ポーランドの動物園では象に大麻成分CBDを与えるという研究が行われています。一体どのような効果があるのでしょうか。またペットにCBDを与える場合、どのようなことに気を付ければ良いのでしょうか。
メンタルケアに役立つCBD
大麻草から抽出される成分CBD(カンナビジオール)は人間のストレス状態や不眠、不安を和らげる効果でよく知られています。これは大麻草に含まれる生理活性成分カンナビノイドが、人間や動物の体に分布している心身のバランス調節機能「エンドカンナビノイドシステム」に働きかけ効果を発揮するためです。
近年のブームでストレス緩和や安眠のため日々のお助けサプリメントとしてCBDを取り入れる人も増えています。そしてポーランドの動物園ではゾウのストレスを和らげるためにCBDを与えるという興味深い研究プロジェクトが進行しています。
仲間を失ったゾウ
ポーランドのワルシャワの動物園では4頭のゾウを飼育していましたが、2020年に長老のエルナが死んでしまいました。動物園の飼育係は残されたゾウの中で一番若い雌のフレジアが仲間を失ったストレスに苦しんでいることに気付きました。
死んだエルナを見たフレジアはしばらく興奮状態が続いた後、急に落ち込んだ行動をとるようになったといいます。また長老を失ったことでグループ内のバランスが崩れてしまい、仲間のゾウ2頭との関係に苦労している姿を見た飼育員や研究者は、ポーランドの CBDメーカーDobrekonopieの協力を得て、CBDを用いた新しい治療法をテストすることにしました。
この プロジェクトは、「ヘンプ・フォー・エレファント(Hemp for Elephants)」と呼ばれています。
CBDがうつに働きかける仕組み
大麻草(ヘンプ)から抽出されるCBDは、脳内のメッセンジャー物質であるセロトニンとドーパミンの産生を刺激し、うつや不安状態を改善してくれることが知られています。
セロトニンとドーパミンは「幸せホルモン」の別名もあるように、心身の安定や心地よさを導いてくれる物質です。
「ヘンプ・フォー・エレファント」プロジェクトを率いるワルシャワ動物園の獣医師アグニエシュカ・チュコウスカ氏博士は、CBDがすでに犬や馬に使用されていること、
動物園のゾウがストレスを受けやすい状況にあること、そして監視しやすい環境にあることから、この研究の開始に踏み切ったといいます。
CBDオイルは6 時間ごとにゾウの口に直接投与するか、餌に混ぜて与えられます。ゾウの健康状態は糞便、唾液、血液サンプルを採取して定期検査され、中でもストレスホルモンと呼ばれる「コルチゾール」の値の変化を入念にチェックします。
実験で使用されるCBDオイルは大麻由来ですが、精神活性成分を引き起こすTHC(テトラヒドロカンナビノール)が含まれていないため中毒症状を引き起こすことはなく、深刻な副作用を経験することはないと考えられています。
知性が高いゾウは、ストレスも感じやすい
このようにして3 頭のゾウ「フレジア、フリデリク、ブバ」は、世界で初めてCBDを投与されるゾウとしてメディアの注目をあびることになりました。
ゾウは高い知性を持つ動物であり、仲間意識の強さや共感力に優れている反面、精神的なストレスを受けやすかったり、さまざまな葛藤を抱えていることがあります。仲間を失うことや、天候や環境の変化にもとても敏感です。
獣医がゾウを落ち着かせるために与えることのできる鎮静剤はありますが、これらの化学薬品は効果が強いだけに副作用も大きくなる危険性があります。
動物園では可能な限り医薬品を避け、食べ物、おもちゃ、トレーニングなどの様々な方法でストレスを軽減しようとしています。
しかし大麻成分を像に与えるという今回のユニークなのプロジェクトによって、天然由来の成分で動物のストレス状況を改善できるかもしれないのです。
CBDはすでに馬のメンタルヘルス安定や炎症緩和に使用されています。しかし象のようなさらに大型の動物にも有効かどうかは、少なくとも 1 年の観察と定期チェックが必要になるとされています。
ペットの苦しみも和らげてくれる
犬や猫などペット向けCBDもトレンドとなっており、ソーシャルメディアにはCBDをペットに与するえる動画があふれています。ペットを家族の一員と考えると、強い化学薬品よりも自然に近い成分であるCBDを使って痛みや不安、発作を和らげてあげたいと思う飼い主の気持ちは当然のことでしょう。
人間の場合はすでにCBDが不安や慢性的な痛みなどの症状を緩和し、てんかんなどの発作を軽減することが知られています。またナビキシモルス(商品名:サティベックス)と呼ばれるTHCとCBDを両方含む多発性硬化症の痛み改善薬は世界20カ国以上で承認されています。
米コロラド州立大学の研究では、てんかん発作を持つ犬14 匹に CBD オイルを 1 日 2 回、12 週間投与した結果、発作回数が大幅に減少したことが報告されました。
フェノバルビタール、臭化カリウム、ジアゼパム、その他の抗けいれん薬など、てんかんの治療薬は、犬によっては深刻な副作用を引き起こす可能性があります。また薬を服用していても発作が治らない犬は30% に上ります。CBDはこれらの薬品で治らない症状をより安全な形で改善してくれる可能性があるのです。
ペットに使用する際に気をつけたいこと
てんかんなどの持病がなくても、引越しなどの環境の変化が原因の不安行動や、関節炎や怪我からくる痛みを和らげるためにペットにCBDを与える人も増えています。ペットフードに混ぜて与えるか、直接口内へ与える方法がありますが、製品に含まれるCBDの量を把握し、自分のペットにあった使用量を知ることが重要です。
同じ動物でも体重当たり何mgまで与えて良いのかなど、同じ犬や猫でもサイズや品種によってその量は変わります。使用前には担当獣医に相談した上でペットの健康維持に役立てていきましょう。
<参考資料>