2018年に大麻医療が合法化された英国。欧州の中では比較的規制が緩やかに見える大麻への対応ですが、実際はどうなのでしょうか。医療目的やサプリ的使用そして嗜好目的まで、英国における大麻と大麻医療利用の現状についてご紹介します。
マリファナは英国で違法?
英国における大麻=マリファナは所有、栽培、受け渡し、販売などは全て違法のままです。しかし英国の街角を歩いていればすぐ体験できることですが、どこからともなく大麻をふかす香りが漂い、公園や公共の場でも人目を気にせず吸っている人もかなり多いというのが現状です。
実は英国の警察は嗜好品として楽しむ限りにおいて、大麻に対してかなりゆるやかな態度を取っています。禁止薬物であり犯罪であっても見て見ぬ振り。日本から眺めると不思議な状況ですが、これには社会的な背景があります。
世界中で繊維を衣料に使ったり、薬や嗜好品や食料にしたりと人類の歴史と密接に関わってきた麻。19世紀ビクトリア朝時代の英国においては、大麻は薬局で販売されたり、ビクトリア女王の生理痛の治療に大麻が使用されたという記録も残っています。
しかし1928年になり、危険薬物法によって大麻の娯楽的な使用は禁止されることになります。これには競合を抑えたい酒造業界からの圧力があったとも言われています。その後も医薬品としては処方が可能になっていたのですが、1971年に米国からの働きかけもあり大麻は向精神薬として医薬品としても嗜好品としても全て違法となりました。そして1993年に入って内務省は繊維や飼料としての大麻栽培と加工を目的とした場合のみライセンスを付与するようになります。
警察の負担減をめざす
その後大きな動きがあったのが2000年に入ってからです。トニー・ブレア首相率いる労働党政権下の内務大臣デビッド・ブランケットは、大麻所持による逮捕件数を減らすため、大麻の薬物クラスを「B」から「C」へと移動すべきだと公表。
英国では麻薬をABCの3つにランク分けし、クラスAはコカイン、LSD、メタンフェタミン、ヘロインなど最も危険度の高い薬物のカテゴリーとなります。所持は最大7年そして上限なしの罰金、製造や販売を行った場合は最大で終身刑そして上限なしの罰金が課され、刑罰が最も重くなります。
大麻はバルビツール酸系、アンフェタミン、ケタミン等などの薬物と同カテゴリー、クラスBに分類されていました。こちらは所持で最大5年、製造販売に関わった場合は最大14年の懲役そして上限なしの罰金が課されます。
2004年1月にはこの分類移動が実施され、大麻はドラッグとしてはもっとも危険度が低いクラスC薬物に指定されることになったのです。この格下げには警察機関の人員不足が背景にあります。大麻所持による逮捕やそれにまつわる作業を減らし、その分より危険なハードドラッグの取り締まりや、ドラッグの製造販売に携わる犯罪組織の摘発に力を注ぐのが目的です。この格下げにより大麻所持自体は逮捕の対象ではなくなり、違法ではあるものの非刑罰化されることになりました。
しかしこの分類移動はその後、高濃度のTHCを含む「スカンク」と呼ばれる大麻の蔓延や、大麻による精神疾患への懸念を理由に、ゴードン・ブラウン政権下の2008年に再びクラスB薬物に格上げになっています。
現実的なグレー対応
とはいえ、英国で普通に暮らしている限り、大麻規制のランクの上げ下げに人々が大きく影響されている気配はあまりありません。喫煙をする人はする、しない人はしないし興味もない…といった風に、タバコの好き嫌いとさほど変わらない感覚で受け止められているようです。
しかし大麻がクラスB薬物に再び格上げされ、所持や喫煙で逮捕が可能になっているのにもかかわらず、このように寛容に受け止められているのはなぜでしょうか。
理由の一つは、悪質なケースでない限り個人を取り締まってもあまり効果がないという考えが浸透しているからです。個々の大麻使用を取り締まるよりも栽培や販売を行う犯罪組織を摘発するべきと考える人が多いため、実際に娯楽的に大麻喫煙する個人を逮捕の対象にしない自治体も存在します。全体的に見つかっても、その場で破棄するよう注意を受けるだけのケースが多く、問題を起こさない限り黙認されているムードがあります(室内や仕事場での大麻喫煙、ティーンエイジャーの喫煙についてはこの限りではありません)。
同じくソフトドラッグにかなり寛容な印象のあるオランダでも、厳密にいうと大麻は合法ではありません。利用者が多数いることは間違いのない事実であり、それを弾圧したり完全になくすことは現実的に不可能。かえって闇マーケットを活性化させてしまう危険性をもあります。このため「大麻利用が二次的な問題を引き起こさない限り」という条件付きで、個人による栽培・所持・利用が「非犯罪化」され、許容されているのがオランダの現状です。もちろん所持量の上限や、若年層が興味を持つような商品に大麻を使用しないなど、様々な制限をクリアしなくてはなりません。
新しい流れは作れるのか
もう一つの理由は医療大麻の進歩です。
研究が進み、大麻から抽出されるCBD(カンナビジオール)やTHC(テトラヒドロカンナビノール)などの成分が、使用量や組み合わせによって、人体に有効な効果を及ぼすことが広く知られるようになり、大麻の持つマイナスイメージが払拭されつつあります。とくにCBDはウェルネスやスポーツ業界で新成分として注目を浴びており、人々の認識が大きく変わりつつあります。
しかし大麻喫煙の場合は現在のところ違法であるために
- 入手のために犯罪組織と接触、犯罪にまきこまれる
- 成分が不確かなものを摂取してしまう
- 不適切な使用で運転・仕事・生活に支障をきたす
といった危険もあり、個人判断で治療目的に大麻を使用したことで、かえって状況を悪化させるケースも見られます。
こういった状況を踏まえ大麻を合法化して課税して税収を増やし、品質管理して明確なルールを作り、必要な人に適切な大麻治療を提供し、犯罪組織の大きな資金源を断つほうが理にかなっていると考える人が増えているのです。
冒頭にも述べたように、英国では2018年11月から、医師は医療大麻を処方することができるようになりました。これは重度のてんかんを抱える児童2名が、命綱だった大麻由来製剤の使用を禁止されてしまったことが原因でした。この事件に対して国民から大きな非難の声が上がり、内務省はこの2人に対して使用を認める特別許可を出し、その後、医療大麻にまつわる法規制が見直されることになったのです。
大麻の合法化について、すでに合法である産業ヘンプ由来のCBDサプリメントと医療大麻に限るべきか、それとも娯楽目的の大麻使用まで含めるべきかについては賛否両論があります。また政府としてはこれまで麻薬として管理してきたものを、行政レベルで合法にすることはなかなか困難であると思われます。
現在のように違法にすることで闇マーケットを容認するか、それとも合法化に向けて整備を進め大胆で新しい流れを作るか。英国だけでなく、多くの国がこの二つの間で揺れているのではないでしょうか。
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<参考資料>
UK 禁止麻薬の罰則
https://www.gov.uk/penalties-drug-possession-dealing
テレグラフ紙 “Cannabis to be reclassified as a class B drug”
https://www.telegraph.co.uk/news/1934756/Cannabis-to-be-reclassified-as-a-class-B-drug.html