スウェーデンとギリシャの研究チームが、3Dプリントで作るCBD薬のアルゴリズムを設計したニュースが報じられました。どのような技術なのでしょうか、またどのようなメリットがあるのでしょうか?
ベストな投薬は人によって違うもの
大麻=ヘンプから生成され、健康維持やリラックスのために使用される薬理成分CBD(カンナビジオール)。米国では近年の規制緩和によりユーザーが増えており、市民の7人に1人がCBDを使用したことがあるというほど人気が上昇。スーパーやドラッグストアではCBD配合の食品やサプリなどバラエティ豊富な商品が販売されています。
また医療大麻は嗜好用大麻よりも先に合法化されていたこともあり、リラックスや安眠が目的のライトユーザーだけでなく、辛い病気の治療や症状の緩和にCBDを利用する人も増えています。
強いストレス症状やうつ病、関節炎の痛みなど、多くの人が症状の改善を求めてCBDを利用していますが、医薬品として最大限の効果を得るためには、患者の体格や症状ごとに投与の量や成分をカスタマイズする必要があります。
3Dプリント薬のメリットとは?
現在、患者の体質や病気の特徴に合わせて治療するパーソナライズ医療の分野で注目されているものの1つに「3Dプリント薬」があります。これはコンピューターを使った3Dプリント技術によって患者のニーズに合わせた薬剤を調合しプリント製造するという新技術です。
従来の製薬の品質は一定に保てるものの、それぞれの患者の人種や体重、内臓機能などの状態に合わせて薬を作ることはできません。3Dプリンターの強みは、コストをほとんど変えることなくデータを入れ替えるだけで毎回カスタマイズされた製品を作ることができる点にあります。
今回誕生したカンナビジオール錠剤(CBD)を3Dプリント製造するアルゴリズムとは、つまり独自のニーズそった料理を作るためのレシピにあたります。
患者のデータをもとに薬の成分を分析し、組み合わせるアルゴリズムを読み込むことで、様々な大きさ、形状、用量の薬品を簡単に製造できるようになるのです。
この3Dプリント薬には口の中で簡単に溶け、体内に速やかに吸収されます。またオイルなど液体状の薬よりも摂取量の把握がしやすく安全な上、持ち運びも楽になります。
将来的には病院や薬局での利用はもちろんのこと、ユーザーが自分に合った投与量の錠剤を自宅でプリントできるといわれています。
CBDの医療メリット
大麻の中には様々な成分が含まれます。中でもCBDはヘルスケア分野で様々なメリットが見つかっている期待の成分です。主に産業用ヘンプ(=大麻草)から抽出されますが、大麻成分のもう1つ有名な成分であるTHCのように「ハイ状態」を引き起こす精神作用はなく、不眠や不安状態の緩和、抗炎症や鎮痛作用のほかにも、自己免疫疾患、神経疾患(アルツハイマー病、認知症、パーキンソン病、多発性硬化症、てんかんなど)、精神疾患、消化管疾患などにも効果があるとされています。また、がんやエイズの緩和ケアとしてもポピュラーで、癌の治療薬としての可能性についても研究が進んでいます。
マリファナの主成分として知られ、精神活性作用を引き起こすことで知られるTHC(テトラヒドロカンナビノール)にも、様々な医療効果が見つかっています。アメリカ食品医薬品局(FDA)はエイズ患者の体重減少に関連する食欲不振の治療を含む、米国での治療的使用のために「マリノール」と「シンドロス」を承認しました。マリノールとシンドロスには、大麻の精神活性成分とされる合成THCである有効成分ドロナビノールが含まれています。
また鎮痛剤オピオイドの依存症に苦しむ人にもTHCやCBDの投与が効果的という研究が進んでいます。
3Dプリント薬はもう実用化済み
米薬品会社アプレシア・ファーマシューティカルズは、3Dプリンターで製造された「スプリタム(一般名:レベチラセラム)」と呼ばれる抗てんかん薬を発売しており、2015年には米国のFDA(米国食品医薬品局)が、世界で初めてこの3Dプリント薬を承認しました。少量の液体を加えるだけで急速に分解するため、患者が薬を飲み込みやすい構造になっています。
また医薬品ではなくサプリになりますが、英国の健康食品スタートアップ「Nourished」が2021年、個人のニーズに合わせてビタミンを配合した3Dプリント・グミの販売を開始しています。グミはジュガーフリーで動物性材料を排してビーガンにも対応。ユーザーは食生活や日々の運動などに関する質問に答え、その人に不足しがちな栄養素をブレンドしたグミをカスタマイズでオーダーできる仕組みになっています。
カスタマイズ医療の進化はとまらない
スマホやタブレットの普及、AIや5G技術によって遠隔治療が進化し、これまで手が届かなかった土地や空間にも医療・ヘルスケアが入り込んでいくと言われます。
3D薬もその一つとなり得ます。自分の病状・体調に合わせたCBDサプリを自宅でプリントすることができる、そんな日もそう遠くないのかもしれません。
<参考資料>
Scientists develop 3D printed CBD pills
https://3d-prints.com/2021/03/11/scientists-develop-3d-printed-cbd-pills/
Aprecia Pharmaceuticals
https://www.aprecia.com/
Nourished
https://get-nourished.com/