気候変動問題への意識の高まりから、西欧諸国では植物性ミート市場が爆発的に成長しています。本稿では大麻の種=ヘンプシードから作られたハンバーガー用ミートについて紹介します。
注目のスーパー食品ヘンプシードが、いよいよメインストリームに?
ヘンプで作られた代替肉を専門とするプラネット・ベースド・フーズ社は2022年3月、北米最大の自然食品およびオーガニック食品の販売業者「KeHe」とのパートナーシップ提携を発表しました。これにより、ヘンプシードで作られた栄養価が高く環境に優しい有機栽培のプラントベース ・ミートがより手軽に手に入るようになります。
このプラネット・ベースド・フーズは、米カリフォルニア州サンディエゴに本社を置く代替タンパク質食品のパイオニアの1つ。
世界人口の増加に伴い、食糧危機や気候変動問題などのトピックがニュースになっていますが、植物由来のタンパク質はこれらを解決する方法の一つとして注目されています。中でもヘンプシードをベースにした商品は、他の作物に比べてもサステナブル度が高いことから注目され、栽培や流通の規制が緩和されたことにともない様々な製品が生まれています。
同社では8年前から研究を始め、パンデミック直前の2019年に創業。大麻への関心が大きく、トレンドへの関心と冒険心を持つ人が多い西海岸ロサンゼルスを中心に様々なレストランでメニューに取り入れてもらったことが、今回の大きなパートナーシップ提携に結びついたといわれています。
ヘンプはおいしい健康&エコフード
ヘンプシード製ミートには様々な利点があります。
100%ヴィーガン
良質な植物性プロテインが豊富
食品アレルギーを起こす人が少ない
必須脂肪酸オメガ3・オメガ6のバランスが理想的
栽培時における環境負荷が非常に少ない
畜産に比べ、植物性ミートはもともと土地や水の利用、環境ガス排出量はかなり少なくすみます。中でもヘンプはグルテンやエンドウ豆ミート、大豆ミートなどの他のプラントベース ミートの材料と比較した場合でも、水や農薬の使用量がさらに少なくすみ、成長過程で森林の数倍の量のCO2を吸収するため、地球温暖化の抑制に役立ってくれるとされています。
また丈夫で成長が早いため、土地当たりの生産量が高くなり、よりサステナブルな食料供給が可能になります。
ほかにも丈夫な根が張りめぐらされることで土地を耕し、収穫後は大量のバイオマス(再生可能な有機物)が副産物として生まれ、それを土に還すことで土壌が豊かになるというメリットもあるのです。
みんな大好きハンバーガー、でも安全度は?
ヘンプシードは大麻の種であるために「食べると酔うのではないか」「マリファナ喫煙のようにハイ状態になるのでは」と心配する人もいます。しかし産業用ヘンプには精神を高揚させる成分THCはほとんど量含まれておらず、安全上も厳しい規制をクリアした作物だけを栽培が許されているため、心配は無用です。
プラネット・ベースド・フーズ社のヘンプミートも米国モンタナ州で生産された上質の大麻種子を使っており、ハンバーガーパテ1枚に含まれるプロテインの量は 21gとプロテインドリンク並の含有量。GMO遺伝子組み換え作物を使用していないため、安心して美味しく食べることができます。
ただの流行ではない、ヴィーガン的ライフスタイル
ヘンプ商品に限らず、ベジタリアン食材やヴィーガン食がこれほど注目を浴びているのは、「環境問題を改善するために、過度な食肉を減らそう」と考えている人が世界規模で増えているため。
これは畜産による自然環境への影響がかなり大きく、全世界の飛行機や自動車から排出される温室効果ガス量を上回ってしまうことが知られるようになってきたためです。
畜産には動物たちを育てる広大な土地が必要となるため、スペースの確保のため森林伐採が行われます。アマゾンの森林破壊の9割以上が畜産業によるものとされており、水資源の多くが畜産業のために使われています。
つまり、人類の食事が環境問題に大きく関係しているということは、私たちが日々の食事や生活に意識的になることで環境問題の改善につながることになります。自家用車をEVに買い換えたり、移動を公共交通機関オンリーにしたりして環境ガス排出を減らすには、お金や手間がかかりますが、食べ物を変えるだけなら老若男女誰にでもできます。
これが今、ヴィーガン食が注目を浴びている大きな理由です。
世界中の人が食事の一部だけを植物ベースに切り替えるだけでも、大きな変化が生まれます。
ヴィーガン食は決して、宗教上の理由や健康・ダイエットだけが理由の一時的トレンドではないのです。
プラントミート市場の成長
世界の植物ベースの食肉市場規模は2030年までに年平均成長率19.3%で成長すると予測されています。
もともと肉食を好んできた先進国が、健康志向や環境志向からのヴィーガン的ライフスタイルを積極的に取り入れていることが理由です。新型コロナウィルスによるパンデミックで、食肉など食品管理の安全に懸念を抱く人が増えているのも一因だと言われています。
プラントミートで知られる世界的企業は、米国のインポッシブル・フーズです。大豆を主原料にした代替肉は生化学と遺伝子工学を駆使した「ヘム」という分子を活用し、植物肉を血の滴るような食感を実現しています。遺伝子組み換え酵母を使用しているため、欧州や中国など規制のより厳しい市場へは競合ビヨンド・ミートの進出が先行していますが、最近では新たにオーストラリア、ニュージーランド、アラブ首長国連邦(UAE)、カナダへと市場を拡大し、取り扱い店舗も急増しています。
また2009年にスタートし、代替肉企業で世界初の上場(NASDAQ)も果たした米国ビヨンド・ミート社は、レオナルド・ディカプリオや米マイクロソフト共同創業者のビル・ゲイツ氏も熱烈なファンで、多額の投資を行っていると報じられています。同社の代替ミートはエンドウ豆、緑豆、玄米をベースにし、牛肉の赤い汁(ドリップ)を再現するため、ボルシチなどに使われる野菜ビーツが使われています。
ヘンプのメリット
えんどう豆や大豆ベース、また他のプラントベース ・ミートはそれぞれ栄養や食感などのメリットがありますが、ここではヘンプの持つ特性や栄養価について取り上げましょう。
ヘンプはタンパク質
ヘンプは、世界で最も用途の広い作物の1つとされていて、伝統的な農作物よりも水使用量が少なく、害虫や病気、菌類に対する耐性があり、農薬をほとんど必要としないため、地球上で最も持続可能な作物の1つといわれています。成長が早いため、土地面積あたりの収穫量も高くなり、成長の過程で空気中の二酸化炭素を吸収してくれます。
まとめ
北米最大のナチュラル&オーガニック食品業者「KeHe」と提携したことで、ますます身近になったヘンプシードと植物性ミート。
2020年にインポッシブル・フードがスターバックスと提携し、ヴィーガン版朝食メニューを展開しヴィーガン人口を増やしているように、私たちもヘンプバーガーやソーセージを楽しむことができるようになるのも、まもなくかもしれません。
美味しくて健康なごはんが環境問題の解決につながるのなら、どんどん取り入れていきたいですね。
参考資料
Planet Based Foods
https://planetbasedfoods.com/