医療大麻がポピュラーになるにつれて、環境にダメージを与えずに産業用ヘンプを大量生産できる新しいエコ農業が模索されています。本稿ではこれまで難しかった医療用大麻の垂直栽培と環境ガス削減を両方実現したスタートアップ企業「クレバー・リーブス」についてご紹介します。
エコフレンドリーな大麻栽培
最近、地球温暖化、洪水、干ばつなどの気象災害が増加し、気候変動の影響が広がっています。この問題に対処するため、さまざまな対策がとられており、石油から再生エネルギーへの移行やプラスチックの削減などが行われています。また気候変動に大きく影響を与え、同時にせ今日を受けている農業の分野でも、さまざまな取り組みが行われています。
西欧諸国を中心にマーケットの広がった医療大麻(ヘンプ)は、需要が高まるにつれ気候に左右されず品質を一貫して保ちやすい室内栽培された大麻の需要が増えています。
医療大麻(メディカル・カンナビス/医療ヘンプ )とは、医療的な目的で使用される大麻植物の薬用部位やその関連製品のことを指します。大麻植物の中でもカンナビス ・サティバ種、カンナビス ・インディカ種は、病気の治療に有用な成分が含まれており、疼痛緩和、てんかんの症状緩和、多発性硬化症、がん治療の副作用ケアなどに使われます。
ただし大麻を大量に室内栽培するには空調や光源が必要になり、そのために多くの電力エネルギーが使われ、CO2などの環境ガスが発生します。大麻草は成長が早く、育つ過程でたくさんのCO2を吸収してくれるというメリットがあるのですが、それでも消費電力を完全に相殺することは難しいとされています。
垂直栽培がカギ?
こういったエネルギーを効率的に使い省エネを図る方法として、垂直農法が注目されています。垂直農法では土地面積を有効活用し、水耕栽培などの装置を垂直に積み重ねてLEDなどを使った人工照明で野菜や果物を育てます。
垂直農法のメリットは、土地の制約を受けずに多くの作物を生産できることです。また屋内のため害虫や雑草の問題が減るため、農薬や除草剤の使用をカットしより安全な作物を生産できます。そして畑に比べて水の使用量が少なく、天然資源を節約することもできます。
しかし一方で、畑と比較して建設費用がかかったり、空調や照明などのエネルギー消費による環境への影響とエネルギー費用の増加がデメリットとなります。
このような問題はエネルギー源として風力発電など再生エネルギーを利用することでも全体の排出量を調節することができるでしょう。
また大麻草は同じ面積の森林と比較して数倍の二酸化炭素をするため、垂直栽培で生産量を増やすことで排出される環境ガスをオフセットすることは原則的には可能です。しかしヘンプは上方向に高く伸びる植物であるため、サラダ菜やベリー類のようにこれまで行われてきたスタンダードな垂直栽培に比べてさらに多くの垂直スペースが必要となり、室内栽培は可能でも、完全な垂直農法への移行は難しいとされてきました。
世界初のヘンプ垂直栽培がはじまった
そんな中、米ニューヨークに本社を置くスタートアップ企業クレバー・リーブスが2023年8月末に100%カーボンニュートラルな産業用ヘンプ生産を実現し、国際的なカーボンニュートラル宣言を受賞したことが報じられました。同社はコロンビアを含む南米で、医療グレードの大麻を生産しているほか、ドイツなどヨーロッパにも進出しています。
「カーボンニュートラル」とは、地球環境への悪影響を最小限に抑えるための取り組みの一つです。具体的には、私たちが日常生活やビジネスで出す二酸化炭素(CO2)や他の温室効果ガスの排出を同じ量だけ削減するか、吸収することを意味します。たとえば植林をしたり、再生可能エネルギーを使ったりすることで、ビジネスで排出したCO2を相殺、つまりプラスマイナスゼロにすることができます。
クレバー・リーブスは、産業用ヘンプを育てるのに適した垂直農園を開発し、商業的な規模でカーボンニュートラルを実現したと言われており、注目を浴びています。
通常、ヘンプを室内で育てると、1キログラムの大麻有効成分を生産するのに多くのCO2が発生します(最大で2,300~5,200キログラム)。しかしクレバー・リーブスの垂直農法では、わずか16キログラムに発生量を抑えることができます。
この方法は、医療用ヘンプを生産するために必要なエネルギーを大幅に削減し、環境へのCO2排出を大幅に減少させ持続的に農業を続けるために最も効果的な方法の一つです。
カーボンニュートラル大麻で持続的な医療を
サステナブルであること、そして持続的にヘンプ生産ができることは地球環境に良いだけでなく、私たちの医薬品が無理なく手に入ることを意味します。これはビジネスだけでなく、医師や患者にとっても非常に重要なポイントです。
医療用ヘンプは北米やヨーロッパをはじめ多くの国ですでに合法化されています。近年では大麻への規制が非常に厳しかったタイ王国でも医療用ヘンプが合法化されたことにより、マレーシアやシンガポールなど他のアジア諸国においても医療用大麻の合法化に向けた動きがあると言われ、日本でも検討を求める声が上がっています。
医療大麻には「THC(テトラヒドロカンナビノール)」と「CBD(カンナビジオール)」
をはじめとする生理活性成分が含まれており、さまざまな病気や症状の治療や緩和に使用されています。以下は医療大麻が効果的であるとされる病気や症状の一部です。
とくにCBDについてはTHCと異なり精神を高揚させる作用がないため、扱いやすく安心して使うことができます。
痛みケア: 関節炎や神経性疼痛や癌による痛みの緩和に役立ちます。
発作ケア: てんかんの発作をコントロールすることができます。
がん関連の症状ケア: がん患者の吐き気や嘔吐の緩和、食欲増進、痛みケアに利用できます。
不眠症: リラックス作用により睡眠障害や不眠症の改善に役立ちます。
不安症状やうつ状態の緩和: 一部の患者にとって、不安症状やストレス、うつ気分の軽減に役立つことが報告されています。
自己免疫疾患: 多発性硬化症(MS)、関節や内臓に影響を与えるレウミトイド・アーサスやクローン病などの自己免疫疾患の症状緩和に使用されることがあります。
医療大麻の効果や安全性は個人差があり、適切かどうかは個人の病状や医師の判断が必要になりますが、医師の診断を受けたのち、認可された医療大麻ディスペンサリー(医療用の大麻薬局)で医療大麻製品を購入します。ディスペンサリーは患者に適切な品種や形態(花、オイル、カプセルなど)を提供します。
エリアによっては治療のために大麻を使用する患者に特別な医療大麻カードを発行することもあります。このカードは警察や法的機関への証明となり、患者が医療大麻を所定の方法によって入手できることを示します。
医療ケアと環境ケアは両立できる
医療大麻と環境の課題を考える上で、クレバー・リーブスの取り組みは画期的です。彼らの垂直農法は、医療大麻の生産に伴うCO2排出を大幅に減らし、環境にやさしい方法を提供しています。この取り組みは、地球環境を保護しつつ患者の健康も向上させる素晴らしい例といえます。環境保護と健康の向上を同時に実現するこの方向性は、今後ますます注目を浴びるでしょう。
<参考資料>