麻の繊維は丈夫でしかも環境に優しいエコ素材。中でもヘンプ=大麻からとれる繊維は金属やプラスチックの代用となる新素材として注目されています。本稿では、オランダで開催された「ダッチ・デザインウィーク」でデビューしたヘンプ製自転車や、新開発のヘンプ電気自転車について紹介します。
自転車王国オランダにヘンプ自転車が登場
環境保全活動の先進をいくヨーロッパ。脱プラスチック・脱石油で地球環境を守ろうとする取り組みが非常に盛んです。EU( 欧州連合)圏ではストローや綿棒、カップなどの使い捨てプラスチック製品の流通を禁止する新規制が施行され、スイスのように非加盟国の場合でも、独自の対策が行われています。
プラスチックから紙製ストローへの切り替えやレジ袋の有料化もかなり前から徹底されているほか、最近では住宅地やスーパーの駐車場などいたるところにEV充電ステーションが設置されるなど、クリーンエネルギー化と脱プラスチックへの取り組みが加速しています。
プラスチックや金属に代わる素材の研究も盛んです。麻や竹、とうもろこしなどの自然素材から作られたバイオプラスチックが現在の注目株。特に産業用ヘンプと呼ばれるタイプの麻は様々な産業利用の可能性を秘めています。ゴールドラッシュならぬ「グリーンラッシュ」と呼ばれる産業大麻ビジネスブームの先駆者であり、自転車王国としても知られるオランダでは、ヘンプで作られたスタイリッシュな自転車が発表され話題となりました。
トライアスロン競技にも耐えるタフさ
この大麻製の自転=ヘンプバイクは、工業デザイナーのリチャード・クライン(Mobitecture)とエンジニアのニコラス・メイヤーの協力によって開発され、オランダのアイントホーフェンで行われた「ダッチ・デザインウィーク(DDW)」で発表されました。このDDWはインダストリアルデザイン、プロダクトデザイン、テキスタイルなどの優れたダッチデザインを楽しむことが出来るイベントです。
リチャード・クライン氏は建築と工業デザイン(自動車デザインコース)を学んだ後、自動車、海軍、製品デザイン業界のいくつかの企業で働いてきた経歴の持ち主。ニコラス・メイヤー氏はかつて竹製の自転車を発表したことでも知られる人物です。メイヤー氏は2008年には持続可能な原材料の使用を専門とするOnyx Composites社を創立し、麻と竹を組み合わせたバイオ素材自転車のプロトタイプを発表するなど、様々なプロジェクトを進めていました。植物素材の自転車がエコであるだけでなく、従来の自転車と同じ耐久性があることを証明するため、彼はこのヘンプバイクに乗っていくつかのトライアスロンに参加しています。
エコな自転車をさらにエコに
自転車は排ガスを出さないエコな乗り物とされていますが、なぜ麻で作る必要があるのでしょうか。
それはフレームなど自転車パーツの製造方法にあります。従来のプラスチックなど石油由来の素材は生分解されにくく廃棄物処理の大きな負担になります。自然環境中へ捨てられた場合もいつまでも残ってしまうという問題があります。この点、植物素材から生まれた生分解性プラスチックは、微生物の働きによって最終的には水と二酸化炭素にまで分解されるため、増え続けるごみ問題の解決策になると期待されています。
またガラス繊維や金属などのパーツ製造工程では、高温で原料を溶かす必要があるため、多くのエネルギーが必要になります。またこれらの原材料は量に限りがあり、採掘するのにも多大な労力を必要とします。麻と竹と言った作物は再生が可能であり成長スピードも早く、加工するために使うエネルギーははるかに少なくて済むのです。
ほかにも生育の過程で光合成により大気中の二酸化炭素を吸収することでカーボンオフセットに役立つ点も見逃せないポイントです。座りっぱなしの生活が多い現代人にとっては、体を動かす移動手段としてもヘンプ自転車は優秀なアイテムだといえるでしょう。
エコな自転車をさらにエコに。そんな思いが込められたヘンプ自転車の全貌は、以下のリンクから動画で確認することができます。
石油を使わないバイオコンポジット
スウェーデンの電動自転車会社Cakeは、スウェーデンの新興企業Trifilon(トリフィロン)と協力、従来のプラスチック部品をトリフィロン製の植物ベースのバイオコンポジットに置き換えるプロジェクトを進めています。
またロンドンのデザインチームMcCLOY + MUCHEMWAは、竹や亜麻ベースのバイオプラスチックを用いた「バンブー・アーバン・ミニ・ベロ」と呼ばれるカスタムシティバイクを発表しました。
これらの自転車に使用されるバイオコンポジットとは廃材などの木製チップ、植物由来のバインダーで構成された100%バイオマス由来の材料を⽤いた成形品のことで、プラスチックや金属に匹敵する強度を保ちます。石油を使わずにプラスチック並みの強度を持つこれらの新素材は、石油由来のプラスチックの代用として、すでに医療や生活用品など様々なシーンで利用されているのです。
プラントベース素材でウィンウィンの未来を
金属やプラスチックは社会で幅広く利用され、私たちに恩恵をもたらしてくれていますが、現在では生産量が増えたため、地球環境へのダメージが増え続けています。より安定した供給が可能で環境負荷も少ない生分解性プラスチックやバイオマスプラスチックの開発・普及は私たちが取り組むべき緊急課題といえるでしょう。
日本でも素材の開発だけでなく、1989年には生分解性プラスチック研究会(現・日本バイオプラスチック協会)が設立され、生分解性と安全性が一定基準以上あることを識別する標準として「グリーンプラ識別表示制度」が設けられ、製品にシンボルマークを表示する取り組みが行われています。これにより、消費者がバイオマスプラスチック製品を容易に識別できる仕組みになっています。
便利で安全でスタイリッシュ。そして環境を傷つけない。そんなウィンウィンの社会を早く実現するためにも、代替素材市場の動きに注目したいものです。
<参考資料>
Mobitecture
https://www.mobitecture.com/portfolio/hemp-bike/
Cake
https://ridecake.com/en/
https://bioplasticsnews.com/2019/09/19/hemp-bioplastics-electric-motorbike/
トリフィロン
https://trifilon.com/materials/
BAMBOO-URBAN-MINI-VELO
https://www.designboom.com/design/mccloy-muchemwa-bamboo-bicycle-club-custom-city-bike-11-26-2020/
https://www.mccloymuchemwa.com/BAMBOO-URBAN-MINI-VELO
日本バイオプラスチック協会
http://www.jbpaweb.net/identification/