現代の環境に係る潮流から、ペーパーレス化や二酸化炭素排出量をどうにかコントロールしたい、水資源を大切にしたい、という声が伺えます。すべてを早急に改善することは難しいかもしれませんが、紙の原料や環境保全の役割を麻植物が担うことができれば、何十年、何百年とかけて形成された自然を壊すことなく、限りある資源の中で社会生活することを手助けすることができるかもしれません。
環境保全の重要性
環境が破壊されたあとの保護、または、自然のたくさんある土地を作る、というのは果てしない労力とお金がかかります。実用的に問題がないのであれば、どのような植物から紙を作るのか、バイオマスをどう利用していくかが重要となります。麻植物は、そういった意味で有望な植物であることに間違いありません。例えば、南方熊楠は、「世界中で自然公園を作る機運が上がっており、たくさんのお金をつぎ込んでいるのに、なぜ森林伐採をするのだ」と書簡を政府に送っています。南方熊楠は世界中で知られている科学者です。世界最高峰の科学雑誌Nature誌に51篇の論文を投稿し、一研究者の論文投稿者として歴代最多となっています。これには、1906年末に配布された神社合祀で神社整理をして、小さい神社をたたむ時に(正しい言い回しがわかないので「神社をたたむ」と表現しています)、周りの森林を伐採した歴史的経緯があります。この際、南方熊楠は政府とつながりのあった民俗学者柳田國男に助けを求め、最終的に自然保護に成功しています。この運動はエコロジーの重要性を説いた先駆けとなっており、和歌山県から三重県につながる熊野古道の世界遺産登録にもつながっています。ピーターラビットの著者として有名なビクトリア・ポーターは「イギリスの湖水地方」の環境保護のために、4000エーカーの土地を一括で購入し、2017年の世界遺産登録に大きく貢献しています。
環境保全としての麻植物の利用
麻植物の環境保全機能に注目すると、二酸化炭素吸収速度が速いこと、水中の燐や窒素の吸収量も大きいことも加えて、注目されています。カドミウムを吸収したり[引用1、2]、除草剤を吸収して地下水を保全したり[引用3]、そして、麻の光合成能がたかいことも科学的に調べられています[引用4、5]。そして、その後のバイオマスとして利用できる部分が多いことから[引用6]、注目の材料です。ちなみに、ここで出るバイオマスとは、植物から生産された、再生可能な有機性の資源です。ここで、石油をはじめとする化石燃料は除きます。例えば、木材や海藻がそれの量からこれらふたつを指すことが多いですが、生ゴミ、動物の死骸や糞尿、プランクトンなども同様にバイオマスです。なにより、どんなところでも栽培できるのと、一年生植物であるため、その後農地利用可能という利点があるわけです。
ヨーロッパでの取り組み
このような背景から、ヨーロッパでは2015年には2万ha以上で栽培されています。
また、麻植物の再生可能素材の市場の統合および拡大するために、EUの資金を受けたMultihempプロジェクトの中で研究の経過報告や研究になどについての情報が得られます[引用7]。
日本での取り組み
例えば、ケナフのような麻植物は成長速度が著しく速く、また単位面積当たりの繊維生産量も多いため、空気中の二酸化炭素を吸収する量が多く、温室効果を緩和させ地球温暖化を抑制すると考えられています。ケナフは1990年代より日本で利用されることになりました。北川石松環境庁長官が森林保全とパルプ資源として紹介したことに始まります。つまり、栽培しやすいケナフをパルプ資源として使用することで、森林伐採を削減しようという狙いがあるものと考えられます。その後、葉書や国体での賞状、包装紙への利用が拡大してきました[引用8]。事実、ケナフの部位ごと利用用途は下図のように、多岐に渡ります。
カーボンニュートラルの重要性
現代の環境問題を語る際に、カーボンニュートラルという考え方が重要となります。皆さんは石油製品を燃やすと二酸化炭素が排出されるというのはもう反射的に答えられると思います。この二酸化炭素は石油製品と植物を燃やした際に発生する場合それぞれで異なったものなのです。植物は太陽光と二酸化炭素によって光合成して、酸素を出すと小学生のときから習ってきています。しかし、カーボンニュートラルではこの酸素より、二酸化炭素に含まれる炭素はどこに行ったかということに重きを置いています。光合成によって、二酸化炭素→セルロースをはじめとする糖の材料となります。糖は体を構成するセルロースから生きるエネルギー源としても利用されます。つまり、大気中の二酸化炭素を使って、体や栄養にするということです。これを二酸化炭素固定化といいます。植物の体は二酸化炭素からできており、それを燃やしても、大気中の二酸化炭素は増えません。これをカーボンニュートラルという概念です。例えば、コンクリートの補強剤としてりようすることで、断熱性や難燃性の向上が知られています。ちなみに、麻で補強したコンクリートを「hemp-lime」といいます。二酸化炭素を固定化した麻を、そのまま、コンクリートの補強剤として利用されることで、環境保全することができます。このカーボンニュートラルにおいても、麻植物が重要な役割をすると期待されています。
まとめ
以上より、麻植物はその二酸化炭素吸収能や浄化作用から空気清浄機のような役割のみならず、植物特有の光合成も効率的に行い、パルプ材料としての潜在的な可能性を秘めており、森林保護や環境保護に非常に有用であることがわかった。また、バイオマスとしての利用できる点も有用な点です。
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引用元
https://link.springer.com/article/10.1007/s11738-009-0312-5
https://link.springer.com/article/10.1007/s10535-005-0051-4
https://acsess.onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.2134/jeq2006.0526
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/gcbb.12451
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1161030114800221?via%3Dihub
sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0926669016302436?via%3Dihub
http://multihemp.eu/
https://www.jstage.jst.go.jp/article/senshoshi1960/41/9/41_9_730/_pdf/-char/ja