大麻草=ヘンプには私たちの体に役立つさまざまな成分が含まれていることが知られるようになりました。本稿では大麻草に含まれる鎮痛効果の不思議についてご紹介します。
ヘンプの鎮痛成分その①カンナビノイド
近年、大麻草(ヘンプ)は嗜好品や麻薬としてのイメージだけでなく、その優れた健康効果が注目を集めています。中でもヘンプに含まれる副作用リスクが低く健康に役立つ成分は、様々な病気で悩みを抱える人々にとって大きな希望になっています。
ヘンプには、カンナビノイドと呼ばれる100種類以上の化合物が存在します。このカンナビノイドは、エンドカンナビノイドシステム(ECS)と呼ばれる体内に存在する生体調節システムに作用します。ECSは食欲、睡眠、気分、免疫、記憶、痛みなど、様々な生理機能に関与していることが分かっています。
カンナビノイドの中でも痛みを緩和する効果が高いのはCBD (カンナビジオール) と THC (テトラヒドロカンナビノール) です。とくにCBDは精神を活性化させる作用がほとんどないため安心して使いやすく人気があります。鎮痛作用や抗炎症作用だけでなく様々な健康効果があるため、現在ではオイルやサプリメントなどさまざまな形の製品が手に入るようになりました。
ヘンプの鎮痛成分その②テルペン
カンナビノイド注目が集まりがちなヘンプですが、ヘンプの中にはテルペンと呼ばれる物質もたくさん含まれています。テルペンは植物が自分を守るための役割を持つ成分ですが、米国アリゾナ大学で行われた研究では、テルペンについてマウス実験を行い、大麻草に含まれるテルペンのうち、そのいくつかが非常に優れた鎮痛効果を持っていることを発見しました。
テルペンは柑橘類の香り、ハーブの香り、樹脂の香りなど植物の香り成分です。これらは植物が害虫や菌類から身を守ったり、昆虫を引き寄せ受粉を促す、光合成や水分調節を行うなど植物の生存に大切な役割を果たしています。
植物から抽出した香り高いエッセンシャルオイルがアロマテラピーとして活用されているように、テルペンは植物自身だけでなく人間にも影響を及ぼすことが分かっており、健康食品や化粧品などの分野でも注目されています。
テルペン類には、一般に以下のような様々な効果があることが分かっています。
抗菌作用: 細菌やカビの繁殖を抑える効果
抗炎症作用: 炎症を抑える効果
抗酸化作用: 体内の活性酸素を除去する効果
鎮痛作用: 痛みを和らげる効果
リラックス効果: 心身をリラックスさせる効果
集中力向上効果: 集中力を高める効果
美肌効果: 肌の調子を整える効果
アリゾナ大学の「痛みケア」研究
2024年5月に発表されたアリゾナ大学の研究では、ヘンプに中〜高濃度で含まれる 5 種類のテルペン「アルファフムレン、ベータカリオフィレン、ベータピネン、ゲラニオール、リナロール」の5種類に注目し実験が行われ、マウス実験で化学療法薬による神経損傷から生じる神経障害性疼痛に対する効果を調べました。
これらのテストでは、鎮痛剤として使用されるモルヒネと比較し、各テルペンを個別に使用した場合の結果と、5種類を組み合わせた場合の結果を比較しています。モルヒネは麻薬性鎮痛薬で、強い痛みを抑える効果があり、がん患者や手術後の痛み緩和などに使用される薬物です。
実験の結果、5種類のテルペンはそれぞれ「モルヒネのピーク効果に近いか、それ以上」の優れたな鎮痛効果を示し、組み合わせると鎮痛効果がさらに強まることが確認されました。またテルペンは経口摂取や吸入よりも注射の方が鎮痛が高くなることもわかりました。
モルヒネに似た鎮痛剤でより流通している薬剤に「オピオイド」があります。強力な鎮痛薬として、急性や慢性の重度の痛みの管理に使用されますが、中毒性がひじょうに高く米国では鎮痛剤の中毒・過剰摂取で亡くなる人が後を立ちません。この「オピオイド危機」は、アメリカで現在深刻な社会問題となっています。
テルペンはモルヒネやオピオイドと同等かそれ以上の鎮痛効果を持つほかにも、依存症や精神作用を引き起こさないことも今回の実験でわかりました。マウス実験の結果が人間にも同じように当てはまるとは限りませんが、副作用が少ないテルペンが、オピオイド中毒で苦しんでいる人々を救う可能性があります。
カンナビノイドと組み合わせ効果アップ
ヘンプに含まれるテルペンは、同じくヘンプに含まれるカンナビノイドと併用することでも相乗効果の可能性があるようです。アリゾナ大の研究チームは今後もテルペンの効果的な使い方を研究し。また、カンナビノイドとテルペンの組み合わせ療法が、鎮痛効果を高めつつ依存症のリスクを減らす方法の開発に注力したいとコメントしています。
2023年2月に発表された米ニューメキシコ大学の研究では、テルペン値が高いほど痛み軽減さ効果が高いとされていますが、別の研究では、テルペンの効果が過大評価されている可能性も指摘されています。ヘンプに含まれるどの成分を選び、どのようなバランスで組み合わせるのかが、今後の課題になっているようです。
まとめ
ヘンプは成長スピードが早く、安定的に供給できる天然素材です。食料、建材、医薬品など、私たちの生活に欠かせない様々な分野で幅広く活用できる上、地球温暖化対策にも役立つ環境に優しい植物です。今後はさらに広い分野で活用されていくことが期待されています。
<参考資料>
https://hightimes.com/news/research-shows-terpenes-can-help-treat-pain-caused-by-chemo-medications