美食の国フランスでも健康とエコへの関心が高まっています。ヘンプもサステナブル&健康素材として注目されている食材の1つ。フランスの食生活にヘンプはどのように取り入れられているのでしょうか。
五輪開催に向けエコシティ化するフランス
東京五輪が終わり、2024年オリンピックへの期待が高まるフランスの首都パリ。国をあげて環境に優しいオリンピックを目指し、現在サステナブル・シティ計画が進行中です。街の緑化を進めたり、中心地では公共交通機関、配達用車両以外の車の乗り入れが禁止されたり、歩行者や自転車、スクーターの通行が優先されるまちづくりを目指しています。
建築にもよりサステナブル素材が選ばれています。産業用ヘンプを原料にしたヘンプ製のコンクリートやブロックを使って作られたフランス初の公共スポーツセンター「ピエール・シェベット( Pierre Chevet)」は昨年2021年に完成したばかり。
ヘンプ製建材は断熱性や耐火性、防音に優れ、強度の上でも安心です。
従来の建材に比べ環境ガス排出や化学物質の使用も少なく、環境に優しいだけでなく丈夫さやコストの面でも優秀といわれています。
仏グルメ界にもサステナビリティの波
グルメやファッション、美容の国としても名高いパリは、食とウェルネスに関心を持つ人が多くいます。世界的に有名な国際料理学校ル・コルドン・ブルーでも、栄養や健康意識の高まりを反映した「ペストリーとウェルネス」コースを開設しました。
これはおいしいパンや菓子類と健康を両立することができるシェフやパティシエを要請するコース。従来の食材に変わる代替品の知識を身につけ、伝統的なレシピをビーガンやグルテンフリー版に進化させ、美味しく提供して、新しいコンセプトのペストリーを提供できるようになることを目指しています。
ヘンプシード入り小麦粉が発売に
グルテンフリーや糖質カットのレシピとして、小麦粉を使わないケーキやパンなどが登場していますが、フランスのMoulins Dumée社は、「ヘンプ」を意味するフランス語の「chanvre」に由来するベーカリー用のChanvrine小麦粉ミックスを発売しました。
このヘンプシードをブレンドした小麦粉は、植物性タンパク質や食物繊維、抗酸化効果のあるビタミンEを豊富に含みます。また、健康に欠かせないオメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸をバランスよく含んでいます。フランスの一般的なパンと比較して、タンパク質の量もほぼ2倍であるとされています。
Chanvrine小麦粉を使って焼いたパンは、ヘンプシードの自然な色合いを残した薄緑の色合いが特徴的です。同じく健康効果の高いフラックスシード(亜麻仁)を一緒に組み合わせたタイプも登場。
材料は100%フランス産であるためフードマイルもカットされ、環境ガス排出を削減しながら地元農家をサポートすることができます。
機能性を備えたカラフルなパン
フランスのパンといえばバゲットやクロワッサンが伝統的ですが、スタートアップのMaison Wacols社は、スパイスやスーパーフードを加えた、これまでになかった5つのユニークな機能性パンを発表しています。
機能性パンの例>
●ビタミンK2、D、B9(葉酸)などを加えた機能性パン。
先進の西欧市場では、ビタミンK2、D、およびB9(葉酸)が、現代の食生活に欠けている重要なビタミンとされています。特に妊娠中の女性にとって、葉酸は非常に重要な役割を果たすと言われています。
※2021年には英国で、赤ちゃんの先天性欠損症を防ぐために国内の小麦粉に葉酸を強化する計画が進められています。葉酸入りの小麦粉やパンは日本、オーストラリア、カナダ、米国を含む世界60か国以上で採用されています。
●消化促進やがん細胞の成長を抑える効果もあるというターメリック入りパン。
カボチャ、トマト、フラックス、米由来のタンパク質、健康効果のあるガラナが含まれており、エネルギーをブースト。
●ヘンプシード、チアシード、ミント、ほうれん草、レンズ豆をブレンドしたパン。
レンズ豆が腸内細菌の栄養となるプレバイオティクスとして働き、腸内環境を整えることで免疫機能を高めてくれる。ミントは消化機能をサポート。
使い道が広い、食材としてのヘンプ
タンパク質が豊富で、植物性のプロテインパウダーや代替ミートの材料にも選ばれるようになったヘンプシード。ナッツのような風味と食べやすいマイルドな味で、様々な用途に使うことができます。 農薬や化学肥料などを使わなくてもスクスク育つため、環境や人体へのダメージも少なくなります。
例えば水と一緒にブレンドすることで豆乳やオートミルクのような植物性ミルク「ヘンプミルク」を作ることができ、豆乳やナッツにアレルギーを起こす人たちも安心して消費することができます。また調理をしなくてもシリアルやサラダに振りかけて、焼き菓子に混ぜて簡単に食生活に取り入れることができます。
またヘンプシード以外にも花や葉、茎などから抽出される薬理成分カンナビノイド類は様々な作用をもち、中でもカンナビジオール(CBD)と呼ばれる成分は医療や健康分野でも様々に役立てられています。
まとめ
太りやすい、カロリーはあっても栄養価は低いと考えられがちなパンですが、焼き立てをほおばる瞬間はやはり格別です。グルメの国で誕生した栄養価の高いヘンプ小麦粉の登場によって、おいしく健康的なベーカリーが増えてくれるといいですね。
参考資料