はじめに
現代の環境に係る潮流から、ペーパーレス化や二酸化炭素排出量をどうにかコントロールしたい、という声が伺えます。すべてを早急に改善することは難しいかもしれませんが、紙の原料や環境保全の役割を麻植物が担うことができれば、何十年、何百年とかけて形成された自然を壊すことなく、限りある資源の中で社会生活することを手助けすることができるかもしれません。
麻植物の生命力
麻植物は肥料を使わずに、少量の水で栽培することができます。栄養価の低い土壌で育ちます。さらに、麻植物は間作としての利用に適しているという報告もあり、後続の作物の収穫効率が挙がることも知られています。
植物とCO2〜カーボンニュートラル〜
現代の環境問題を語る際に、カーボンニュートラルという考え方が重要となります。皆さんは石油製品を燃やすと二酸化炭素が排出されるというのはもう反射的に答えられると思います。そして、木を燃やした時にも二酸化炭素が排出するのも小学生のときに習ったと思います。ここでの二酸化炭素とは、石油製品と植物を燃やした際に発生するそれぞれの二酸化炭素は異なったものなのです。植物は太陽光と二酸化炭素によって光合成して、酸素を出すと小学生のときから習ってきています。しかし、カーボンニュートラルではこの酸素より、二酸化炭素に含まれる炭素はどこに行ったかということに重きを置いています。光合成を二酸化炭素→糖の化学反応と捉えます。糖は体を構成するセルロースやリグニンだけではなく、生きるエネルギー源としても利用されます(図1)。人は食べ物を分解して、その後、酵素などによって再構築して、体を作ったり、エネルギー源として利用したりします。植物に関しても同様です。つまり、大気中の二酸化炭素を使って、体や栄養にするということです。これを二酸化炭素固定化といいます。植物の体は二酸化炭素からできており、それを燃やしても、大気中の二酸化炭素は増えません。これをカーボンニュートラルという概念です。例えば、コンクリートの補強剤として利用することで、断熱性や難燃性の向上が知られています。ちなみに、麻で補強したコンクリートを「hemp-lime」といいます。二酸化炭素を固定化した麻を、そのまま、コンクリートの補強剤として利用されることで、環境保全することができます。このカーボンニュートラルにおいても、麻植物が重要な役割をすると期待されています。
海外での麻植物栽培の取り組み
このような背景から、ヨーロッパでは2015年には2万ha以上で栽培されています。また、麻植物の再生可能素材の市場の統合および拡大するために、EUの資金を受けたMultihempプロジェクトの中で研究の経過報告や研究になどについての情報が得られます[1]。
オーストラリアにおいても、大気中の二酸化炭素を削減するという政府の目標に麻植物が大きく貢献していると報告しています[2]。もちろん、他の先進国諸国においても、麻植物を利用した環境系のプロジェクトは多数存在します。
光合成と麻植物
植物の成長は光合成に依存していますが、成長速度が光合成速度を直接反映していると考えるのは単純すぎます。植物が成長し続けるためには、光やCO2に加えて、水や栄養分の獲得が必要であり、多くの場合、近隣の植物との競合することになります。光合成率は通常、葉の一部をチャンバーに囲んで測定されますが、成長を理解するためには、植物全体または群集による光合成取り込みを考慮する必要があります。 さらに、一般的な木をみると、木齢とともに枝や幹などの非同化器官の量が増加するために、相対的に呼吸(酸素を吸って、二酸化炭素を吐き出す量)が増えます。また、先程言及したように、近接する植物があった場合には、その効率が落ちることもあります。一方で、麻植物は一年生植物(一年のうちに、生長して枯死する植物)ということで、非同化器官が増えることがありません。また、環境適応能力が高く、一般な植物では成長するのが難しい土地でも栽培可能です(葦と同じような環境で育つと言われています)。なんといっても、生育速度が早く、四半期から半年で3―4 mになるといわれています。
麻植物の二酸化炭素吸収量
麻植物といっても、亜麻(フラックス)、苧麻(ラミー)、洋麻(現在では、紅麻と呼ばれる。ケナフ)など複数種類あります。これらから得られる植物繊維は、強くて安価、人体に無害である上に、非石油由来のカーボンニュートラルな材料です。例えば、ケナフについて、温度が高く、日照時間の長いほど生長速度も大きく、収穫量も多いですが、北海道の南部などでも十分に収穫可能です。神戸女子大学名誉教授稲垣博士は論文中で純粋なセルロース中に固定されている炭素はセルロース1 t当たり400 kgで、CO2換算では1.61 tとなり、木やケナフを始めとする植物はセルロース(40-50 %)の他に、リグニン(25-35 %)やヘミセルロース(15-20 %)を含むが、炭素の含有量に大差はない、と報告しています[3]。また、研究者は、ケナフと樹木の光合成速度(二酸化炭素吸収速度)を比較し、まとめました
ここで、ケナフの光合成速度は樹木のそれと比較すると葉の単位面積当たり3〜9倍に達します。これは、二酸化炭素を吸収する気孔が葉の両面にあり、多数存在するため、また、葉が薄く葉肉細胞と外気の間の拡散経路が短いためと村上氏らが報告しました。加えて、ケナフの生長速度が早いということで、体を構成する糖、およびエネルギー源を必要とするためです。加えて、研究者は、生長の早いひまわりやトウモロコシとの気孔数を比較しました(表2)[5]。この数値を見るだけでも、麻植物が単純に二酸化炭素を削減するのに有効であると推測できます。
まとめ
麻植物はその生命力に由来する二酸化炭素吸収効率から注目される材料です。一般的な樹木と比べて3〜9倍の二酸化炭素吸収効率を有しており、昔から、麻植物の利用法は広く研究されてきました。そして、未だに、利用の拡大が望まれています。
環境保全のための麻植物の利用について、少しでも理解いただければ幸いです。
引用元
- Multihempプロジェクト、http://multihemp.eu/
- James Vosper “The role of industrial hemp in carbon farming.” GoodEarth Resources PTY Ltd (2011)., https://greengoddessglow.com/new-blog/2019/8/22/the-role-of-industrial-hemp-in-carbon-farming
- 稲垣寛. “ケナフ: 環境と繊維資源植物として.” 高分子 51.8 (2002): 597-602., https://www.jstage.jst.go.jp/article/kobunshi1952/51/8/51_8_597/_pdf/-char/ja
- 竹松哲夫, and 一前宣正. 世界の雑草 II 離弁花類. Vol. 2. Zenkoku Noson Kyoiku Kyokai, 1993., https://www.amazon.co.jp/%E4%B8%96%E7%95%8C%E3%81%AE%E9%9B%91%E8%8D%89%E3%80%882-%E9%9B%A2%E5%BC%81%E8%8A%B1%E9%A1%9E%E3%80%89-%E7%AB%B9%E6%9D%BE-%E5%93%B2%E5%A4%AB/dp/4881370502
- 村上悟ら:神 奈川大総合理学研究所年報(2000),p.91
- 稲垣寛. “環境と繊維資源植物としてのケナフ (1).” 繊維製品消費科学 41.9 (2000): 730-738.
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