日本人と麻とのかかわりは、縄文時代にまで遡ります。衣類だけでなく、生活用品や食料など、日本人の暮らしを支えるために、大いに利用してきました。戦前までは、日本全国で栽培され、日本人の身近にありました。
そんな麻ですから、麻にまつわる熟語やことわざ・慣用句もたくさんあります。ここでは、その一部をご紹介しましょう。
「麻」という漢字について
「麻」がつく熟語やことわざ・慣用句をご紹介する前に、まず、「麻」という漢字について見てみましょう。
「麻」は、11画の常用漢字で、中学校で習います。訓読で「あさ」、音読で「マ」と読みます。名前にも使える漢字です。ちなみに、名前に使える漢字とは、常用漢字表と人名用漢字表に掲げられた漢字をいいます。
部首の「まだれ(麻垂れ)」の中の「林」は、「あさの表皮をはぎとる」ことを表す象形文字です。「林」の部分だけで、もともと植物の「あさ」を表していました。部首の「まだれ」は、建物の屋根を表し、合わせて、建物の中で(屋根の下で)、植物の「あさ」をほぐしている様子を表しています。
「麻」のつく四文字熟語
「麻」のつく四文字熟語の代表的なものをご紹介します。
快刀乱麻(かいとうらんま)
快刀乱麻とは、さまざまに複雑に絡み合った問題を、もつれた麻糸を鋭利な刃物で断ち切るように、鮮やかに解決することをいいます。次章でご説明する「快刀乱麻を断つ」の略です。
「中国南北朝時代、北斉の高祖・高歓(こうかん)は、我が子それぞれの判断力を試そうとして、一人ずつに絡まった糸の塊を渡し、元に戻すように命じました。その時、高洋(こうよう)=のちの文宣帝だけは、刀を抜いてこれを斬り、『乱れたものは斬らなくてはならない』と言いました。これを高祖はよしとしました。」という「北斉書(ほくせいしょ)」の「文宣帝紀(ぶんせんていき)」が出典です。
麻姑掻痒(まこそうよう)
この四文字熟語をご存じの方、日常的に使われているという方は少ないかもしれません。
麻姑掻痒の意味は、物事が思い通りになることを言います。つまり、痒いところに手が届くことです。逆の言葉として、「隔靴掻痒(かっかそうよう)」は聞かれたことがあるでしょう。こちらは、靴の上から掻くように、はがゆくもどかしいことを言います。
麻姑掻痒の「麻姑」とは、中国伝説上の仙女で、鳥のような長い爪を持っているので、かゆいところを掻くのに適していると言われています。ちなみに、背中を掻く道具の「孫の手」は、孫ではなく、麻姑から来ています。
稲麻竹葦(とうまちくい)
植物の稲(いね)、麻(あさ)、竹(たけ)、葦(あし)が同じ場所に群がって生えている様子から、物がたくさんあることや人や物がたくさん集まっている様子を言うたとえです。
「多く人堂に参り集まりて、稲麻竹葦の様に侍りける」という「法華経」「方便品」が出典です。
麻中之蓬(まちゅうのよもぎ)
ふつうは曲がりくねって育つことの多い蓬も、まっすぐ育つ麻の中で育てるとまっすぐに育つということから、悪いものもよい環境の中では、良い方に正されるという意味です。
「荀子」の「勧学」の中の、「蓬も麻中に生ずれば、扶けずして直し」が出典です。
荀子は、この言葉の後に、「君子は必ず土地を選んで居を定め、優れた人物とだけ交わる」と続けています。なるほどでね。
「麻」のつくことわざ・慣用句
続いて、「麻」のつくことわざ・慣用句の一部をご紹介しましょう。
麻殻(あさがら)に目鼻をつけたよう
麻殻とは、麻幹とも書き、皮をはいだ麻の茎のことで、おがらとも言います。白くて軽く、折れやすいです。お盆のお供えの箸や送り火に使う地方もあります。
そのように、細くて折れやすいので、とてもやせた男性のことをいいます。「箸に目鼻」や「骨皮筋右衛門」という言葉もありますね。
麻の如し(あさのごとし)
麻糸がもつれ乱れるように、世の中の状態などがひどく乱れていることをいいます。もつれている状態を、麻を使って表す言葉のひとつです。
「天下麻の如く乱れる」などの使い方をします。
快刀乱麻を断つ(かいとうらんまをたつ)
「麻」のつく四文字熟語の「快刀乱麻」と同じ意味です。
快刀とは、切れ味の鋭い刀のことで、乱麻はもつれた麻糸のことです。よく切れる刀でもつれた麻の糸を見事に断ち切ることをいいます。もつれた麻糸のように複雑にこんがらがった問題や事態を、きっぱり解決することです。
快刀を怪盗と書く人がいますが、間違いです。
麻の中の蓬(あさのなかのよもぎ)
これも、四文字熟語の「麻中之蓬」と同義です。
「荀子」「勧学」の「蓬麻中に生ずれば扶(たす)けざるも直し」からで、蓬のように曲がりやすいものでも、まっすな性質の麻の中に入って育てば曲がらずに伸びるということで、人は、善良な人と交われば、自然に感化を受け、だれでも善人になるというたとえです。
まとめ
「麻」という漢字を使った四文字熟語やことわざ・慣用句を集めました。日常的に使うものもあれば、見慣れないもの、聞きなれないものもあったかもしれません。
熟語やことわざ・慣用句がたくさんあるということは、日本人の暮らしに、麻がいかに溶け込んでいるかの証です。また、中国の故事にちなむものを多く、世界中で麻が身近なものであったことを証明しています。
まだまだ他にもあるかもしれませんので、お子さんと一緒に探してみるのも面白いですね。
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引用元
子の名に使える漢字:http://www.moj.go.jp/MINJI/minji86.html
麻の意味は?:https://ichigoichina.jp/kanji/11/%E9%BA%BB
麻という漢字の意味:https://okjiten.jp/kanji2042.html
中国故事街 快刀乱麻を断つ:http://www.katch.ne.jp/~kojigai/kaitouranma.htm
稲麻竹葦:
https://kotobank.jp/word/%E7%A8%B2%E9%BA%BB%E7%AB%B9%E8%91%A6-581451
麻中之蓬:https://yoji.jitenon.jp/yoji/186.html
中国古典 名言に学ぶ:https://ats5396.xsrv.jp/841/
麻殻に目鼻をつけたよう:http://proverbdic.blog26.fc2.com/blog-entry-150.html
麻の如し:https://sakura-paris.org/dict/%E5%BA%83%E8%BE%9E%E8%8B%91/content/288_1670
快刀乱麻を断つ:http://kotowaza-allguide.com/ka/kaitouranmawotatsu.html