米国では大麻合法化が進んでいます。良質の大麻が生産されるにつれ、オーガニック栽培にも注目が集まるようになりました。肉や野菜と同じく高品質でエコな生産を行うために、どのような努力が行われているのでしょうか。
消費者への差別化
大麻とその成分を使った医薬品やウェルネス製品の開発に、大きな関心が寄せられています。とくに米国では50州のうち約15州が大麻を合法化しており、この動きは年々拡大しています。大麻や大麻製品のユーザーが増えたため他の商品との差別化を図り、かつ安全な商品を提供するためにもオーガニック大麻が注目されるようになっています。
オーガニック大麻を栽培するためには、人工肥料、農薬、殺菌剤、遺伝子組み換え種子、または成長調節剤といった大量生産に使われる化学物質を基本ゼロにすることが求められます。またそれらを補うために天然肥料や温度調節、害虫駆除といった細やかな作業が必要になります。
多くのオーガニック大麻農家は堆肥の活用など古くからある農業技術を活用しています。これは最近では「リジェネラティブ農業」や「環境再生型農業」も呼ばれており、土壌の有機物を増やしつつ環境リスクを最低限に抑えるサステナブルな農法のことを指します。非オーガニック農家と比較すると収穫量が少なくなりますが作物としてのクオリティが上がり、土壌汚染や環境ガス排出など環境への負荷が少ないというメリットがあります。
米国における大麻のオーガニック認定は、米国農務省(USDA)や州ごとの独立団体などを通じて行われています。認定取得プロセスには、申請書への記入、レビュー、検査、コンプライアンス評価などが含まれ、全ての基準を満たした大麻だけが認定を受けることができます。2018年の農業改善法では大麻の生産を承認し、規制物質から大麻と大麻の種子を取り除きました。また米国農務省(USDA)では大麻生産に関するルールを明記したガイダンスが発行されています。
オーガニック麻のメリット
大麻は様々な分野に利用することができる万能作物です。米国では古くから繊維利用のため栽培が行われており、ネイティブアメリカンの儀式などにも利用されてきました。ヨーロッパから渡ってきた入植者の多くが大麻栽培を行い、荷馬車の覆いやロープなど様々な生活用品に使用しました。初代アメリカ大統領ジョージ・ワシントンや第3代大統領トーマス・ジェファーソンも大麻栽培を推進。1914年に印刷された10ドル紙幣は大麻製紙に印刷されており、馬車を引く大麻農家の姿が描かれています。
大麻は紀元前から栽培されてきたことでもわかる通り、他の作物よりも化学肥料、農薬、除草剤の量が少なくても元気に育つ丈夫な作物で、水も多く必要としません。このため産業利用だけでなく、土や水源にもメリットの大きい作物と言われています。また農地1エーカー(約4047平方メートル)に植えられた大麻は、成長の過程で10〜15トンのCO2、人間1人が1年間に排出するCO2の平均量に相当する量を吸収してくれます。
クリーンな大麻栽培を目指す
大麻産業で知られる米コロラド州でオーガニック栽培を行うHava Gardens(ハバ・ガーデンズ)の例をあげましょう。
ハバ・ガーデンズはコロラド州デベクにある大麻栽培事業で、州で最大の大麻栽培業者です。コロラド州は全米に先駆けて2014年1月から娯楽用大麻を合法化した大麻栽培の先駆エリア。もともと登山やスキーなどアウトドアスポーツのメッカであり、リゾート地も多いため観光地として有名でしたが、現在ではもう一つの名物「マリファナ観光」や大麻関連のフェスティバルでも知られるようになりました。
ハバ・ガーデンズではユーザーのニーズを見越して、早い時期からオーガニック栽培についてトライ&エラーを繰り返してきました。食品業界では近年、土を使わず室内の限られたスペースで効率的に農作物を生産する垂直農法(バーティカル・ファーミング)が盛んです。狭い場所に段重ねで栽培ボックスを設置し、AI技術を駆使して最適量の水分や温度調節を行う化学薬品を最小限に抑えた人気の農法ですが、麻は丈が高くなる植物のため、このタイプの垂直農法には不向きと言われています。
自然の力を上手に取り入れる
ハバ・ガーデンズでは土を使わないエアロポニックスなど様々な水耕栽培を試みましたが、納得のいく製品を生産するために、温室内で有機物と微生物が豊かな土で育てる昔ながらのオーガニック栽培に行き着いたと言います。化学肥料の代わりには海藻やアルファルファの粉末で土壌の質をコントロールしています。
温室栽培にはもう1つのメリットもあります。栽培者が太陽光の代わりに光源を提供しなければならない屋内バーティカル・ファーミングよりも、HVAC(暖房、換気、空調)と照明の使用量が少なくなり、CO2排出量も少なく済みます。
またハバ・ガーデンズでは温度調節のために冷却のために、冷媒を使用せず、湿った壁を使用して室内温度を冷却して室内の温度調節を行うなど様々な工夫を重ねています。
オーガニック栽培で重要なことの1つは害虫と対策です。例えば植物に寄生するセンチュウは土中にいて、作物の生育に大きな被害を及ぼします。土壌の成分をこまめにモニターする他、肉眼で植物を観察し、剪定を行い、風通しを良くするなど、こまめなケアで栽培が行われます。
まとめ
米国では多くの州で、医療大麻の栽培や利用が合法とされています。また麻由来のCBD(カンナビジオール)製品は連邦レベルで合法とされています。しかし現時点では連邦レベルでの大麻が合法ではないため、消費者の混乱を招いているケースもみられます。
繊維や建材利用だけでなく、医薬品やウェルネス・グッズとして使用されるヘンプがオーガニックになっていくことは嬉しいこと。サステナビリティが重視される現在、肉や野菜を選ぶ感覚で人々がオーガニック大麻の価値を知りサポートしていくことで、自然生態系も守られ、農家や地球環境も改善されていくのではないでしょうか。
<参考資料>