はじめに
しばしば、アジア(インド、ベトナム)、アフリカ諸国で食糧問題が騒がれています[図1]。
これまでにも飢饉は多く存在しました。江戸の四大飢饉、アイルランドのジャガイモ飢饉など、挙げればきりがありません。特に、アイルランド飢饉は、近代に起こったという点と、総人口の半分が餓死や移住によって減ったことで、民族文化に与えた影響も大きく、多くの人が知るゆえんになっていると思います。食糧問題が文化に与える影響が大きい中我々はどのようなことから取り組んでいけばいいか、ここでは、麻植物の有効性について紹介していきます。
飢餓の現状
飢餓が原因で年間1500万人以上の人がなくなっており、そのうち7割以上が子供たちです。飢餓の状態になるというのは、需要より供給が少ないわけではありません。年間穀物生産量は24億 tで人口70億人と考えても一人あたり340 kgも穀物があり、一人あたりの標準量が180 kgと考えると十分な量の生産が行われています。日本のように食べ物がいつでも手に入るのは世界人口の2割といわれています。実際、食糧供給量をみると、日本では必要なカロリーより31%も多く、ソマリアでは16%不足しています。それだけではありません。穀物は人間だけではなく、生産される穀物の6割は家畜の餌になっています[図2]。
食料品としてのヘンプ
麻植物の種子(ヘンプシード)にはTHC(麻薬成分)がほとんど存在しないので、食べても麻薬の症状はでません[図3]。
ヘンプシードはタンパク質とエッセンシャルオイルを兼ね備えたスーパーフードです。食物繊維も豊富で味はナッツのようで、七味にも使用されています。多くの必須脂肪酸を含んでいるため、体の免疫力を高め、肌や髪、目の艶が良くなり、思考力にも影響を与えます[表1]。アメリカでも麻植物の2018年に食品利用が許可されて以来[1]、ニュースなどでもよく耳にすることが多くなったと思います。事実、ヘンプシードは、工業用のヘンププラント、カンナビスサティバ種の一種であり、食品以外にも何千もの用途があります。ヘンプシードは球形で、色は淡褐色で、重量は非常に小さく、外皮を含む種子あたり約25 mgです。工業用大麻は種子の生産量が多く、商業的に栽培した場合、1ヘクタールあたり0.6~2.4トンの収量があります。
さて、麻植物を家畜に使うことはどうなのでしょうか。現在、アメリカではこの議論が上がっています。FDAは「安全性は確認できない」と、消極的です。しかし、牧場主は「麻植物は必要な栄養素を持っていて、育てるのが簡単、すぐに成長する」という麻植物の特徴から、その利用に注目しています。最近、テレビでもヘンプシードを飲み物に混ぜて飲むのが朝食といった具合に、みなさんの食卓においても、その影響は徐々に出てきています。
2011年に麻植物の種子をもち育てた牛に関しては、安全性を確認しています[2,3]。しかし、ここで留意してほしいのは、このような研究例が極端に少ないこと、また、麻植物には多数の品種があることです。また、麻植物飼料連合のプログラムディレクターは、認証を受けていないだけで、ドッグフード、馬や家畜の飼料に麻植物が含まれていると言われています。2019年に麻植物の栽培に関するアンケートを行った結果、農家の方々は概ね肯定的な意見を持っているようです[3]。麻の種子のみならず、麻植物自体も家畜の餌に利用する方法が確立すれば、農家への経済的な恩恵だけではなく、植物問題にも大いに役立つ可能性があります。
表1.ヘンプシードの栄養素[3]
栄養素 | 単位 | ヘンプシード100 g当たり内容量 |
---|---|---|
水 | g | 4.96 |
エネルギー | kcal | 553 |
タンパク質 | g | 31.56 |
全脂肪酸 | g | 48.75 |
炭水化物 | g | 8.67 |
食物繊維 | g | 4.0 |
糖 | G | 1.50 |
含有成分 | ||
カルシウム | mg | 70 |
鉄 | mg | 7.95 |
マグネシウム | mg | 700 |
リン | mg | 1650 |
カリウム | mg | 1200 |
ナトリウム | mg | 5 |
亜鉛 | mg | 9.90 |
ビタミン | ||
ビタミンC | mg | 0.5 |
ビタミンB1 | mg | 1.275 |
ビタミンB2 | mg | 0.285 |
ニコチン酸 | mg | 9.200 |
ビタミンB6 | mg | 0.600 |
葉酸 | µg | 110 |
ビタミンA, RAE | µg | 1 |
ビタミンA, IU | IU | 11 |
ビタミンE | mg | 0.800 |
脂質 | ||
飽和脂肪酸 | g | 4.600 |
一価不飽和脂肪酸 | g | 5.400 |
高級脂肪酸 | g | 38.100 |
トランス脂肪酸 | g | 0.000 |
コレステロール | mg | 0 |
ヘンプシードオイルはオリーブオイルよりも優れている?
有益な脂肪酸に関しては、ヘンプシードオイルにはいくつかの種類が非常に多く含まれています。
- リノール酸(LA)オメガ6*(43~62%) – 多くのオリーブオイル製品よりもはるかに高いです。
- α-リノレン酸、オメガ3(ALA、22%)。
- γ-リノレン酸、オメガ6(GLA、1~4
- オメガ3(SDA、0-2%)。
ヘンプシードオイルがオリーブオイルよりも心臓に良いことを示唆するいくつかの証拠があり、減量の努力を支援し、糖尿病の前兆であるインスリン抵抗性の可能性を減らすことができます
動物用寝具
工業用ヘンプは、低コストで超吸収性のある寝具材料を農場動物に提供することができます[図4]。
麻の寝具は、植物のハード(茎の部分)から供給されます。この目的のために藁状にマルチングされています。抗菌・抗真菌作用があるだけでなく、他の植物性寝具に含まれているような問題のあるフェノール類も含まれていません。ヘンプには無駄がありません。うまくいけば、世界中のより多くの農家が、工業用ヘンプの可能性を最大限に活用し始めることができるようになるでしょう。
まとめ
麻植物の種子に関しては、人間に対しての食品としての優位性は確かめられ、世界中で認可がおりている、または、審査中です。家畜の飼料としても一定の評価が得られています。しかし、麻植物自体を利用することにはもう少し検証が必要です。 麻植物やその種子の利用が活発になれば、穀物を一定量人間が食べる方へ回すことも可能です。少しでも、飢餓に苦しむ人々を減らすためにも、これらの検証が進むことを望むばかりです。
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引用
- https://www.ams.usda.gov/rules-regulations/hemp/rulemaking-documents
- EFSA Panel on Additives and Products or Substances used in Animal Feed (FEEDAP). “Scientific Opinion on the safety of hemp (Cannabis genus) for use as animal feed.” EFSA Journal 9.3 (2011): 2011.
- https://digitalcommons.murraystate.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=3331&context=postersatthecapitol
- https://nutritiondata.self.com/facts/custom/1352377/1