はじめに
丈夫で、環境適応性に優れた工業用ヘンプは、土地を選ばず、手間のかからないという特性を持っています。アメリカを始め各国でヘンプ栽培の解禁に伴い、様々な面でヘンプの付加価値を要求されています。ヘンプ栽培方法や遺伝子解析が進んでおり、効率的なバイオマスの取得に向けて様々な研究がなされているのと同時に、バイオマスの利用方法について広く研究されています。今回は、どこでも育てられるヘンプバイオマスの工業的な栽培について、地域差の影響がどれだけあるか、また、効率的に栽培できたときの利用法として、固形燃料としてのヘンプバイオマスの応用についてまとめてみました。
ヘンプバイオマス
まず、バイオマスにおいて重要となるのはその収量です。気候、地域、土地の良し悪しなど様々な理由で決められた期間、または、決められた面積辺りでの収量は異なってきます。そういった意味で、ヘンプは外部環境への適応能力が高く、様々な気候条件での栽培が可能となっています[1]。過去、30年間、産業用ヘンプの商業的な栽培はヨーロッパに集中していました。ここで研究されているヘンプの品種は北部型と南部型に大別することができます。北部型のヘンプは生育(開花)が早く、枝ぶりが丈夫で“種子”収量が多いのが特徴であるのに対して、南部型は生育(開花)が遅く、背が高く、繊維質やヘンプ自体の収量が多い傾向にあります。2020年のZhaoらの総説において、ヨーロッパにおけるヘンプバイオマスについてまとめてある[2]。表1に示すように、ヘンプのバイオマス収量(3.4~31.2 t/ha)には、主に環境条件、施肥量、植物密度、遺伝子型などによって大きなばらつきが見られました。例えば、Campigliaら[3]は、ヘンプのバイオマス収量が3.4~8.0 t/haの範囲で、植生期の期間と正の相関があることを報告しています。つまり、生育速度とバイオマス量は高い関係性が見つかったということです。彼らはまた、植物密度(同じ大きさの花壇にどれだけのヘンプを植えるか)が高くなるにつれてバイオマス収量が増加することを発見しました。Adamovicsら[8]は遺伝子の違いによって、バイオマスの収量に影響を与えることを報告しました。
表1.商業用ヘンプのバイオマス収量 [2]
Location | Biomass (t/ha, 乾燥重量) | 参考文献 |
Central Italy | 3.4–8.0 | [3] |
Southwest Germany | 5.2–12.8 | [4] |
Southern Sweden | 7.8–14.5 | [5] |
Southern Sweden | 9.9–14.4 | [6] |
Netherlands | 13.5–15.3 | [7] |
Latvia | 13.5–21. | [8] |
Central Italy | 13.1–26.3 | [9] |
Northern Italy | 28.6–31.2 | [10] |
このようにこれまでヨーロッパを中心に栽培されてきたヘンプについて、地域差や品種差でそのバイオマス量が大きく変わって来るのがわかったと思います。アメリカ、フランスなどでもヘンプ栽培に関して、解禁/法的緩和が行われており、これらの研究はさらに加速していくものと思われます。栽培そのものが詳しく調べられていくのと同時に、その後の使用方法まで考えていなければ、その分野の発展はありえないでしょう。今回はエネルギー源、特に、固形燃料に絞って話していきます。
ヘンプの固形燃料としての利用
ヨーロッパでは特にスウェーデンでエネルギー源としての栽培で一歩リードしています[11]。ヘンプバイオマスは成形木炭に加工し、固形燃料として現地で販売されています。嫌気性消化(AD)によるバイオガス生産や、発酵させてバイオエタノール生産[12, 13]、乾燥させて藁燃料を焼却して発電するプラントの設計も提案されています[11]。
ここで、成形木炭(練炭)について定義しておきます:
- オガクズなどを原料として、圧縮成形してから炭化
- 炭化後、接着材などを添加して成形したもの
今回話す、固形燃料とはこのヘンプから作られる成形木炭のことをいっています。更に言うと、今回の報告ではIの方法が採用されています。Pradeら[6]は、ヘンプといくつかのバイオマスのバイオマスエネルギー収量(biomass energy yield,BEY)を比較しました。計算方法についてはこちらの報告を参照して下さい[14]。古典的なカロリー計算(水の温度を何度あげられるか)とサンプル重量からエネルギーを計算しています。一般的にエネルギーの大きさを示すときにカロリーを使います。その結果、ヘンプバイオマスは、Suger beetやMaizeのような植物と同程度、そして、LucerneやClover-grass leyと比べてそれぞれ、24%、14%高い結果を示しました。また、小麦と比べて20%高いエネルギー収量を生産することができます。単純な植物からどれだけエネルギーを取り出せるかと言う計算ですが、生産から加工にかかるエネルギーを減らして、これまで使用しているバイオマスより多くエネルギー源を取り出せるということが重要になります。ヘンプはこれらの理由から、使用場所や使用時期に制限はあるとは思いますが、固形燃料としての利用というのは簡単に取り組める環境問題への対策なのかもしれません。
最後に
今回はヘンプを練炭などの固形燃料として利用する研究について紹介しました。これは何度も言っていることですが、ヘンプバイオマスは収量を期待できる数少ない植物であり、必要な農薬が少なく、雑草との競合が少なく、輸作に転換しやすいというメリットが大きいです。現在、固形燃料ではバイオ燃料で多く採用されているとうもろこしと同程度です。しかし、ガス化では高品質のバイオガスの生産は可能ですが、収量が足りず、ガス燃料の価格は商業向きではなりません[15]。これは将来的にこのエネルギー収率が向上することで、とうもろこしなどと競合できるポテンシャルを持っているということです。未だ制限の多い作物ではありますが、研究の進捗によっては、さらに一般的になると思います。
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参考文献
[1] González-García, S., et al. “Life cycle assessment of raw materials for non-wood pulp mills: Hemp and flax.” Resources, Conservation and Recycling 54.11 (2010): 923-930.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0921344910000297
[2] Zhao, Jikai, et al. “Bioconversion of industrial hemp biomass for bioethanol production: A review.” Fuel 281 (2020): 118725.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S001623612031721X
