大麻は何千年も前から人類と共にあり、古代医学でも大きな役割を果たしてきました。現在では大麻の薬理効果が研究され、医療大麻は再び注目を浴びています。本項では医療大麻の歴史や役割について紹介します。
大麻と人類の歴史
大麻草(学名:カンナビス ・サティバ)は、人類が栽培してきた作物の中でも最も古い歴史を持つ植物の一つであり、その歴史は数千年にわたります。古代メソポタミア文明で人々が麻を栽培し始めたことから、作物としての大麻の歴史がはじまったといわれます。大麻や麻類は繊維原料や薬草として重要視され、後にエジプト文明でも広く使われ、その影響はその後ヨーロッパを経由して世界中に広まりました。
日本でも大麻草は繊維利用や薬草として盛んに利用されていました。大麻は「おおぬさ」とも読み、現在でも神社のしめ縄やお祓いに用いる祭具に使われます。また浴衣の柄などに麻の葉の模様があることなどからも、戦後に栽培が禁止されるまでは人々に馴染みの深い作物であったことがわかります。
薬としての大麻
大麻は世界中で薬草としても重要な役割を果たしました。古代インドのアーユルヴェーダ医学においても、大麻は鎮痛剤や食欲増進剤、鎮痛剤、解熱剤として紹介されています。
中国の古典医学でも、大麻は痛みの軽減や精神疾患の治療に使用されていました。また大麻の種子である「麻子仁(まにしん)」も、漢方薬の整腸剤として使われています。
当時は大麻の薬効のメカニズムはわかっていませんでした。しかし現代医学と同じく大麻を痛み止めや精神のケア、てんかんの治療、病人の食欲刺激などに使ってきたのです。人々は古くから、この植物の不思議な癒しの力を体験的に知り活用してきたのでしょう。
20世紀初頭まで、大麻は薬としてだけでなくロープ、帆、ボートの索具、衣類、紙などの材料として、重要視されました。その後、大麻が薬物として規制されるようになりますが、1960年ごろになると科学の進化とともに大麻のもつ薬理作用を探る研究が始まります。
現在、医療大麻が次第ポピュラーになりつつあるのも、この時代に大麻に含まれる個別の成分を特定する研究が基礎になっています。現在、大麻草に含まれる生理活性成分カンナビノイドは104種類見つかっており、他にも生合成で生成される成分であるテルペンなどが合わさると、数百種類に及ぶことが分かっています。
カリフォルニアが火付け役、現代の医療大麻ブーム
60年代の大麻の研究、そして1970年代のベトナム戦争を経て、アメリカでは医療大麻の再評価が始まりました。がん治療や、がんの化学療法の副作用を抑えたり、てんかん、クローン病、慢性疼痛、うつ病、不眠症、エイズの症状緩和など、様々な疾患に対する医療大麻の有効性が研究されはじめます。
そして1996年になり、米カリフォルニア州が医療大麻の合法化を施行し、患者が医師の処方に基づいて大麻を利用できるようになります。そのきっかけは、1996年に行われた「プロポジション215」として知られる住民投票でした。この投票は約56%の支持を受け可決され、カリフォルニア州では医師の推薦を受けた患者が合法的に医療大麻を使用できるようになりました。
その後カリフォルニアの成功を受け、他の州でも医療大麻の合法化に向けた動きが始まりました。現在では全米50州のうち、40州近くが医療大麻を認可しています。
お隣のカナダも、2001年に医療大麻の合法化を実施し、国際的な注目を浴びました。そしてアメリカより早く、2018年に嗜好用大麻についても合法化を行っています。
医療大麻のもう一つのメリット
米国では現在、鎮痛剤オピオイド の中毒者を減らすために医療大麻を導入する動きもみられます。このオピオイドをめぐる社会問題は、アメリカ合衆国を中心に始まり、2000年代初頭から大きく問題視されるようになりました。処方薬のオピオイド(麻薬性鎮痛薬)の乱用や依存が急増し、それに関連する過剰摂取や死亡事故が急増したのです。
原因の一部は、医師が患者にオピオイドを広く処方してきたこと、製薬会社がこれらの薬物を過度に宣伝したこと、そして中毒性が高いことなどが挙げられます。
またこの処方薬の乱用から非合法な薬物(例:ヘロインやフェンタニル)の使用につながるケースもあり、多くの人々がオピオイド中毒に苦しんでいます。この「オピオイド危機」の拡大に伴い、医療大麻の使用がオピオイド鎮痛薬の代替療法として注目されました。
特に精神作用のない大麻成分のCBDは、依存性がなく優れた鎮痛効果があることから、とても注目を浴びています。怪我の多いプロスポーツ界でもオピオイド 中毒で苦しむ選手が多く、メジャーなプロスポーツ団体でも、大麻成分CBDを痛み管理に使うことを認める団体が増えています。また怪我の痛みだけでなく、トレーニングやプレイ後の筋肉の炎症を抑えてくれる効果もあるため、リカバリーケアとしてCBDを愛用したり、自らブランドを立ち上げるスポーツ選手も増えています。
世界に広まる医療大麻ブーム
最近ではヨーロッパでも大麻医療が広まり、アジアでもタイ王国が医療大麻を合法化したり、他のアジア諸国でも医療大麻を考える動きが出ています。
医療大麻は慎重に規制されるべきであり、法律の中でどう扱うかの整備が不可欠です、しかし日本など一部の国々では、大麻に対するネガティブなイメージや以前の法律による厳しい規制が、医療大麻の広がりを妨げています。
医療大麻を広げるには、まだたくさんの困難が残っていますが、病気の人たちが治療を期待されています。
<参考資料>