はじめに
最近では、3Dプリンターのことを聞いたことある人がどんどんと増えているのではないでしょうか。今回はヘンプと3Dプリンターの技術的な融合についてお話しします。カップを作るという一般的な使い方とヘンプを食品・飲料として利用するときに3Dプリンターを用いてどのようなことができるのでしょうか。
ヘンプと3Dプリンター
最近、3Dプリンターで家を建てるなど、キャッチーなニュースを耳にして、なかなか現実的なものなのかどうかと判断が難しいと思います。しかし、現在ではサイズ、製作速度、値段など、手に届くようになってきたと思います(ベンチトップの3Dプリンターであれば、Amazonや楽天などを利用して気軽に購入も可能です)。そして、今後まだまだ発展する分野だと言われています。3Dプリンターと言っても、製作方式がいくつかあるのですが、成形加工の簡易性から溶融積層型の研究がよくなされています。そして、一般向けに販売されている3Dプリンターもこの溶融積層型の方式が採用されています。理由は簡単で、レーザーなど使わず、熱しか製作に使用しないので、小型化が容易であるとともに、プラスチックは熱をかけると変形するので自由に自分の好みの形に成形できるというのが特徴です。これまでの課題はフィラメントについて、マトリックス部分(製作したものの材料)が脆かったり、成形が困難でした。今回は、この溶融積層型の3Dプリンターの方式でコップを作ることに加えて、おそらく粉末固着方式によって食品に利用していると思います。粉末固着方式では、粉末と接着剤を交互に粉末して立体的に製作します。
ヘンプフィラメントの利用
ヘンプフィラメントといっても100%ヘンプという話ではありません。ポリ乳酸(PLA)と呼ばれる生分解性プラスチックを混ぜた材料をフィラメントとして用います。PLCそのものよりも機械的特性が向上したことを前回報告しました。そのため、ヘンプを混ぜることでその分のPLAの使用量が減るために、環境に優しいという側面もあります(微生物からつくったり、自然界にもPLAがありますが、合成PLAの生産量がほとんどです)。例えば、米国とアイルランドに拠点を置くフィラメントプロバイダーの3D Fuel社[1]は、環境に優しい麻のフィラメントを発売しました。リサイクルコーヒー、ビール生産のおける廃棄物、ヘンププラントを混合したプラスチック[2]から作られており、標準的なPLAフィラメントの設定を使用して、どのPLA対応機でも簡単に印刷できるように製造されています。これはすごいことで、フィラメントの材料を変えたり、混ぜ物を変えると、粘性(ネバっこさ、水より蜂蜜は粘性が高い)や極性(ここでは、部品とのくっつきやすさ、部品とべったりくっついて、エラーがでたりします)。一般的には、温度を上げて、サラサラの溶融物にするか、特殊な部品に変更したりします。この一般的に使用するフィラメントであるPLAと同じ設定で済むということが、すごい利点なんです。同様に、3D4MAKERS[3]は、”層間の接着性に優れたヘンプベースのフィラメント[4]をリリースしたと報告されています。一方、ノースダコタ州を拠点とする素材メーカーの3Domは、バイオコンポジット企業のc2Renewと提携し、同社の「Entwined」フィラメントを開発しました。カナダのマニトバ州近くで栽培された麻を使用して製造されたこの印刷材料は、染料を使用しておらず、PLAに似た特徴を持っていると言われています。
3Dプリンターでのヘンプの利用
元プロボクサーのマイク・タイソン氏の所有する食品会社が食用ヘンプの3Dプリントのグローバルライセンスを取得しました。まず、こんなライセンスがあったのかということに驚きですが、この記事の内容は非常に面白いです[5]。マイク・タイソン氏が飲料メーカーSmart Cups社と連携し、自然由来のエキスを使った添加剤の開発をしているというものです。水をカップに入れるとカップ内側表面の表明添加剤が溶けて、清涼飲料水を作るという面白いコンセプトです。
マイク・タイソン氏は「自社(The Ranch Companies)にとって、この革新的な技術で可能なことは何でも可能にする機会を与えてくれるので、スマートカップの技術と一緒に仕事ができることは非常にエキサイティングなことです。(“For The Ranch Companies, it is very exciting to be working with Smart Cups’ technology, because it gives us the opportunity to make anything that is possible with this innovative tech,”)」と興奮気味に話しています。
こちらがイメージ動画です[6]。
https://www.youtube.com/watch?time_continue=121&v=-HPskADgS3E&feature=emb_logo
カリフォルニア州に拠点をおくSmart Cups社はあらゆる種類の飲料をあらゆる表面に印刷できる、と主張しています。水を加えるだけでいろんな味の飲料を楽しめるという斬新なコンセプトを持っています。海外ではわかりませんが、添加剤でジュースを作るというのは、ポカリスエットやエネルゲンの粉末でスポーツドリンクを作ったりしている我々からするとそう不思議なコンセプトではありませんが、3Dプリンターで表面に添加剤を印刷しちゃうっていうところがすごいですね。
Smart Cups社は商業的な価格競争や大量に用意できる、安全性、水溶性という点から食用ヘンプに注目しています。そして、この表面に印刷された添加剤(ヘンプ+フレイバー)は液体(水、炭酸水、唾液)に触れると放出されるよう設計されています。フレイバーの供給を出荷したり維持したりする必要がなく、生分解性のカップを使用することで、Smart Cupsの技術は環境に優しい市場にアピールしています。
この点は本当にすごいポイントです。カップだけを運ぶだけですから、液体がない分非常に軽いです。そのため、たくさん積み込むことができますし、軽ければ、使用するガソリンなど燃料の使用量が減るわけです。そして、カップ自体も生分解性のプラスチックを使用することで、環境にやさしいという、素晴らしいコンセプトです。
最後に
ヘンプフィラメントを使用した3Dプリント製品は非常に有用です。それだけではなく、ヘンプフィラメント食品分野においては、マイク・タイソン氏が斬新なアイディアでヘンプの使用を加速させそうです。
環境問題において、輸送機器の省エネを食品・飲料メーカーから取り組んでいくというのは素晴らしいことだと思います。
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引用元
[1] https://www.3dfuel.com/
[2] https://3dprintingindustry.com/news/coffee-beer-hemp-filaments-now-thing-91530/
[3] https://www.3d4makers.com/
[4] https://3dprintingindustry.com/news/bioplastic-hemp-filament-3d-printing-biodegradable-compostable-biobased-3d-objects-76583/
[5] MIKE TYSON HAS HIGH HOPES FOR 3D PRINTED CANNABIS DRINK, Paul Hanaphy,. https://3dprintingindustry.com/news/mike-tyson-has-high-hopes-for-3d-printed-cannabis-drink-173720/
[6] Smart Cups: Change the Way You Drink, https://www.youtube.com/watch?time_continue=121&v=-HPskADgS3E&feature=emb_logo