サステナブル農作物としてさらに注目が集まるヘンプ。米国政府は2022年2月、気候プロジェクトの一環として大麻研究への助成金支給を発表しました。
大麻研究への政府サポート
米国農務省のトム・ビルサック長官は2022年2月にサステナブルな作物生産に対して10億ドルのパートナーシップ提供を発表しました。これはバイデン政権によって提案された「気候21プロジェクト」の一環で「気候に配慮した商品のためのパートナーシップ(The Partnerships for Climate-Smart Commodities)」と呼ばれるプログラムです。気候変動問題に優しい農業を支援するのが目的で、費用効果の高いビジネス・研究への取り組みに対し助成金を支給し、中小企業、 非営利および営利組織そして高等教育機関などをサポートします。
ビルサック長官は、ペンシルヴァニア州リンカーン大学に併設されている産業用大麻の研究機関LUヘンプ・インスティテュートを訪れ、建築材料、衣類、医療など様々な産業利用ができるヘンプについて「とてつもない可能性を秘めている」とコメントしました。
サポート対象となるプロジェクトは国発行の「気候スマート)Climate-Smart)」認定を受ける可能性があり、ビジネスとして高い利益を得ることができるメリットも生まれます。
アメリカ大麻栽培の歴史
開拓時代時代のアメリカでは生活に必要な布やロープ、紙などを作るための大切な作物としてヘンプ栽培が盛んに行われていました。農園主としてバージニア州で育った初代大統領のジョージ・ワシントンも麻を栽培しており、大麻がタバコよりも収益性の高い作物になる可能性があると予測し、大統領就任後には国民にもヘンプ栽培を奨励していました。
しかし1937年マリファナ税法の導入により、大麻草(ヘンプ)やマリファナ栽培・使用が犯罪化されました。その理由はアメリカ国民を麻薬中毒や依存から守るためですが、移民への人種差別や1933年の禁酒法廃止後のビジネスの思惑によって生まれたものだという説もあります。1970年には、大麻草に含まれる向精神作用のある成分THCの量によらず、すべての大麻植物がひとまとめに違法とされ、ヘロイン、LSD、エクスタシーと同じように危険ドラッグとして取締りを受けることになりました。
そんな米国が現在、規制緩和へと傾いているのには大きく3つの理由があります。
①ヘンプの産業利用にビジネスチャンスを見出している(利益性が高い)
②気候変動問題の緩和に役立つ産業作物である
③大麻成分が個別に詳しく解析され、医療大麻の可能性がさらに広がっている
現在ではネガティブな印象も徐々に薄れてきており、呼び方も犯罪や人種差別と関連づけて使われることが多かった「マリファナ」から、よりニュートラルな響きのある「カンナビス 」などに変わってきているようです。
CO2吸収量は森林の数倍
ロープや麻袋の原料としてヘンプが栽培されてきたことからも分かるように、ヘンプは丈夫な繊維を生み出します。また現在では大麻繊維をさらに加工して生分解性プラスチックや建材用のヘンプ製コンクリート「ヘンプクリート 」を生産することもできます。
これらの素材は石油のように枯渇してしまうことがなく、繰り返し生産できるのが大きなメリットです。また廃棄された後は生分解されて土となり土壌を汚染しません。またヘンプはとても成長が早く、耕地面積あたりの生産量が高くなる上、成長過程で大気中のCO2を吸い取ってくれます。その吸収率は森林の数倍になるといいます(※)。気候変動問題を改善する作物としても注目されているのです。
※英国ケンブリッジ自然材料イノベーションセンターによると「産業用大麻は、1ヘクタールあたり8〜15トンのCO2(1エーカーあたり3〜6トン)のCO2を吸収すると言われています。
麻の健康効果
大麻草は近年、医療界やウェルネス業界でも注目されています。大麻にはカンナビノイドと呼ばれる100種類以上の生理活性物質が含まれており、病気治療や健康促進効果が知られるようになりました。中でも副作用が少なく健康効果の高い成分CBD(カンナビジオール)と、医療効果だけでなく精神高揚や多幸感を引き起こす作用を持つTHC(テトラヒドロカンナビノール)がよく知られている2大成分です。
これらのカンナビノイドは人の体内に存在するエンドカンナビノイドシステム(ECS)と呼ばれる、体内のバランスを整える機能に働きかけることでその効果を発揮しますが、リラックスや炎症緩和・痛み緩和などに役立つほか、重度のてんかん患者のための治療薬にも利用されています。また海外ではがん患者の化学治療の副作用を抑えたり、痛みを鎮める緩和ケアに処方されたりすることもあります。また症状緩和だけでなく、ある種のがんにとっては治療効果があるという研究もあり、ますます期待が高まっています。
米国では大麻への認識も大きく変化し、嗜好大麻が合法化されている州ではアルコールの代わりに「健康的なチョイス」として大麻成分のCBDやTHCの入ったノンアルコール・ドリンクを楽しむ人も増えています。
まとめ
ミシガン州ではすでに除草剤、農薬、殺虫剤の使用を減らした農業を目指す、ヘンプを使用する土壌改善プログラムに助成金が授与されています。
ヘンプ農家が増えるにつれ、より多くの種類のヘンプを栽培できるよう、産業用ヘンプに含まれるTHCの上限を現在の0.3%から1.0%に引き上げる法案も現在議会で導入されています。世論の流れが変わったことで、サステナブル作物に格上げになった産業用ヘンプ。今回の助成プログラムで進歩はさらに加速しそうです。
<参考資料>
LUインスティチュート
https://bluetigerportal.lincolnu.edu/web/hemp-institute/home
https://hemptoday.net/ag-secretary-gives-a-nod-to-hemp-in-announcing-1-billion-in-climate-grants/