はじめに
航空輸送とそのために燃やされる化石燃料は、最近取り上げられる大きな環境問題です。航空機の生産と利用自体が、莫大な環境コストをかけて行われています。しかし、環境への配慮だけを考えて、空の旅を手放すということは少し考えにくいです。我々はどのようなことに取り組んで、環境保護していけばいいのでしょうか。
航空宇宙産業用バイオパーツ
近年、生分解性、持続可能性、リサイクル性に優れた材料の開発が求められていることから、複合材料の補強材としてのヘンプの使用が増加しています。ヘンプ繊維は植物の茎を構成するほど丈夫で、複合材料の補強に必要な強度と剛性があります。ヘンプとの複合材料は熱可塑性、熱硬化性生分解性、および機械特性を良い結果を示しました。これは、繊維とマトリックスの界面結合を改善する(ヘンプとプラスチックの相性を上げる)ために使用される多くのヘンプ繊維表面処理により、複合材料の機械的特性が大幅に改善されたことに由来します[1]。ヘンプバイオプラスチックは、プラスチックと同じくらい長い歴史を持っています(プラスチックの歴史は20世紀前半から)。
ヘンプは容易に栽培でき、また、植物由来の材料を作る上で重要な構成要素であるセルロースが多く含まれています(65%~70%)。実際、ヘンプは220億ドル規模の産業となっており、2022年までに、ヘンプ市場はその3倍になるといわれています [2]。セルロースは、ヘンプやその他の繊維作物から様々な方法で抽出されます。オーストラリアのZeoform社[3]はヘンププラスチックメーカーで、ヘンプを含む様々な天然セルロース繊維のみを原料として製造されたセルロースベースのプラスチックを提供しています。可能性としては、現在カーボンファイバーやファイバーグラスで作られている航空機のすべての部分がヘンプに置き換えられる可能性があります[4]。
なぜ、ヘンプを使用するのか?
さらに、従来の航空宇宙用素材は、ヘンプよりも重く、有毒で持続可能ではありません。ほとんどのメーカーは、アルミニウムとグラスファイバーを使用して飛行機を構築します。ヘンプはこれらの材料と比べてかなり軽いので、空に上がるための燃料がかなり少なくて済みます(周期表で考えると、炭素、水素、酸素を中心とする植物やプラスチックは非常に軽いです)。何よりも重要なのは、ヘンプは環境に優しい素材であるということです。ヘンプは綿よりもはるかに少ない水と土地で栽培することができ、葉を始めとする使用後に(バイオマス)養分として土壌に戻すことができます。採掘を必要とする鉄や、プラスチックから作られる炭素繊維に比べて、ヘンプは環境への影響がほとんどありません。カナダのHempearth社もヘンプを利用した航空材料を手掛けています。そして、彼らは世界で初めてヘンプ飛行機を作製しました[5]。その飛行機は胴体だけではなく、機内のシートの繊維もヘンプを利用して、全重量の75%をヘンプに置き換えるというものです。
ヘンプを添加した機械の構成部品は、従来のものと同じ機能性を持ちながら、よりエコロジーである可能性があります[6]。天然繊維で作られた複合材料は、ガラス繊維よりも25~30%強く、より低い重量で同じ性能を提供することができます[7]。
課題はどうやってパーツを作るか“だった”!?
ヘンプ由来の材料、または複合材料の大きな課題は成形加工性でした。これは、ヘンプに限らず、生物由来の材料は高熱に対するような構造を作っておらず、溶ける前に分解・劣化(炭化して黒くなってしまったり、結合がブチブチと切れて、二酸化炭素になって)してしまうからです。
欲しい形のパーツを作れない、作るのに大きなエネルギーやテクニックが必要となると、どうしても、安くて、成形加工性の高いポリプロピレンのような汎用性プラスチックに目がいってしまいます。しかし、最近では、ヘンプ由来の材料、または複合材料を用いた3Dプリンターの技術が進歩しています[8]。また、3Dプリンターを使用するメリットは余分な材料を使用する必要がないということです。一般的な材料は、後々微調整をするために少し大きめに製品を作ったりします。後で削った分はゴミとして捨てられます。また、ヘンプは農薬など余分な化学物質を使用しなくても、十分に育つために、もし、こういった3Dプリンターとして使用する際に、キレイな原料として、他の植物原料と比べてもかなり環境に優しいです。一般に、余分な化学物質を取り除くにも、熱エネルギーや有害な溶媒(アルコールや油のような液体)を使用します。現在は、PLA/ヘンプの複合材料をフィラメント(3Dプリンターで部品を作る材料)としての使用を目指して研究されています。
ヘンプのフィラメントを作るプロセスはかなり簡単です。最も一般的なのは、ヘンプの繊維を粉砕して微粒子にし、そこに混ぜ合わせます。これだけなのです。
ヘンプ惑星現る!?
少し前の話になりますが、2015年にNASAはヘンプで覆われる惑星を見つけたと報告しました[9]。これは、ヘンプが過酷な環境でも育てられるという特徴から、テラフォーミングの可能もまた示唆するものでした。
最後に
ヘンプを利用した航空宇宙開発を進んでいます。また、NASAの報告は単にヘンプに覆われた惑星を紹介したのではなく、テラフォーミングなど、惑星地球化に知見を与えるニュースでした。
ヘンプの宇宙船で他の惑星に行き、ヘンプによって惑星地球化し、そこで作ったヘンプで食糧になったり、材料開発できたり、そんなエコロジーな宇宙探検をする日が近づいてくるかもしれませんね。
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引用元
[1] http://www.techno-press.org/fulltext/j_aas/aas6_2/aas0602001.pdf
[2] https://www.rollingstone.com/culture/culture-news/new-study-cbd-market-22-billion-2022-722852/
[3] Zeroform
https://www.zeoform.com/
[4] https://www.goldengroupholdings.com/bioparts-for-aerospace-industry
[5] Carter M., 2014: World’s First Plane Made Out of Hemp Flies High Next Year.Inhabitat: https://inhabitat.com/worlds-first-plane-made-out-of-hemp-flies-high-next-year/ [received 09.03.2020].
[6] Scarponi C., 2015: Hemp fiber composites for the design of a Naca cowling for ultra-light aviation. Composites Part B: Engineering, 81, 53–63.
[7] FlexForm Technologies: Natural Fiber Composites a substitute for glass fiber?: http://www.naturalfibersforautomotive.com/?p=20 [received 09.03.2020].
[8] https://www.3dnatives.com/en/hemp-3d-printer-filament-sustainable-alternative-200920184/
[9] a) https://www.snopes.com/fact-check/nasa-planet-marijuana/,
b)https://www.express.co.uk/news/science/1216088/spacex-news-elon-musk-latest-space-update-cannabis-space-NASA-updates-ISS