良質のビーガン食や自然派のグルテンフリー商品、そして環境に優しく味にこだわった食品を販売する英国のオンライン・グルメセレクトショップ「ザ・グッドネス・プロジェクト」が、ヘンプを原材料に使ったドイツ産オーガニックビールをラインナップに加えました。このビールは現在、日本を始めアジアでも入手できるようになっています。
麻を「原材料」にしたビール
ドイツで誕生したこのビール「カナビア(Cannabía®)」は、世界初の麻を原料にしたラガービール。ドイツでは14年間にわたる禁止期間の後、1996年にデルタ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)含有量が0.2%を超えない産業用大麻、いわゆる繊維麻の栽培が合法化されました。このビールは解禁と時期を同じくして誕生したという、すでに歴史のあるユニークなクラフトビールです。
「カナビア」はベルリンの保健当局によって承認され生産を開始したのち、じわじわと世界中にファンを増やしています。近年はクラフトビールの人気が世界的に広まっていること、そして大麻成分の人気という相乗効果で、これまで以上に注目が集待っています。
世界的に産業ヘンプの解禁が進んだ近年では、「グリーンラッシュ=大麻特需」と呼ばれるほど各国で大麻成分を利用した商品がトレンドとなっており、麻由来の成分カンナビジオール(CBD)や先述のTHCを添加したビールや清涼飲料が急激に増え、マイクロブルワリー(※)も大盛況です。
しかしこのビールが他と違うのは、成分をただ添加するのではなく、ビールの「原材料」として麻を使っているところです。ビールの主原料である麦芽、ホップ、小麦だけでなく、麻作物として原材料に加えられ醸造されています。滑らかな口あたりで、ホップの香りに加えて麻のさわやかで独特な風味が特徴。アルコール度数は5%程度と、飲みやすさも魅力です。
※マイクロブルワリー
大企業ではない独立した職人たちが運営する小規模醸造所を指します。大手に比べ、ブルワリーごとに個性のあるビールが特徴です。スパイスやフルーツなどこれまであまりなかった材料をブレンドした、ブランド色ある味や、エッジのきいたブランディングが話題になっています。
麻をビールに加える理由
麻には「テルペン」と呼ばれる、多くの芳香成分が含まれています。ビールの香りと苦味をもたらしてくれるホップにも共通する成分もあり、ドリンクの素材としても活用ができるとのこと。加えて、このテルペンや香りや風味を与えてくれるだけでなく、人体に様々な作用をもたらします。
大麻に限らず植物全般に含まれるテルペンですが、種類によってリラックス効果や抗菌性を持っていたり、特定の病気の抑制などにも役立つことがわかってきており、CBDやTHCとともに、研究や産業利用が進められている成分です。
リラックス効果や様々な健康増進効果を加えるため、麻由来の成分CBDを加えたビールが主流ですが、向精神作用を持つテトラヒドロカンナビノール(THC)をビールに加えている商品も存在します(THCの嗜好的量が合法になっている国に限られています)。
ドイツでは産業麻栽培の条件として、THC含有量が作物の0.2%を超えることは許されていません。一般的な嗜好用大麻のTHC含有量は10〜20%ですから産業麻のTHC含有量はごく微量です。食品類に使用するためには厳しい審査をクリアする必要があるため、安心してドリンクを楽しむことができます。
麻にネガティブな印象を持つ人も多く存在しますが、一方で天然植物としてのナチュラルさに惹かれる人もいます。また大麻の持つエッジのきいたイメージも消費者へのアピールの一つになっていることは無視できない要因でしょう。
各国で合法化や一部利用が進んでいる現在、麻はビールに加えるべきユニークなフレーバーの一つとして無視できない存在になっているよう。
英国では330ml瓶入りで2.2ポンド(約330円)で発売されている「カナビア」。
現在のドイツでは麻成分配合のビール・ブランドが増え、ドイツ醸造協会の統計によると、国内のビール販売量は落ち込んでいるのにも関わらず(2009年の1億ヘクトリットルから、2017年には約9,350万ヘクトリットルにダウン)、麻の成分を配合したビールを製造するマイクロブルワリーの数は大きく増えているとのことです。
