サステナブルな素材として注目を浴びるヘンプ。最近ではナチュラル系だけでなく、デザイン性の高いエッジーなファッションも楽しめるようになりました。
エコでなければクールでない
気候変動枠組条約締約国会議(COP26)が開催され、若い世代を中心に環境問題への関心が今までになく高まった2021年。世界各国で「再生可能エネルギーの利用」「フードロスや廃棄物を減らす」「持続可能な食糧生産」といった様々な取り組みが行われています。
ファッション業界も例外ではありません。動物愛護・環境保護活動を行うハイファッションブランド「ステラ・マッカートニー」、大量消費の弊害を訴え、自社製品の修理やリサイクルを行ってきたアウトドアブランド「パタゴニア」などは古くからこのような環境問題に意識的で、マーケティングにもエコを掲げてきました。また新世代のブランドやファストファッションのブランドですら「エコでなければクールでない」という、これらの主要購買層となるZ世代の意識を反映して、さまざまな取り組みを行っています。
より快適に、着やすくなったヘンプ
安価で生成が容易なナイロンやポリエステルなどの化学繊維は、生分解されるまでに膨大な時間がかかり、マイクロプラスチック問題(※)などを生むことが問題視されています。一方でコットンのような天然素材の方が環境に優しいというイメージを持たれがちですが、綿花の大量生産においては大量の農薬や化学肥料が必要となり、生産者や土壌への深刻な被害とが起こっています。
このため、農薬や化学肥料を使わない有機栽培のオーガニックコットンを支持する人が増え、さらに現在では綿花よりも丈夫で農薬や水を多く必要としない産業用ヘンプ(大麻草)の繊維を使ったファッションにも注目が集まっています。
古くからヘンプ繊維は生活用品や衣服に使用されてきましたが、コットンに比べると肌触りがやや硬め。しかし現代の繊維技術の進化により、独特の質感があるヘンプ繊維をしなやかで着心地の良い服に仕立てることができるようになりました。リーバイスなど世界的デニムブランドがいち早くジーンズにヘンプ繊維をブレンドし、サステナブルなファッションを展開しています。
※マイクロプラスチック問題※
水などに混入した微細なプラスチックが引き起こす環境問題のこと。人体への影響や海洋生物の生態系の破壊を引き起こすことが懸念されていますが、回収が難しく、解決が困難となっています。ペットボトルやビニールの買い物袋が海に流れ込んでいることはよく知られていますが、ファッション業界では化繊素材を使ったファッションの大量廃棄、また生産時に使用される水への混入、家庭での洗濯時によって流れ出るマイクロプラスチックが問題視されています。
スウェーデンのファッションブランド「ウィークデイ」
ヘンプ素材ファッションは、やや硬さのある素朴な素材感が特徴。このためこれまではナチュラル感を活かしたなファッションに使われることが主流でしたが、スウェーデンのファッションブランド「ウィークデイ」は、麻をブレンドしたデニムと植物染めを使った、ちょっとエッジーの効いたエコ・ファッション限定コレクション「Plant Based Limited Edition」を発表しました。
このコレクションは麻を使ったナチュラル系エコ・ファッションとは一線を画す、立体的でエッジーの効いたカッティング、スタイリッシュなシルエットが特徴です。
「ウィークデイ」はこのファッションラインのリリースにあたり、食用作物から生まれる廃棄物を新繊維バイオファイバーに変える会社アグラループと提携。生地には植物由来のセルロース繊維を柔らかい繊維に精製する独自の処理技術により生まれたバイオファイバーを採用しています。
このバイオファイバーは、小麦や米、トウモロコシやパイナップルの葉やバナナの幹など食品生産の過程で生まれる廃棄物に加え、ヘンプ繊維を原材料にしています。またアグラループでは繊維の生産だけでなく、その製造プロセスを通じて、地域社会に電力を供給するためのバイオエネルギーの生成や、農場に戻るための有機質土壌の改良など、さまざまな環境および社会問題にも取り組んでいます。
「ウィークデイ」の広報では麻を使った新素材は環境問題解決策になりうると考え、さらに規制がクリアされ母国スウェーデンで麻を栽培すれば、綿花に比べカーボンフットプリント、耕地面積、水、農薬が少なくて済み、土壌を豊かにしてくれるだろうと語っています。同ブランドの、メインラインのデニムコレクションでもすでにヘンプ混オーガニックコットンが導入されています。
「グリーン・リカバリー」が鍵になる
世界的パンデミックからの復興のカギとして、現在「グリーン・リカバリー」という言葉が注目されています。 これはコロナ禍による業界ダメージから復興するために、気候変動や環境問題に取り組み組む活動・ビジネスを発展させ、よりよい未来を目指していく復興モデルのこと。具体的には国連SDGs(=持続可能な開発目標)に基づいたサーキュラーエコノミーやクリーンエネルギーなどの研究に対する助成や、人類の経済活動によって引き起こされた生態系へのダメージの回復を促進する対策・ビジネスなどを指します。
アパレル業界が抱える問題は環境問題や人権侵害など様々な分野に及びます。大量生産と大量廃棄のサイクルから生まれる被害も、フードロス問題と同じく重大な課題です。
同ブランドのような試みが行われることで、少しでも前向きな選択肢が生まれるのは嬉しいこと。単にエコ・イメージを匂わせるだけの「グリーンウォッシュ」ではなく、サプライ・チェーンなどの改善や透明性を高めることで、エコ・コンシャス=クールの意識を全世代に定着させていくことがますます大切になるでしょう。
<参考資料>