動物園の動物たちの治療に大麻由来成分のCBDが導入されています。どのように利用されているのでしょうか。
動物たちの救世主?
最近、医療大麻が注目を集め、その応用がますます広がっています。この動きは動物園の動物たちの健康管理にも大きな変化をもたらしています。医療大麻は、さまざまな病気や不調に苦しむ動物たちの新しい治療法として動物園での治療に一部導入されるようになりました。
例えばコロンビアのカリ動物園にいるベンガルトラ「カヌ」は、がん腫瘍を摘出した後の炎症と痛みを抑えるために、大麻成分を染み込ませた魚を与えられました。メキシコの野生動物園では、足に慢性痛を抱えるアジアゾウが大麻由来成分CBDを使った治療を受けています。
ワルシャワの動物園ではストレス問題を抱えるアフリカゾウにCBDが与えられました。
こうした大胆な治療により、動物たちの痛みが軽減され、食欲が増し、病気で減少した体重が増えるなど、良い結果が報告されています。
医療大麻が動物にも人間に効くしくみ
医療大麻は、大麻草に含まれる物質であるカンナビノイドを治療に活用することを指します。カンナビノイドは、大麻草に含まれる化学物質の総称で、100種類以上の成分が含まれています。特に有名な成分にはTHC(テトラヒドロカンナビノール)やCBD(カンナビジオール)があり、医療に広く利用されています。
これらのカンナビノイドは、体内の神経伝達システムである「エンドカンナビノイドシステム」に作用します。このシステムは、体のバランスを調整する役割を果たしており、痛み、炎症、気分、睡眠、食欲などの様々な機能の調節を担当しています。
エンドカンナビノイドシステムは、人間だけでなく動物にも備わっています。そのため動物医療においても痛みの緩和、炎症の抑制、食欲増進、不安緩和などの効果が期待できるのです。
医療大麻の効果とは?
主要なカンナビノイドとして知られるTHCとCBDの作用には以下のようなものがあります。
THC
- 主な作用:精神活性作用、酩酊感、多幸感、リラックス効果、鎮痛効果、食欲増進効果、吐き気の抑制など
- 作用部位:脳内のCB1受容体
- その他:
⚪︎ 記憶力や集中力の低下、不安感や被害妄想のような副作用が起こることもある
⚪︎ 日本を含め違法薬物に指定されていることが多い
CBD
- 主な作用:抗炎症作用、抗不安作用、抗てんかん作用、鎮痛効果、吐き気の抑制など
- 作用部位:CB1受容体とCB2受容体
- その他:
⚪︎ 精神活性作用はなく、THCのような酩酊感は起こらない
⚪︎ 日本ほか多くの国で合法とされている
2018年に米国で承認された抗てんかん薬「エピディオレックス」と、多発性硬化症(MS)の治療薬として知られる「サティベックス」のように、すでに大麻由来の医薬品も製造・販売されています。
THCは精神作用を引き起こすため、日本を含め多くの国で規制されていますが、必ずしも「危険・有害」な物質というわけではありません。実際に、使い方によっては化学薬品よりも副作用が少なく、優れた効果を発揮することもあります。多発性硬化症(MS)や重度のてんかんなど、従来の治療法では効果が得られなかった難病の症状に対して、THCが有効な治療法となったケースも報告されています。さらにTHCの持つ食欲増進の効果は、がんの化学療法やHIV/AIDSなどの治療によって吐き気に悩まされ食欲が低下した患者にとって重要です。THCを使用することで、食欲が増し栄養摂取量が改善されることが期待されます。
動物園における実用例
トラやゾウのような大型の哺乳類だけでなく、犬、ネコ、フェレットなどのペットの世界でも医療大麻は活用されています。特にメキシコでは、獣医師たちが動物用大麻の研究をリードしており、痛み、炎症、不安症などの治療に成功しています。
人間においても動物においても安全性の高いとされる抽出成分CBD(カンナビジオール)は、飼い主の生活の変化、引越しなどの環境の変化によって不安症状を訴えるペットや、リウマチ・関節炎・皮膚病・アレルギーなどの症状に悩むペットに与えられることも増えています。
また雷や騒音に怯えるペットを落ち着かせたり、てんかんの発作を抑えることに成功した例も数多く報告されています。一方のTHCはより取り扱いが難しく、データもまだ不十分であり、犬の場合は有害に働くケースもあると言われています。また大麻草自体は猫、犬、馬にとって有毒であることがわかっています。
CBDのみで使用する場合は一般的に安全とされていますが、すべての動物に効果があるわけではありません。またペットは人間よりも体が小さいため、投与量についてはは慎重に調整する必要があります。必ず獣医師に相談してから、適切な量を決め、少量から始めることを心がけましょう。
まとめ
医療大麻は、人間やペット、動物の生活の質を改善するだけでなく、従来の治療法だけでは効果が不十分な病気に対しても新たな希望をもたらすことがあります。しかし、医療大麻の使用には法的な制約や倫理的な問題がありますので、慎重に考える必要があります。
さらに、従来の医療と医療大麻の両方に精通した医師や獣医の数が不足していることも課題です。医師や獣医が医療大麻の適切な使用方法やリスクを理解し、患者や動物のケアに適切に対応できるよう、教育やトレーニングの充実が求められます。
<参考資料>