
環境に優しい作物とされる大麻ですが、屋内栽培が増えたことで多くのエネルギーを消費するようになり、偽りのエコ=グリーンウォッシュ ではないのかという声も上がっています。本稿では環境に配慮しながら大麻栽培を行うための取り組みについてご紹介します。
ハウス栽培で大麻のエコ度が帳消しに?
世界的な規制緩和がの流れに乗って欧米を中心に一気にブームとなった産業大麻。繊維や医療用だけでなく食用や産業素材としても幅広く利用できる上、栽培過程で大気中のCO2を吸収してくれるというメリットもあり生産者が増えています。しかしどんなにエコとはいえ需要が増え大量生産が行われるようになると、どこかに無理が出てきてしまうものです。
大麻は古代から栽培されてきたことでもわかるように、もともと屋外で育つ丈夫な産業作物です。この場合栽培にかかるコストは低く済みますが、収穫量、品質は天候の影響を受けやすくなります。
一方、最近注目を浴びている屋内栽培では天候を気にすることなく、温度、光源、CO2 レベル、湿度などの環境を完全に制御できます。害虫を避け、季節や天候に左右されることなく高品質かつ均質な作物を生産できます。
大麻由来のサプリメントや医薬品としての利用が増え、生理活性物質THC やCBDを抽出するために栽培される大麻草は有効成分カンナビノイドの濃度をコントロールしやすい点からも、屋内栽培が増えているのです。
しかしここで問題になるのは、栽培環境の管理に使われる膨大なエネルギー=環境ガスの排出量です。大麻は同じ耕地面積であれば森林の何倍ものCO2を吸収する、農薬がほとんどいらない、化学薬品だけに頼らない代替医療ができるなど、プラス面が多い大麻ですが、このまま生産量が増え続ければ、環境被害を引き起こす作物のリスト入りしてしまう可能性すらあります。
良い大麻にはたくさんの水が必要

米コロラド州立大学の土壌研究学者は、大麻は干ばつに強い植物であるが、成長や収穫のためにはやはり十分な水が必要であることを改めて指摘しています。
調査によると、十分に灌漑(かんがい)されたエリアで栽培された大麻農園では、1 エーカーあたり1,100 〜2,000 ポンド(500 ~907kg)の種子(ヘンプシード)が収穫されました。しかし灌漑されていない大麻農園では1エーカーあたり平均わずか400ポンド(181kg)のしか収穫できなかったといいます。
カンナビス 研究ジャーナル(Journal of Cannabis Research) の 2021 年研究では、大麻はトウモロコシや大豆、小麦、ワイン用ブドウの約 2 倍の水を吸収すると発表しています。さらに屋内栽培においてはたくさんの照明と気候制御が必要となるため、モーニングスター紙は米国の人口の 10% が 2030 年までに定期的に大麻製品を消費するとした場合、大麻栽培が 2030 年までに米国の総電力需要の 1% を占めるようになるだろうと予測しています。
このような状況を変え大麻栽培をよりサステイナブルにしていくために、現在どんな対策が取られているのでしょうか。
よりサステイナブルな栽培方法とは

まず、栽培に使われる照明をエネルギー効率の高い LED ライトに変えることで電力や関連エネルギーを大幅カットすることができます。また空調やその他機器に使われる電力を、太陽光や風力発電などをベースにしたクリーンエネルギーに変えることでも排出量をカットできます。
屋内栽培用照明、栽培用肥料を提供する米ホーソーン・ガーデニング社(Hawthorne Gardening Co.)では、2019年より栽培用ライトとしてLED ライトを導入したところ自社の照明売上高の 70% を占めるようになったと報告しています。
ほかにも、屋内栽培で土壌の代わりに使われる無菌栽培培地ストーン ウールに代わる新しい培地の開発も進められています。「ストーンウール」(または「ロックウール」) とは鉱物等を高熱処理などにより製造した人造繊維のことで、断熱材や吸音材として使われるほか、水耕栽培用育苗ブロックとしてもよく使われます。しかしリサイクルが難しいというデメリットがあり、ホーソーン社では生分解されやすいココナツ繊維で作られた CocoPro を取り扱ったり、水の無駄を減らすろ過システムとしてHydro-Logicを導入しています。
またバッズと呼ばれる大麻の花(花穂)には、カンナビノイドと呼ばれる生理活性物質が多く含まれますが、収穫のためにはカビを避けるための湿度管理が重要になります。この除湿システムにおいても、今後エネルギー効率が高く環境ダメージが少ない方法が求められています。
まとめ
気候変動問題への取り組みとして、様々な業界で再生可能エネルギーと排出量削減の取り組みが世界で行われています。化石燃料への依存度を下げることは人類の重要課題ですが今日、世界の発電量に占める再生可能エネルギーの割合は、2020 年末でようやく29% に達したに過ぎません。
太陽光や地熱、風力などの再生可能エネルギー導入のこと、この移行期において農業の分野では太陽光と太陽エネルギーを最大限に利用しながら環境制御も可能にするより効率的な未来の温室=太陽光利用型植物工場システムの導入が求められているのです。
<参考資料>
https://jcannabisresearch.biomedcentral.com/articles/10.1186/s42238-021-00090-0
https://www.bloomberg.com/news/newsletters/2022-05-09/marijuana-industry-seeks-to-lessen-its-environ
https://www.morningstar.com/articles/1012080/electricity-demands-covid-comeback