ストリートカルチャーに不可欠なアイテム、スケートボード。しかしボードの原材料となる木材は成長するまでには長い時間がかかり、樹木を大量伐採することで環境破壊も懸念されています。今回は丈夫でサステナブルな素材ヘンプを使ったスケートボードについて紹介します。
スケートボードが森林破壊の原因に?
カナダ産のメープルウッドで作られることが多いスケートボード。
このメープルウッドはカナダの国旗のデザインに使われており、メープルシロップの原液(樹液)が取れる木でもあります。木質はとても硬く丈夫なのが特徴で、スケートボードのデッキをはじめ家具、ボウリングのピンや楽器、野球バットなど様々な製品に加工されています。
しかしメープルの木が成長し成熟するには40〜60年と長い時間がかかります。樹木の成長スピードが現在の需要に追いつかず伐採だけが進み、森林破壊が指摘されているのです。北米カエデ森林破壊の最大の原因がスケートボード製造であることがTV番組「サイエンスチャンネル」で取り上げられ、話題になったこともあります。
メープルに代わる素材を探せ!
自動車業界では欧州で2030年ごろまでにEVに本格移行する予定があり、街や住宅地に数多くの充電ステーションが設けられるなどインフラ整備が進んでいます。これはガソリンなど限りある資源を浪費せず、持続可能性(サステナビリティ)の高い経済で社会を支えていくため。
スケートボードは自転車と同じようにガソリンを使わず環境に優しい移動手段の1つなのですが、材料に関していえば残念ながら完全にサステナブルであるとはいえません。車に比較すればその量は少ないものの、アルミニウムやポリウレタンなど様々な素材が使われており、その中には生分解のできない素材なども含まれています。
またデッキ用木材にも限りがあります。このためメープル材よりも生産量が高く、環境にダメージを与えない素材を使ったスケートボードの開発が求められてきたのです。
竹よりも広い地域で栽培できるヘンプ
そんな中で注目されたのが「竹」と「大麻」です。竹は5ヶ月、大麻は3ヶ月と栽培〜収穫にかかる時間が非常に短いのが特徴。強度の点でもどちらの植物もメープルに劣らないデッキができるとされています。
スケボーカルチャーが盛んな米カリフォルニアのメーカーBamboo Skateboard がすでに竹製ボードを使ったスケートボードの製造販売を始めています。竹製ボードデッキは軽量で、グラインドやトリックに対しても耐久性があり、複合材料へと加工できるため、多くの竹デッキは竹とグラスファイバーの混合物で作られています。
大麻の繊維を樹脂加工した植物性プラスチックは、金属にも負けないほどの強度が特徴です。竹材は熱帯地方で育ちますが、麻はヨーロッパやアメリカなどより気温が低めの地域でもよく育ち、その土地で栽培〜加工が可能になります。輸送コストやエネルギーも低く済むため、よりサステナブルといわれています。
大麻製スケボー・ブランドも登場
そして、この大麻=ヘンプの繊維を植物ベース樹脂で加工したスケートボードも登場しました。
Rolkaz Collectiveは、スケートボードで街をクルージングする楽しみと、持続可能性のある社会づくりを両立させることがビジョンの、スロベニア生まれのブランド。
ナチュラルな風合いを残したデッキはミニマルで都会的なムードで、ウェブサイトから世界のどこからでも購入可能です。デッキは植物ベースの樹脂と麻繊維、亜麻の種子の組み合わせからできており、スロベニア産の大麻を使用しています。全てが現地生産という点でも環境に優しいボードと言えるでしょう。
環境保護に大きな役割を果たすヘンプ
大麻のメリットは繊維の強さや成長スピードだけではありません。早く育つ分、同じ土地で同じ作物の栽培を年に数回行う二期作、三期作が可能になり、土地当たりの生産量が上がります。また根を土壌中に張りめぐらせるため、土壌を改善して成長過程で二酸化炭素をどんどん吸収し、森林の数倍も温室効果ガス吸収量が高くなるという研究結果も報告されています。
また作物によっては大量の農薬を必要とするため農業従事者が農薬を吸い込んでしまったり、農薬が流れ出た地下水を飲んだりして、健康被害を受けていることが問題視されています。大麻は害虫や病気にも強く農薬をほとんど必要としないため、土壌の汚染を防ぎ、人や環境へのダメージを防いでくれます。
また大麻から作られる建築用ボードは強度、断熱、防カビ性などに優れ、プラスチックやコンクリートの代用になります。
石油系プラスチック製品は廃棄された後、何百年も分解されずに自然の中に残り続け土壌や水を汚染しますが、麻製品は廃棄されても微生物に分解され土に戻ります。このためスケートボードだけでなく、大麻をベースにした植物性プラスチック製品や建材に大きな期待が寄せられているのです。
品質管理もしっかり
この産業用大麻=ヘンプは、嗜好品として喫煙されるマリファナの親戚です。しかし向精神作用、いわゆる「ハイ」の状態を生み出す成分テトラヒドロカンナビノール(THC)はほとんど含まれておらず、広く流通できるよう厳しい品質管理が行われています。
サプリメントで最近人気の成分カンナビジオール(CBD)も大麻に含まれる薬理成分の一つで、産業用大麻から抽出されます。このCBDはTHCと異なり向精神作用を引き起こさず、日本を含め多くの国で合法的に利用することができます。
スケートボード人口増加にも対応できる
フォードやメルセデス社などの自動車メーカーが一部ヘンプ繊維を用いて車のパーツを作ってきたのは自動車業界ではよく知られた話。ヘンプに対する人々の抵抗感が薄れて、よりサステナブルな素材として知られるようになった現在では、車だけでなく、ファッションや乗り物、楽器、時計、食品・ドリンクなどありとあらゆる商品がヘンプで作られるようになっています。
日本チームが脚光を浴びた五輪スケートボード競技によって、スケートボード需要が高まっているといいます。より多くの人がスケートボードを楽しめるよう、サステナブルを意識したブランドの普及が期待されています。
<参考資料>
Rolkaz Collective
https://rolkaz.co/