
雨や雪の日の外出にあると便利なレインブーツ。エコとスタイリッシュを両立するなら、ヘンプでできた長靴はいかがでしょうか。
ヨーロッパでは長靴が必須アイテム
毎日使うわけではないけれど、悪天候の時に重宝するのがレインブーツこと長靴です。英語ではウェリントンブーツとも呼ばれ、ヨーロッパでは古くから乗馬やアウトドア、ガーデニングによく利用されるため、英国王室御用達の「ハンター」やフランスの伝統ブランド「エーグル」など、クオリティの高い長靴で知られる老舗ブランドが存在します。
こう言った老舗ブランドの製品は丈夫さ・機能性の他にも、どこも足を自由に曲げることができる素材のゴムの柔らかさが特長です。どんなファッションにも合う洗練されたデザインが多く、長靴の中に履くブーツソックスなどアクセサリー類も充実しています。
野外音楽フェスティバルの会場でセレブがブーツ代わりに長靴をスタイリッシュにコーディネートする姿がメディアで取り上げられたことも多く、ファッションアイテムとしても人気が定着しています。
長靴の材料とは?
長靴の素材として古くから使われているのが天然ゴムです。これは熱帯地域で育つゴムの木の表面を削ると染み出す樹液から作られており、柔らかさと伸びがあり防水性はもちろんのこと足にしっくり馴染む上質な感触が特長です。ほかにも自転車や自動車などのタイヤ、ホース、靴底など様々な製品に使用されています。もともと南米アマゾンが原産と言われますが、現代では産業利用のためタイやインドネシアなど世界の熱帯地域で植林されるようになりました。
産業分野で需要が非常に高いため天然ゴムだけでは量が追いつかず、石油から作られる合成ゴムと呼ばれる素材も使われています。また同じくポリ塩化ビニル(PVC)製・EVA樹脂なども長靴の素材としてポピュラーです。
環境ダメージの問題
プラスチックや化繊に代表される石油由来の製品は、大量生産には向いているのですが、膨大な量の水を必要とし、環境ガスを排出するなど環境へのマイナス影響が大きいことが問題視されています。これはプラスチックや合成ゴム製品の生産過程だけでなく、廃棄され埋立地に行きついた場合も同様で、何百年も生分解されることなく、焼却処分することでさらなるエネルギーが使われ、熱によって有害な環境ガスが発生する性質を持っているためです。
またポリ塩化ビニル(PVC)の生産には素材を柔らかくするために化学物質のフタル酸エステルが大量に使われています。これも環境に害を及ぼすだけでなく、体内に入れば人間の健康に害を及ぼすことが知られています。ブーツに使われることが多い合成皮革も原料はPVCや合成樹脂と同じく石油から作られています。
環境への負荷という点からは天然ゴムを使用するのが望ましいのですが、原産国の東南アジアなどではゴムの木を植林するため自然の森が破壊されるなど環境被害が指摘されています。
農作物からプラスチックやゴムが作れる?
気候変動問題を背景に脱・石油の研究が進んだことで、農作物を利用した「生分解性ポリマー」が開発され、代替ゴムや代替プラスチックなどより環境に優しい素材が誕生しています。
これらは植物性プラスチックと呼ばれ、微生物発酵プロセスによって石油や化石系素材を一切使用しないで合成することが可能です。とうもろこしやじゃがいもなど植物由来のデンプンや糖を原料とし、バイオマスプラスチックとも呼ばれます。石油製品とは異なり生分解性があり最終的には水と二酸化炭素に分解され自然に還ります。焼却処分してもダイオキシンや塩化水素などの有害物質を出さず、排出されるCO2量も低くなるなど様々なメリットがあります。
また原料となる農作物も成長過程で光合成のために大気中のCO2を吸収します。またいつかは枯渇してしまう石油資源と異なり繰り返し栽培・収穫ができるので、サステナブル社会の実現に貢献する素材として期待されています。
ヘンプもプラスチックやゴムになる
産業作物であるヘンプからも繊維を処理・加工して生分解性プラスチックを作ることができます。またヘンプとプラスチックを組み合わせた複合材料も生産が可能です。
麻の特徴の一つはその成長スピード。約100日で収穫できるため、気候によっては年に2、3回収穫が可能になります。このため土地面積当たりの生産量が高く、よりサステナビリティ(持続可能性)が高いプラスチック原料になり得ます。また他の作物と比較して水や農薬を大量に必要としないという点でも、環境により優しい作物であるといえるでしょう。

ハンターよりおしゃれかもしれないPlasticana
フランスで誕生したシューズブランド、Plasticanaはそんなヘンプ由来素材を使ったブランドの一つです。麻繊維とリサイクルされたビニルとミックスした防水性の高い素材で、100 %リサイクルが可能です。同ブランドではユニセックスのシューズ、ゼリースタイルのサンダル、ミュール、チェルシーブーツ、カントリーブーツなど様々なスタイルを展開。フラットシューズから膝丈のウェリントン・ブーツまで、様々なファッションに合うシックなブラウンの色合いは、麻に含まれる糖分から生まれているそう。
スタイリッシュで実用的、そして家ばき、長靴、ガーデニングなど様々な用途に使える上、老舗ブランドと比べてかなりリーズナブル。また「他の人とかぶらない」というレアさも嬉しいポイントです。

ファッションとエコを両立
葉や種子や花、茎からとれる繊維など天然素材である産業用大麻=ヘンプの利用範囲は広まるばかり。世界の産業用ヘンプの市場規模は今後、15.05%のCAGR(年平均成長率)で成長し、2029年までに160億米ドルに達するとも予測されています。
健康成分として医薬品やサプリに利用されている成分CBDなども含め、ヘンプの利用価値はどんどん高まっています。ヘンプを利用したサステナブル・ファッションもその一つ。ジーンズやウォッチ、シューズなど様々な製品が生まれています。
食べ物からファッションまで、エコ経済に気楽に貢献できるようになったことは消費者にとって嬉しい限り。「どうせ買うなら環境に優しいものを」と考える人が増えています。無理をせず、自分にできるところから、サステナビリティ経済に参加していきたいものです。
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