痛みを緩和するだけでなく、がん腫瘍を抑制したり、メンタルをしなやかにしたり、病気と闘うことができるという医療大麻やCBD。現在、どんな研究が進められているのでしょうか。
痛みを消すのではなく「つらさ」を軽減する?
大麻草から抽出される成分CBD(カンナビジオール)に炎症緩和や鎮痛作用があることが知られるようになり、海外では化学治療に代わる痛み止めとしてCBD製品を選択してサポートに使う人が増えています。
アスリートもトレーニングや試合後の筋肉の疲れや炎症の回復を早めることを目的にCBDを服用したり、CBDクリームを膝や肩などに直接塗ったりしていることが報じられ、これまで大麻由来製品にあまり縁がなかった層にも認知度が上がりました。
「CBDが痛みに効く」という事例は数多くみられますが、どのように痛みに働きかけるのか、そのシステムについて詳しく調べた研究はまだ多くありません。
2021年に入り、米シラキュース大学はCBDが急性痛に及ぼす影響について実験を行いました。その結果、CBDは痛みの感覚を軽減するのではなく、痛みに関連する不快感を軽減しているのではないかという可能性が示唆されました。
この研究は15人の被験者を対象に、4回の実験セッションを通して行われ、CBDが急性の痛みへの反応にどのように影響するか、そしてCBDのプラセボ効果(=投薬に伴う心理効果・暗示作用))がどれだけあるのかに焦点が当てられました。
ほとんどの人は痛みを「ある・なし」の二極的なものと考えています。しかし痛みは私たちが考えているより複雑な現象であり、心理的・生物学的に様々な要因が組み合わさって痛みを感じています。そして実験の中ではCBDと「CBDを摂取する」という心理効果が痛みの強さを減らすというより「痛みを不快に感じさせない」働きをしていることが見えてきたといいます。
がん治療薬としての可能性も
がん治療の分野でも大麻由来のカンナビノイドCBD(カンナビジオール)やTHC(テトラヒドロカンナビノール)の働きには多くの人が関心を寄せています。
大麻ががんの痛みや、化学療法によって引き起こされる吐き気などこの病気や化学療法の副作用を緩和することはすでに知られています。しかし「がん細胞そのものを抑制する力はあるのか?」という点ではまだ懐疑的な専門家が多いようです。
そんな中、英国では肺がん患者がCBD / THCオイルを服用したことで、従来の治療なしで肺癌が縮小した事例がニュースで報道され、話題を呼んでいます。肺がんは英国で2番目に多いがんで、診断されてから5年間生存しているのはわずか15%、治療なしの平均生存期間はわずか7ヶ月とされています。
報道ではこの女性患者は80代で、2018年に肺癌の診断を受けています。彼女は手術や放射線療法などを受けることを拒否し、親戚のアドバイスを受けてCBDオイル製品を1日3回摂取しはじめました。そして医師が2021年はじめに検査を行ったところ、癌のサイズが約76%まで縮小していたことが確認されました。患者の女性は食欲減退を感じた以外は、CBDオイル摂取に伴う目立った副作用を感じなかったとコメントしています。
臨床試験からのデータはまだほとんどないのが現状ですが、英エクセター大学教授イザード・アンスト教授はこのニュースを受け、カンナビノイドは動物実験において前立腺癌腫瘍のサイズを縮小することが認められているとコメントしています。
がん細胞には様々な性質があり、一つの治療法で対応できるわけではありません。英国のがん患者サポート団体マクミリアンでも医療大麻の可能性に言及していますが、現在の段階では大麻はある種の癌の治療に効果がある可能性があるものの、他の種類のがんを成長させてしまう可能性もあると注意を促しています。
うつ病にも効くのか
動物実験においてTHCとCBDには抗うつ作用がみられる事がわかっていますが、ヒトを対象とした臨床試験はこれまでのところ行われていません。しかし医療大麻が運用された州では、自殺率が低下したという例も報告されています。
また多くの抗うつ剤がセロトニンの数値を上げる事でうつ状態を改善するのとことなり、CBDはセロトニン値を増加させず、脳がすでにそこにあるセロトニンにどのように反応するかに影響を与えることによって機能するという仕組みが分かってきました。
また米フォーブス紙では麻酔薬ケタミンとCBDを組み合わせることで、うつ病の治療に効果的にアプローチできる可能性があるという内容の記事を発表しています。
ケタミンはもともと戦時中に使用された麻酔薬ですが、感覚や記憶を失って体外離脱感覚を誘発するほどほど強い効果があり別名「馬の精神安定剤」としても知られています。
このケタミンが近年、適切な服薬を一定期間続けても効果がなかなか表れない「治療抵抗性うつ病」の治療に効果を発揮した事が報じられました。このためケタミン治療を提供するクリニックが全米に出現しましたが、ケタミンには強力な副作用があり、別の精神作用や全身の筋肉の過剰な動きなどを引き起こしてしまいました。
新研究ではケタミン治療にCBDを組み合わせ、副作用を抑制するという試みが行われています。もともとCBDには不安神経症やうつ状態、ストレス状態を緩和する効果が報告されていますから、重度のうつ患者にも有効な治療法が今後生まれるのかもしれません。
パーキンソン病の症状を和らげる効果も
指定難病の一つであるパーキンソン病治療のための植物性カンナビノイド使用にフォーカスした臨床試験はまだ限られており、相反する結果も出ています。しかしカンナビノイドのうちCBD、THC、そして特に THCV(テトラヒドロカンナビビリン) は、基礎研究の段階ではパーキンソン病に対する治療効果の有望性が十分に認められています。
また医療大麻はパーキンソン病の症状をやわらげ、病気の進行を遅らせるという事例も報告されています。
医療大麻の未来
いまだ未知のファクターも多い医療大麻の世界ですが、ストレスや不眠から深刻な病気まで、私たちの体に役立つ可能性があることは否定できないでしょう。
規制緩和によって研究が進むことで1人でも多くの患者が救われる日が来ることを願いたいものです。
<参考資料>
https://www.verywellmind.com/can-cbd-help-with-depression-4845387