州単位で大麻の使用が認められつつあるアメリカ合衆国では、大学でも大麻の科学やビジネスを教えるプログラムが各地に設立されています。
専門家が不足している大麻ビジネス業界
アメリカでは医療用や嗜好用の大麻が合法化される州が増えており、2012年に全米に先駆けてワシントン州とコロラド州で嗜好用大麻が合法化されたのを皮切りに、2023年2月現在、全米50州のうち20近くの州で嗜好大麻が合法化されています。医療大麻のみ合法の州も数えるとその数は30州を超えています。
さまざまな製品やサービスが手に入るようになったことは良いのですが、市場の急激な成長により、大麻産業では農業、薬学、法律分野など、多ジャンルにわたる大麻の専門家不足が続いています。そのため米国では大麻研究やビジネスを教える大学プログラムが全国各地に設立されるようになりました。州によってはただ大麻について勉強するだけでなく、大学内で一定の品質をクリアした大麻の栽培が認められており、講義や研究はより実践的なものになってきているのが特徴です。
アメリカの大学の大麻ビジネスコースを覗いてみよう
2019年に大麻を合法化したミシガン州にある北ミシガン大学は「大麻、大麻抽出物、および産業」に焦点を当てた薬用植物化学分野における学位を取得することができるほか、医療大麻に関連するさまざまなジャンルを網羅するコースが生まれました。講師には科学者や医師、医療大麻の医師、診療所の所有者、大麻の弁護士、政治家などが含まれます。
また同じミシガン州のレイク・スペリオル州立大学でも、大麻に含まれる生理活性成分カンナビノイドやテルペンといった物質や汚染物質の定量分析に焦点を当てた、米国で最初の学位プログラムを提供し、学士号および準学士号を取得することができます。
専門学校でも大麻栽培や成分の抽出、ライセンス取得、大麻料理コースなど大麻関連の事業を8週間のコースで学び資格を取得できる学校Higher Learning Institutionsも登場しています。
1996年に医療大麻、そして2016年に嗜好用大麻がカリフォルニア州は多くの観光者も訪れる大麻観光と大麻ビジネスのハブの1つです。大麻ビジネスに参入しようとしている人々や起業家にとっても魅力的なエリア。全米初の大麻専用オンライン大学「カリフォルニア・カンナビス・カレッジ」は、2009 年に開校しました。
カレッジではさまざまな大麻ビジネスで役立つスキルや知識を学ぶことができ、入学者は世界のどこからでも教材にアクセスできます。カリキュラムは大麻の栽培、抽出、料理、法律、歴史、医学、キャリア、ビジネスなど、業界の重要なジャンルを全てカバーしており、コース終了テスト後に取得できるCTU認定( Cannabis Training University )は業界でも定評があり、大麻ビジネスへのパスポートとなっています。もちろん日本からのアクセスも可能です。
大麻関連の仕事にはどんなものがある?
米国で人気となっている大麻関連ビジネスの職種の例をあげて見ましょう。
大麻医学の研究者(化学者)
大麻セラピスト
大麻ビジネスのマーケター
大麻料理シェフ
大麻ソムリエ
大麻ラウンジ経営
大麻ビジネスに特化した弁護士
大麻政治学者
大麻ファーム経営
ディスペンサリー(大麻薬局)経営
化学×大麻、料理×大麻、法律×大麻など、既存のスキルと大麻の専門知識を組み合わせることで特化したサービスを提供することができるため、新しいキャリアチャンスが広がっています。
さまざまな種類がある大麻ですが、どの品種が使用目的にふさわしいかを選別したり、品種改良を行ったりすることも、専門知識があってはじめて可能になります。また大麻草に含まれる重金属の含有量など有毒な成分が入っていないことを検査する技術も重宝されます。
大麻成分が人気の理由とは
大麻には THC(テトラヒドロカンナビノール)といったカンナビノイド類、そして精油の中にも含まれる化学物質テルペンなどさま数百種類もの物質が含まれています。これらは人体に取り入れることでさまざまな作用を引き起こします。
大麻の成分として最も有名な THC(テトラヒドロカンナビノール)は、いわゆる大麻喫煙のハイ状態を引き起こすことで知られていますが、この精神作用は THCの持つ特性の1つに過ぎず、ほかにも強い痛みを緩和したり、吐き気やけいれんを抑え、食欲を増進するなど様々な効果を持っています。このためがん患者や難病の化学療法の副作用を抑えたり、減退した食欲を取り戻して体力をキープする目的で使用されることもあります。
また日本でも人気の高いCBD(カンナビジオール)はリラックス効果やストレスの緩和、不眠緩和、痛み止めなどに効果を発揮するほか、神経性の疾患の一つである多発性硬化症(MS)のけいれんや手足の硬直といったつらい症状に効果を発揮することも分かっています。化学薬品とことなり目立った副作用がないことも大きなメリットです。
これらのカンナビノイドには100種類以上もの種類があります。上記の例のほかにも、CBG(カンナビゲロール)、CBN(カンナビノール)、CBC(カンナビクロール)など、それぞれに特有の作用があるカンナビノイドが存在します。近年注目されているのは、少量しか含まれていないが、効果の高いレアカンナビノイドで、代表的なものには、THCV(テトラヒドロカンナビバリン)や、CBGv(カンナビガバリン)が挙げられます。
ほかにも大麻に含まれる香り成分でもあるテルペン類は気管支の拡張、鎮静、筋肉弛緩、鎮痛作用、そして抗炎症といった作用を持っています。
このように医学的な価値やレクリエーション目的、経済的メリットから大麻と大麻ビジネスに大きな注目が集まっているのです。
まとめ
本稿では大麻専門教育を行うアメリカの学校についてご紹介しました。
投資銀行のコーエン社によると、合法的な大麻市場は 2030 年までに 750 億ドル(約9兆円)規模になるとのことです。
調査会社ギャラップのレポートでは、現在、アメリカ国民の64%が大麻合法化を支持していると言われています。これは大麻に関する世論調査が開始された1969 年以来、最高の支持率です。米連邦事態としては未だ違法なものの、規制は和らぐ傾向にあり、州ごとに合法化が進んでいるのが現状です。
つまり大麻について学ぶことはキャリアに大いにメリットがあるということです。医療用や嗜好用大麻が少しずつ受け入れられ広まり始めている現在、今後は海外からの留学生もどんどん増えていくのかもしれません。
<参考資料>
https://nmu.edu/acac/sites/acac/files/d7files/MedicinalPlantChemistry.pdf
https://yourhigherlearning.com/
https://cannabistraininguniversity.com/training/california-cannabis-college/