、若干THCを含むヘンプを世界中で使用できるような潮流があります。ヘンプの良いところは、ほとんどの気候に適応し、人の手(肥料、水やり)を必要としないことです。これはトラクターなど農業機器資源を有していない、また、スキルを持たない、新興国や、植物を育てるのが大変な環境(砂漠や北欧などの寒冷地)においても有効です。
ヘンプが生産する2つのバイオマス
ヘンプに由来するバイオマスは2種類あります。ここでは、ヘンプバイオマスとヘンプファイバーバイオマスと呼ぶことにします。1つはヘンプバイオマスで、CBDの生産に使用されるタイプで、ヘンププラントで収穫された花から作られます。CBDバイオマスには様々な品質やグレードがあり、大量生産しています。IHF LLC [2]という会社はこのタイプのバイオマスを販売しています。
次に、ヘンプファイバーバイオマスとは、ヘンプから花や種子を収穫した後に残った有機物(茎や葉)のことです。従来の農業では(植物から得られた)バイオマスは「廃棄物」と考えられていましたが、ヘンプではそうではありません。繊維、布、紐の生産のためには、ヘンプファイバーバイオマスから”繊維材料を取り出す(レッティングという)”必要があります。これにより、茎を構成する繊維質のストランドがさらに分離し、より効率的な加工が可能になります。この工程の効率化についても、広く研究されています。
フランスのベンチャー企業がヘンプ業界に本格参戦!
繊維産業からは大量のセルロース系廃棄物が発生しています。この廃棄物をさらにバイオエネルギー生産に利用することで、素材の付加価値を高めることができます。フランスのベンチャー企業は、ヘンプファイバーバイオマスを利用したエネルギー生産の試験に間もなく着手し、2022年には本格的な生産を開始する予定であると述べています[3]。こういった再生可能で容易に入手可能な競合しないバイオマスという燃料源をエネルギー生産に利用することは、枯渇しつつあるエネルギー埋蔵量と既存の廃棄物の処理の両方の解決策となります。
どうやってエネルギーを作り出す?
ヘンプファイバーバイオマスを粉砕して高温にさらし、メタン、水素、CO2に変換するガス化プロセスを経ることでエネルギー源を得ようとしています。Qairos社によると、計画されている生産施設から半径35km圏内の地元のヘンプを調達し、農業協同組合Fermiers de Louéの150人の組合員からバイオマスの供給を受けるといいます。Qairos社のJean Foyer氏によると、今夏後半に収穫される少量の最初の収穫物は、工業化と開発プロセスを最終化するための試験に使用される予定だといいます。エネルギー生産事業のアイデアは、Foyer氏が地元の農家であり、小規模なヘンプ栽培を行っている鶏の育成者でもあるMagalie Rhodé氏に話を持ちかけたことがきっかけでした。契約を結んだ最初の農家であるローデ氏によると、彼女の麻畑は現在の数ヘクタールから今後5年で30ヘクタールにまで拡大する計画だといいます。フランスは他国と比べてTHCの制限(上限0.3%)によって、ヘンプ産業への参入が遅れていました。そのため、他国が手を出していない、エネルギー産業へ力を入れることで、巻き返しを図っているようです。
ちなみに、寒冷地(北欧)で作られたヘンプのエネルギー変換効率はMattson氏らによって報告されており、ガス化に関しては重量あたりのエネルギー変換効率はトウモロコシやテンサイと同程度ですが固形燃料に関しては120%と有意な結果を示しました。ガス化に関しても、トウモロコシなどと同程度と言っていますが、ヘクタールあたり296GJで、栽培に労力が必要としないという点でかなり有用だと考えられます。また、植物の栽培に適した土地ならさらに効率的にエネルギーに変換可能だと思います。
たとえば、ホンダシビック(自動車)を1kmで2MJのエネルギーを消費するので、かなりのエネルギーが作れるということもわかります[5]。
ヘンプからエタノールを作る!
ヘンプファイバーバイオマスは、ヘンプが繊維産業での広範な用途に使用されているため、容易に入手可能です。また、ヘンプは一年草性の作物で、バストファイバーと木質コアに大別することができます。前者は繊維産業界で多くの用途に使用されている。残りの木質コアは一般的に廃棄物と考えられており、エタノールを生産するための発酵性糖の生産のための安価で容易に入手可能なセルロースの理想的な候補源となっています。余談ですが、ミサワホームのM-woodの一部にもこの麻植物の木質コアが使用されているようです[6]。
この木材を栄養とする酵素と呼ばれるタンパク質を用いて、排出するエタノールを使用しようとするのが、バイオエタノールの肝です。
酵素も生き物ですから、あまり高い温度では死んでしまったりします。Puri氏らは、効率的な酵素の働きができるように、酵素の働きを阻害するセルロースの結晶を分解する研究[5]など、世界中で様々な研究が行われています。
こういった研究も最近実用的なレベルに近づいており、ゴミとして扱っていたヘンプのバイオマスからエネルギーへ変換できるような枠組みができ始めました。
さいごに
ヘンプとマリファナは別のものです。現在世界各国で法改正、そしてヘンプを使用する動きがあります。それだけ、みなさんのサステイナブルな社会への関心が高まっているからでしょう。
また、今からのヘンプ産業への参入が遅いというわけではありません。フランスのように行政主導で特定分野に集中することで、その産業でいい刺激、さらなる技術革新、価格競争が起こり、サステイナブルな社会の形成だけではなく、我々は安くエネルギーが得られるなど、恩恵を得られるはずです。
今後もヘンプによるサステイナブルな社会形成への活動に注視していきたいと思います。
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引用元
[1] John Hudak, The Farm Bill, hemp legalization and the status of CBD: An explainer, 2018
https://www.brookings.edu/blog/fixgov/2018/12/14/the-farm-bill-hemp-and-cbd-explainer/
[2] IHF LLC homepage
https://industrialhempfarms.com/
[3] https://www.ouest-france.fr/pays-de-la-loire/mareil-en-champagne-72540/mareil-en-champagne-du-chanvre-pour-produire-de-l-energie-verte-79f2958e-bdf7-11ea-b804-0e5455152845
[4] https://www.misawa.co.jp/kodate/technology/mokusitu/amenity/mwood/
[5] Vaclav Smilm, Fast Trains Are Energy Efficient (And Fast), 2018, IEEE Spectrum https://spectrum.ieee.org/transportation/mass-transit/fast-trains-are-energy-efficient-and-fast
[6] https://link.springer.com/article/10.1186/1754-6834-7-90