「エシカル✖️サブスクリプション」という先端ビジネス
この「カナビア」をラインナップに加えた「ザ・グッドネス・プロジェクト」は、英国でスタートした、食と健康・環境保護に敏感な個人と企業に向けた食のオンライン・プラットフォームです。
あちこち回らなくてもワンストップで必要な商品が揃うオーガニックショップを目指して2013年に誕生したこのサービスですが、ヘルシーで倫理的な配慮がなされたスナックのセレクションやギフトセットを個人のニーズに合わせて選ぶことができ、定期購入もできるサービスとして人気を伸ばしています。このサービスにより、周りにオーガニックや健康食品を専門に扱う店舗がない地域でも、様々な商品を手に入れることができるようになりました。
また同社は多くの企業をクライアントに抱えています。オフィス用に従業員にヘルシーかつ倫理的な方法で生産されたスナックやドリンクを提供したり、ビジネス用ギフト用に品質・味・エシカルにこだわった詰め合わせギフトで自社イメージを高めるというメリットもあります。またオーダーメイドのカードを添えたりできるなど、パーソナルなタッチを加えることにも忘れていません。
麻の持つ素晴らしい特性
食品や飲料に使用されてきた麻には様々な成分が含まれていますが、近年最も知られているのは、痛みや炎症、不眠などから難病の治療まで人体への様々な効果が期待されるヘルス成分であるCBDとTHCでしょう。
CBDはカンナビジオールの略で、麻に含まれる薬理成分カンナビノイドの一つです。不安や不眠を和らげ、体内の炎症を抑えて痛みを緩和したり、リラックスさせる効果があり、サプリやコスメなどにも使用されています。中毒性や精神を高揚させる作用もなく、日本でも合法成分として安心して使用することができます。
また近年ではこの成分を配合したスナックやドリンク、菓子類も多く出回るようになり、ウェルネス志向でトレンドに敏感な若い世代に人気のジャンルとなっています。
もう一つのTHCはテトラヒドロカンナビノールの略で、こちらも麻に含まれるカンナビノイドです。大麻喫煙の際に起こる陶酔作用、いわゆる「ハイ」の状態を引き起こす成分として広く知られていますが、他にも痛みの緩和や吐き気やけいれんを抑制したり、食欲増進の効果があるため、CBDと共に医薬品にも利用されています。
このCBDとTHCは現在のところ医療大麻の最も重要なファクターとされ、2つを組み合わせることで医療効果がさらに高まるとされています。またCBDはTHCの鎮痛作用や抗がん作用を強め過剰な精神作用を鎮める働きを持つなど、相乗効果だけでなくバランス効果も見られるようです。
またビールの紹介で登場した芳香成分「テルペン」も、人体に作用することが分かっています。一般によく知られているのはアロマセラピー療法で使用されるエッセンシャルオイルです。植物それぞれのもつ香りのエッセンスを凝縮した形で利用することで、自律神経を整え、精神と体のリラックスや炎症緩和などに役立てます。テルペンはほかにも抗菌や防虫作用、洗浄作用、防腐作用などを持つタイプがあり、産業界でも植物から抽出したテルペンを積極的に利用しています。
麻を日常生活に取り入れる
麻は人類の歴史と共に歩んできた作物。着る・食べる・飲むなど現在でもお好みの形で麻の恩恵を受けることができます。
今回紹介したビールもその一つ。バイエルンの湧き水と有機麻を使った伝統的なドイツ・ビールというだけでもなかなか美味しそうですが、このような健康効果も期待できるのであればなおのこと。現在ではヨーロッパ圏だけでなく日本やアジアでも入手できるので、見聞を深めその効果を体験するために、手にとってみてはいかがでしょうか。
<参考資料>
http://www.cannabia.de/english/page1.html
https://www.cannabia.com/
https://thegoodnessproject.co.uk/shop/cannabia-organic-hemp-beer-germany-vegan-330ml
https://www.thelocal.de/20181105/legal-doping-cannabis-in-beer-experiencing-a-high