[3] Campiglia, Enio, Emanuele Radicetti, and Roberto Mancinelli. “Plant density and nitrogen fertilization affect agronomic performance of industrial hemp (Cannabis sativa L.) in Mediterranean environment.” Industrial Crops and Products 100 (2017): 246-254.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0926669017301255
[4] Scheliga, Maria, et al. “Yield and quality of bast fibre from Abutilon theophrasti (Medic.) in southwest Germany depending on the site and fibre extraction method.” Industrial Crops and Products 121 (2018): 320-327.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0926669018304254
[5] Svennerstedt, B., and G. Sevenson. “Hemp (Cannabis sativa L.) trials in southern Sweden 1999-2001.” Journal of industrial hemp 11.1 (2006): 17-25.
https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1300/J237v11n01_03
[6] Prade, Thomas, et al. “Biomass and energy yield of industrial hemp grown for biogas and solid fuel.” Biomass and bioenergy 35.7 (2011): 3040-3049.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S096195341100208X
[7] Struik, P. C., et al. “Agronomy of fibre hemp (Cannabis sativa L.) in Europe.” Industrial crops and products 11.2-3 (2000): 107-118.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0926669099000485
[8] Adamovics, A., S. Ivanovs, and V. Stramkale. “Investigations about the impact of norms of the fertilisers and cultivars upon the crop capacity biomass of industrial hemp.” Agron. Res 14.3 (2016): 641-649.
https://www.semanticscholar.org/paper/Investigations-about-the-impact-of-norms-of-the-and-Adamovi%C4%8Ds-Ivanovs/9c3598fed2105f3ccbce65defbf20d1832b1603b?p2df
[9]Ascrizzi, Roberta, et al. “Valorisation of hemp inflorescence after seed harvest: Cultivation site and harvest time influence agronomic characteristics and essential oil yield and composition.” Industrial Crops and Products 139 (2019): 111541.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0926669019305527
[10] Cappelletto, Pietro, et al. “Italy-grown hemp: yield, composition and cannabinoid content.” Industrial Crops and Products 13.2 (2001): 101-113.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0926669000000571
[11] Sundberg, Martin, and Hugo Westlin. “Hampa som bränsleråvara: en förstudie.” (2005).
https://www.diva-portal.org/smash/get/diva2:959522/FULLTEXT01.pdf
[12] Heiermann, Monika, et al. “Biogas Crops-Part I: specifications and suitability of field crops for anaerobic digestion.” Agricultural Engineering International: CIGR Journal (2009).
https://cigrjournal.org/index.php/Ejounral/article/view/1087
[13] Sipos, Bálint, et al. “Steam pretreatment of dry and ensiled industrial hemp for ethanol production.” Biomass and Bioenergy 34.12 (2010): 1721-1731.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0961953410002084
[14] Lyons, Gerard J., Frank Lunny, and Hugh P. Pollock. “A procedure for estimating the value of forest fuels.” Biomass 8.4 (1985): 283-300.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/0144456585900617
[15] Prade, Thomas, Sven-Erik Svensson, and Jan Erik Mattsson. “Energy balances for biogas and solid biofuel production from industrial hemp.” Biomass and Bioenergy 40 (2012): 36-52.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0961953412000657