動物愛護の点からファッション界での毛皮反対運動は行われてきましたが、石油から生産される化学繊維に頼らない麻繊維を使ったフェイクファーが登場し、注目を浴びています。
「反・毛皮」から「反・フェイクファー」へ
キツネやミンクなど動物の毛皮を使ったファッションが非難され、ファッションショーなどで毛皮反対運動が行われるのを目にしたことがある方は多いのではないでしょうか。
一部のブランドははじめから「ファーフリー・レザーフリー」で動物に優しい服作りを続けてきたもの、多くの高級ブランドでは長い間、高級素材であるファーの使用廃止をためらってきました。
高級感ある素材として珍重される毛皮ですが、現在では化学繊維の技術が発展し、ファッショナブルで美しい風合いのフェイクファーが安価で楽しめるようになりました。
またプラダやグッチなどの有名ブランドがた2019年ごろから「完全ファーフリー」宣言をしたことで、移行はスムーズになってきているようです。
動物を殺さなくてすみ、カビや虫食いの心配もなく取り扱いの楽なフェイクファーですが、環境保護の視点から脱プラスチック運動が盛んになるにつれ、化学製品や石油を原料にした化学製品であるフェイクファーに対しても反対運動が起こるようになっています。
なぜフェイクファーは環境に悪いのか
フェイクファーは生産時や洗浄時に微細なマイクロファイバーを産み出し、排水と混ざって水資源を汚染したり、フェイクファー製品が廃棄された場合も分解されるまで数百年もかかり環境に悪影響を与えます。
服や生活用品、建設資材など、私たちの生活のあらゆるシーンで利用されているプラスチックですが、その年間生産量は過去50年で20倍に増大しました。普段私たちが使っているプラスチック製のペットボトルや容器などは、ポイ捨てされたり適切な処分がされないことにより海に流されて海洋プラスチックごみになります。
これらのプラスチックごみは、やがて小さなプラスチックの粒子となっていきますが、細かくなっても自然分解することはなく、数百年間以上にわたり水や土壌に残り続け、そこに住む生き物の命を奪うなど生態系に被害を与えると言われ「海洋プラスチック問題」と呼ばれています。
こういった状況は単に海や生物を汚染するだけでなく、海洋資源が乏しくなることで漁業・養殖業・観光業など豊かな自然の恵みによって成り立っている産業にも大きな被害をもたらしており、今後人類全体の生活にも影響を及ぼしていくと言われます。
フェイクファーも化石燃料から生まれるプラスチックの一種。フェイクファー生産時に水に混入するマイクロファイバーも微細な化学繊維であるため、ろ過でより分けることは難しくプラスチックごみと同じように海へ流れ込みます。
「リアル毛皮の方がエコ」という意見も
従来製品の10倍の速さで生分解される化学繊維も開発されていますが、数ヶ月で分解される天然素材と比較するとまだ雲泥の差があるのです。
「動物の命を奪う毛皮製品は過去のもの」といった風潮が強まっているファッション業界ですが、代替品であるフェイクファー が本当に地球環境に配慮していると言えるのか?という点で大きな疑問が残ります。
毛皮使用の擁護派からは「人工のフェイクファーは自然分解せず環境に悪い。毛皮の方が自然への影響が少なく持続可能な素材だ」という声も上がっています。ほかにも「フェイクファーを子どもたちに残そうと思う人はいないだろうが、毛皮は大切に扱えば何世代にもわたって継承することができる。毛皮の方が循環型経済に貢献している」という意見もあるのです。
麻から毛皮ができる?
一長一短あるこのような議論を背景に、ウクライナのキエフに本拠を置くデザイン会社DevoHomeが、麻の植物の繊維と綿ベースのビスカスを使用した毛皮風の新素材を発表しました。この天然由来の麻由来のフェイクファー生地は農薬や除草剤を使用せずに栽培された有機ヘンプを使用して作成されています。
ウクライナのファッションウィークで発表された同ブランドのヘンプファー・コレクションは欧州でたちまち注目を浴び、ファッション界と動物権利運動家の間で一気に認知度を上げました。
ヘンプは生分解性が高いため土に還るスピードも早いだけでなく、作る人や着る人にアレルギーを起こす心配もありません。ウクライナ人の57%が毛皮生産の廃止を支持していると言われ、人々は政府のウェブサイトを通して、毛皮ファーミングの禁止法案を支持しました。
DevoHomeではヘンプ・テキスタイルの専門家であり、ほかにもヘンプ素材のベッドリネンやソックス、ヘンプファーを使用した肌触りが良く暖かなブランケット、フェイスマスクなど、様々な商品を展開しています。
まとめ
「反・毛皮」と「反・フェイクファー」の解決策の一つとなりうるヘンプ・ファー。
麻の繊維は毛皮風に加工したりコットンにブレンドすることで素材感のバリエーションも生まれるため、衣料品の素材としてますます注目され、リーバイスやAGといった大手ジーンズメーカーでの採用が増えています。
環境への負荷が少ないことに加え、ヴィーガン素材であることも各ブランドに良いイメージをもたらすはず。
世界の多くの土地で麻の利用が合法化されるにつれて、よりサステナブルで倫理的な素材の開発が普及することに期待したいものです。
<参考資料>
https://www.euronews.com/green/2021/04/18/this-biodegradable-faux-fur-is-made-from-cannabis-plants
DevoHome
https://devohome.com/
海洋プラスチック問題
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/3776.html