【麻の世界史】人類と共に歩んできた麻の世界史

さらりと素肌に心地よい麻素材。丈夫で通気性が良く、先史時代から日用品から衣料まで身の周りの様々なアイテムに利用されてきました。現在では生育が早く、どこでも育つサステナブルな天然素材として再評価され、代替エネルギーや医療界でも注目されています。本稿では世界最古の天然繊維麻の歴史についてご紹介します。

麻の世界史

「麻」にはたくさんの種類があるのをご存知でしょうか。衣服に使われる「リネン」や「ラミー」、ロープやコーヒー豆を入れる大きな麻袋に使われる「ジュート」など、麻繊維はファッションアイテム以外にも様々な製品に使用されています。絵を描くキャンバスにもコットンだけでなく麻素材が使われています。日本ではリネンは 亜麻(アマ)、ラミーは苧麻(チョマ)と呼ばれ、非常にポピュラーな素材。そしてほかにもヘンプやサイザル麻、マニラ麻など世界中で様々な種類の麻が使用されています。強い生命力を持ち痩せた土地でも育つことも大きく広まった理由の一つでしょう。

麻と人の関わりは非常に古く、日本でも紀元前8000 万年の遺跡から麻縄が出土しています。古くは「からむし」「まお」などと呼ばれ、綿花が普及するまでは衣服の素材として広く用いられてきました。中国やマレー半島でも古くから栽培が行われてきた、世界で最も古い産業植物の一つです。
スイスでは先史時代・約1万年前の遺跡からリネン(亜麻)が見つかっています。また近年になり、ジョージアのコーカサスの麓にあるズズアナ洞窟での一連の後期旧石器時代の層からの3万6000年前の亜麻繊維が発見され、先史時代の狩猟採集民が自生の麻を使って石器を結んだり、かご細工に使ったり、衣服を縫うための紐を作っていたことが分かりました。

古代メソポタミアで栽培されていた

今や人々の生活に欠かせない存在となっている麻ですが、もともと自生していた麻が作物として栽培されるようになったのは世界最古の文明といわれる紀元前8000年頃古代メソポタミア文明だと言われています。これは現在でいうイラクのあたり。現在のトルコを水源とし、ペルシア湾にそそぐ2つの川ティグリス・ユーフラテス川があったおかげで農業が発達したこの地域には古代文明が発達し人口も増え発展していきました。

このメソポタミア文明を支えたのは、高い農業生産力でした。メソポタミアとは「川の間」という意味のギリシア語ですが、2つの川がもたらす豊富な水を灌漑によって畑に引き込み、主に小麦が栽培されました。この時代から既にパンの原型も生まれていたというから驚きです。ここでリネンが栽培されるようになり、支配階級の衣服に使われるようになったのが麻栽培の始まりとされています。

神聖な繊維として重宝される

その後、紀元前3000年になりアフリカ大陸の北東部、ナイル川がもたらす肥沃な土壌で栄えたエジプト文明において、麻はさらに広範な利用をされるようになります。
エジプトでは日差しが強く高い気候の中で、人々が快適にまとうことのできる服が必要とされました。天然繊維のなかでも涼しさにすぐれたリネンの通気性や抗菌性はこの土地にぴったりの素材として、急速に発展していきました。服飾史で最も古いとされる下着は、古代エジプト時代に麻で作られたと言われています。そして麻布を作る世界最古の紡ぎ器はエジプトで見つかりました。

当時のエジプトではリネン(亜麻)は豊穣の女神イシスのものとされ、僧衣やミイラをくるむ包帯として使われたり、神事に使われるなど神聖な扱いを受けていたことも研究によって分かっています。日本の神社のしめ縄が麻で作られていることからも、麻は人々に恵みを与えてくれる貴重な植物であったということがうかがえます。

ヨーロッパへと広まる 

古代ギリシアや古代ローマにおいてもリネンは貴重な繊維として使われ、中でも純白のリネンが珍重されました。またリネンで衣服や家庭用品を作るだけでなく、麻の耐久性を利用して、リネンを膠(にかわ)で貼り合わせた布製の鎧も開発されました。青銅製と比べるとかなり軽量になったため、重い盾と槍を装備した歩兵にとって大変実用性があり、麻の繊維が水を含むと強度を増すため、海上戦でも有利だったといわれています。
この時代は地中海沿岸エリアが文明の中心地。ここで多数の都市国家や建設し地中海交易で栄えたフェニキア人が後の時代に西ヨーロッパへとリネンの生産を広めました。
ヨーロッパでも珍重された麻は衣服のほかにテーブルやベッドリネン、タオルなど、文明の発展とともに人々の生活に欠くことのできない素材として愛用され、現在に至ります。麻は文明の発展とともに世界各地へ広がっていたことが分かります。

産業革命と欧州リネンのブランド化

アイルランドでは産業革命とともにヨーロッパのリネン生産の中心地として繁栄し、ベルファストの町は「リネノポリス」として知られるようになりました。アイリッシュリネンがブランド化していったたのもこの頃です。
またフランス北部で栽培された亜麻からも最上級のリネン生地が作られ、アイリッシュリネンと並んで高級素材として人気を博しています。現在でもアイリッシュリネンやフレンチリネンといえば贅沢品。ヨーロッパの家庭で使われるティータオルとよばれるふきんも、水をよく吸いしかも乾きやすく、使うほどに風合いを増していくため、リネンを使ったものは非常に重宝されます。
綿花の大量生産が可能となるにつれて、麻の繊維経済は衰退していくのですが、リネン素材の美しさと贅沢さは現在も多くの人々を魅了し続けているのです。

麻の魅力とは

麻がこれほどまでに重宝されてきた理由は強さや育てやすさだけではありません。家庭用品に使われる麻は種類によって差はあるもののコットンやシルクと比べても吸水性や発散性に非常に優れており、さらりとした肌触りをキープします。また天然の抗菌性がありカビや雑菌の繁殖を抑制してくれます。汚れが落ちやすく水に強いため、洗濯するほどに白さやしなやかさを増すという特性もあります。こういった清潔感や、丈夫さこそリネンが衣服や家庭用品に向いている理由です。リネン素材の上質なシーツは肌に柔らかいのにひんやりとした清涼感も備え、麻のスーツやワンピースと同様にファンの多いアイテムの一つです。

まとめ:未来のリネン

現在は生産量ではコットンや化繊にトップの座を奪われた感のあるリネンですが、麻ならではの素材感や利点を愛する人も多く、現在でも世界中で生産され続けています。

またサステナビリティが社会のキーワードとなっている近年では、麻がバイオ燃料、建材としても利用できることが分かり研究が進められています。痩せた土地でも栽培が可能だったり、農薬や化学肥料なぢで土壌を豊かにしてくれることなどからアグリテック業界や医療業界でも再び注目が集まっています。

古代から人類とともに歩んで来た麻の優れた特性や新しい可能性を生かしていくことができれば、今後も人類の未来にも役立ってくれるのではないでしょうか。

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参考資料

麻(リネン)ってどんな生地?生地の特徴を解説
https://book.nunocoto-fabric.com/10772

リネンの歴史
http://www.historyofclothing.com/textile-history/history-of-linen/

ギリシャからヨーロッパへ
http://takimoto0.blog9.fc2.com/blog-entry-424.html?sp

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