麻の実の殻であるヘンプシェルを食べることで、肝臓についた脂肪を取り除くことができるかもしれないという研究報告が、ネイチャー誌に発表されました。ヘンプシェルにはどのような作用があるのでしょうか。
食べながら内臓脂肪にサヨナラできる?
お腹を摘めば「つき具合」がすぐ分かる皮下脂肪とちがって、知らないうちに増えてしまう内臓脂肪。高血圧や高血糖など生活習慣病の原因にもなると言われています。食事や飲酒、運動不足の他にも睡眠不足などが原因になっているほか、加齢によって基礎代謝が落ちてしまうことも一因になっています。
米国のバイオサイエンスのスタートアップであるブライトシードは、植物栄養素と人間の健康への影響をマッピングする人工知能(AI)Forager®を使って、代謝の衰えによる様々な健康問題を改善するために、麻の種子に含まれる化学物質に注目しています。
Foragerによって、大麻=カンナビスサティバの種子の外殻であるヘンプシードの外皮から、2つの生物活性化合物N-trans-カフェオイルチラミン(NCT)とN-trans-フェルロイルチラミン(NFT)が発見されました。 学術誌Nature(ネイチャー)の「Cell Death&Disease」に掲載された2つの研究の結果によると、NCTとNFTは、マウスの肝臓と人間の細胞から脂肪を取り除く可能性を示しています。
ブライトシードではすでにこの研究にまつわる8つの特許を申請中と報じられています。
繊維質も豊富なヘンプシード
麻の実は、古くから食料として親しまれてきた作物です。漢方薬では「麻子仁・まにしん」とも呼ばれ、便通を良くする作用でも知られています。豊富なタンパク質や良質の脂肪、ビタミンやミネラルをバランス良く含んだスーパーフードとして知られるようになりましたが、カリカリとした食感の外皮は便秘の予防・解消、整腸効果のある食物繊維を豊富に含んでいます。食物繊維は腸を刺激してぜん動を促すほか、腸内の善玉菌のエサとなって腸内環境を整えてくれます。また繊維質の豊富な食材を取り入れることで糖質の吸収を緩やかにし、血糖値を緩やかに上昇させることができます。
現在のところ、食用ヘンプシードとして普及しているのは外皮を取り除いたものがほとんどです。ヘンプシード外皮からNCTとNFTが発見されたことで、今後食品業界にも変化を起こしていく可能性があります。肥満や内臓脂肪の増加によって生じる生活習慣病に悩む人は多く、今回の発見は多くの人に朗報となる可能性を秘めています。今後ヘンプシードから抽出されたNCTとNFTをサプリにしたり、殻付きヘンプシードを食生活に積極的に取り入れたりして健康に役立てていくこともできます。ちなみにNCTとNFTは黒コショウの中にも存在することがForagerのリサーチによってわかっています。
医療にも使われるヘンプ
ヘンプは地球で栽培されている作物の中で最も持続可能で用途の広い作物の1つだといわれます。これは成長が早く収穫までのサイクルが短いため繰り返し栽培でき、丈夫で農薬や肥料をさほど必要とせず、土壌汚染や農業従事者の健康被害を最小限に抑えることができるため。
また麻は根から茎や花、種子まで産業や医療に様々な利用ができるという無駄のない農作物です。
食用ヘンプシードはその一例ですが、ヘンプの茎から取れた繊維質は衣料品だけでなく生分解性のプラスチックに加工され産業利用されています。土に還るプラスチックを利用することで石油由来のプラスチックの使用を抑え、土壌や水質汚染を防ぐことができ、製造の際に大量に発生する環境ガスの量を抑えることができるのです。
また大麻の葉や茎・花から抽出されるカンナビノイドと呼ばれる生理活性成分は医療やウェルネス分野で様々に活用されています。医療界で大きなシェアを占める大麻由来製剤はカンナビノイド系がん疼痛治療や多発性硬化症に使用される「サティベックス」と「エピディオレックス」という難治性てんかんの薬です。またガン治療の吐き気止めとしてもカンナビノイド由来の製剤や、医療大麻が利用されています。
2018年からは、世界ドーピング協会で 大麻由来のカンナビノイドの一つCBD(カンナビジオール)がドーピング薬物規制対象から外されました。これによりアスリートもプロ・アマ問わずリラックスや怪我や筋肉の痛みの緩和にCBDを使用する事が可能となり、スポーツ界でも急速に利用者が増えています。
ヘンプシェルは食べやすい?
ペット用飼料や七味唐辛子にブレンドされている場合と異なり、食用ヘンプシードは外皮をむいた中身だけで売られているものが主流です。
しかし外皮の味は特にクセがあって食べにくいものではなく、ナッツのような歯応えがある程度。白米と玄米の違いに似ています。栄養と食感をプラスすするためトッピングとしてサラダに振りかけたり、シリアルなどにブレンドしたりすることで美味しく取り入れることができます。またスムージーを作る際などに一緒にブレンドしてしまえば、ドリンクとして楽しむことができます。
まとめ
病気のもとになる内臓脂肪をつけないためには、暴飲暴食をしない、適度な睡眠時間と運動を確保する、繊維質を含む食品を多く取るなど日々の積み重ねが大切です。
また甘いドリンクやながら食べを控えるだけでも長期的には大きな効果が生まれます。日常のちょっとした習慣の見直しに加えて、ヘンプのように栄養バランスが取れた食材を取り入れることで、健康とすっきりしたウェスト周りを保っていきたいですね。
<参考資料>