アパレル企業の廃棄問題が問題視されていることを背景に、環境に配慮したサステナブル素材の開発に注目が集まっています。今回は注目のエコ素材「菌糸体」と「麻」を組み合わせたユニークな自転車用ヘルメットを紹介します。
便利だけど分解されにくいプラスチック
ゴミや環境問題対策として、植物ベースの生分解性素材がプラスチックに変わる新素材として注目されています。プラスチックはその便利さから世界的に普及、私たちの生活のあらゆるところに使われるようになりました。しかし1990年代にはいると状況が一変し、高度経済成長の中で生産された大量のプラスチック製品の処理が社会問題となったのです。
廃棄されたプラスチックは分解されることがなく、数百年にわたって土壌を汚染します。また海に流れ込んだプラスチックは海を汚染するだけでなく、海の生き物たちの命を脅かしています。
あらゆるプラスチック使用をやめるのが一番の解決法ですが、便利さに慣れてしまった私たちにとっては短期で達成できる現実的な目標ではありません。
こうした背景から生まれた新素材「生分解性プラスチック」は、微生物の働きによって最終的に分解されることから、廃棄物処理問題の解決につながると期待されているのです。
植物からプラスチックができる?
生分解とは、単にプラスチックが細かくバラバラになることではなく、微生物の働きによって分解され、最終的には二酸化炭素と水となって自然界に循環していく性質のことを指します。
現在使われているプラスチックのほとんどは石油などの化石燃料が原料で、生分解性プラスチックは植物が原料です。トウモロコシ、サツマイモ、ジャガイモ、サトウキビなどでんぷんを多く含む植物がよく利用されています。
またバイオマスプラスチックも、植物などの再生可能な有機資源を原料としています。竹や大麻、わら、木片のほかに、食品ごみなども原料として再利用できます。
どんなところに使われている?
これらの新世代プラスチックは使い捨てカップやテイクアウトの容器、レジ袋、スプーンや箸、育苗ポット、おむつや歯ブラシ、使い捨てひげ剃りなど多岐に渡ります。
またパソコンパーツや自動車のドアや内装部品など「こんなところにも?」と驚くようなところでも採用されています。
例えばドイツの自動車メーカーBMWなどは産業用大麻(ヘンプ)とポリプロピレン(PP)の複合材料をドアパネルに採用しています。植物である麻と自動車の組み合わせは意外ですが、ヘンプの繊維は従来のガラス繊維のようにプラスチックの強化材として使うことができるほど強度があり安心です。
菌糸体✖️大麻のヘルメットってどんなもの?
近年ではキノコの菌糸体を自由な形に成長させる技術によって、キノコ由来の便利な代替素材も開発されています。オランダのデザインオフィスStudio MOMでは、従来のポリスチレン製ヘルメットの代わりに使用後に土に還る、菌糸体と産業大麻を使った自転車用ヘルメットを開発しました。
ほとんどの自転車用ヘルメットは、プラスチック樹脂である発泡スチロール(EPS)でできており再利用やリサイクルをされない限り、ゴミ問題を引き起こす素材の1つです。Studio MOMが開発したヘルメット「MyHelmet」は菌糸体をヘルメットのシェルの形に成長させたあとで短時間加熱して強度を与え、表面を麻でコーティングし麻繊維のストラップをつけたもの。発泡スチロールと同様に軽量なのが特徴です。また菌糸体の栄養素として培養時には麻を使ったフレークをエサとして利用しています。
産業麻の良さとは
向精神作用を持つ成分がほとんど含まれない「産業用大麻=インダストリアルヘンプ」は多くの国で栽培されており、サステナブルな産業作物として利用されています。
石油由来のプラスチックの代用となることのほかにも
石油と違って枯渇することがなく、繰り返し栽培できる
プラスチック作りから衣服や医薬品、食料まで様々なものに活用できる
成長が早く収穫も早い
農薬や水を大量に必要としない
成長の過程で大気中の二酸化炭素を吸収する
など様々な利点があります。サプリメントとしての麻抽出成分カンナビジオール(CBD)の健康やリラックス効果が広く知られるようになり、ウェルネスに関心の高い人々の間でも話題となっています。
ファッション業界でも話題のキノコ素材
この菌糸体(きんしたい=mycelium)とは聴き慣れない言葉ですが、菌糸の集合体のこと。代替肉のようなビーガン食として現在人気があり、海外では新製品が続々登場しています。
安全で生命力が強く、生分解性に優れているでため、今後エコ素材として幅広く活躍する可能性があります。
またファッション業界では上質なビーガンレザー素材(マッシュルームレザー)としても注目の的。ラグジュアリーブランドの「エルメス」「ステラ・マッカートニー」などでは、マッシュルームレザーを用いたバッグを発表しています。
また英国インテリア・メーカー「セバスチャン・コックス」も菌糸体を使ったランプシェードを発表しています。
さらにユニークなところでは、オランダのテキスタイルデザイナー、アニエラ・ホイティンクがキノコ菌糸体を使ったドレスを発表しています。
まとめ
キノコと麻というこれまで考えられなかった素材が活躍しているバイオテック業界。麻を原料にした3Dプリンター用 フィラメントも登場し、ますます応用範囲が広まっています。日々の生活でサステナブル消費をしていくために、お気に入りグッズの買い替えの際には、エコ素材をつかった商品を検討してみてはいかがでしょうか。
<参考資料>
https://www.dezeen.com/2022/05/17/mycelium-cycle-helmet-myhelmet-studiomom/