医学は高い専門性が求められる分野。このためジャンルが細分化され幅広い知識をつけることが難しい場合もあります。そんな状況を打破すべく、大麻の専門家による、医療従事者向けの医療大麻教育コースが立ち上げられました。
医療界の知識ギャップを埋める
医学生および医療従事者に医療大麻に関する体系的な知識を提供する「オーストラリア医療大麻コース」が開始しました。
このコースは様々な疾患に苦しむ人々が安全で効果的な大麻医療を受けられるよう活動している豪機関ユナイテッド・イン・コンパッション(UIC)のダイレクター、ルーシー・ハスラムと、オーストラリア国立大学医学部の臨床上級講師であるデビッド・カルディコット博士の発案によるものです。
現在、従来医療と大麻医療の間には大きなギャップがあり、大麻医療が普及するためには、正しい医療大麻の知識を身につけた医師が必要とされています。しかしこのための措置はほとんど取られていませんでした。
これは生活習慣病の発症因子、また予防医学としての食事など、栄養学に社会的関心が高まっているにもかかわらず、医学教育において栄養学が十分な認識を受けていない傾向と同じ問題を抱えているといえるでしょう。
ルーシー・ハスラムは「大麻教育を受ける意欲のある医師は、古来から存在する大麻治療に積極的になることがわかりました。」とコメントしています。
また「(特定の企業からの)資金提供や業界のバイアスを受けない、オーストラリアの医師によってオーストラリアの医師のために作られた、真に独立した教育コースを持つことが重要です。」と述べています。
この「オーストラリア医療大麻コース」はオンライン受講が可能。世界的に有名な医療大麻研究者のイーサン・ルッソ医学博士ほかから「非常に正確」との評価を受けており、基礎科学モジュールに登録すれば無料で学ぶことができます。
患者が大麻治療を受けられない理由
先にも取り上げたように、医療関係者で大麻について深い知識を持っている人はかなり少ないのが現状です。またカンナビノイドやカンナビノイドシステムに関する授業を受ける医学生もわずか10%未満と一部に限られています。つまり医師や医大卒業生であっても医療大麻を処方するための素養がほぼないという状況です。このような教育の欠如が、医師が大麻処方に抵抗を示す一因となっており、患者が不法な大麻マーケットに依存しなくてはならないという悪循環を引き起こしていることになります。
Harm Reduction Journalに掲載された最近のリサーチによると、医療目的で大麻を使用する患者の95%以上が、メンタルヘルス、慢性的な痛み、睡眠状態の改善等を目的に合法的に購入する処方箋を受け取った人が増えているにもかかわらず、依然として闇マーケットを利用して大麻薬を入手しています。この問題解決のため2016年に入りオーストラリア連邦政府は医療専門家が大麻ベースのさまざまな製品を患者に処方できるようにする法律を可決しました。
多くの人に安全・有効な治療を届ける
また2018年9月から2019年3月にかけ、過去12年間に治療目的で大麻製品を使用したことのあるオーストラリア在住の成人(18歳以上)を対象に行われたオンライン追跡調査では、利用可能とされた1388人の回答者データのうち、治療目的で大麻治療を利用している人々の目的は、痛み(36.4%)、メンタルヘルス(32.8%)、睡眠(9.2%)、神経学的(5.2%)、および癌関連(3.8%)であることが分かっています。
回答者は、過去28日間の15.8(11.2)日間において、吸入(71.4%)または経口(26.5%)にいって医療大麻を使用し、週に82.27オーストラリアドル (101.27ドル)を費やしたと回答しています。また法的に処方された医療大麻を入手した回答者はほとんどいなかったことも分かっています。自己申告による回答では、大麻医療は非常に有効であるものの副作用も多かったという声も聞かれました。これは違法なカンナビノイド製品を入手したため成分の不確実性がみられたり、汚染が起きている可能性も考えられます。医療大麻が合法的に入手できるようになっても、ほとんどの人が違法な大麻製品にアクセスしているという現実は、コスト面や医療専門家の無関心、大麻の使用に関するマイナスイメージが関与しているようです。
上院報告書では、20の主な項目において医師、看護師、その他の医療専門家のトレーニングに向けてさまざまな努力を払うことを提起しました。
例)
①保健省がオーストラリア医師会、王立オーストラリアン・カレッジ・オブ・ジェネラルプラクティショナー、その他の専門学校および医療専門家団体と協力して、医療大麻をめぐるネガティブ・イメージを払拭するための教育および啓発キャンペーン展開を推奨する。
②保健省が関連の医科大学と擁護団体または業界団体に資金を割り当て、医療従事者向けの医療大麻に関する認定を受けた対面およびオンライントレーニングプログラムの開発と提供支援を推奨する。
③一次医療プログラム(医学部)によって提供されるカリキュラムに内在性カンナビノイドシステムと医療大麻に関するモジュールを含めることを義務付けることを勧告する 。
前述したUICのディレクター、ルーシー・ハスラムは、すでに他界した実子が化学療法誘発性の悪心と嘔吐に苦しんでおり、その症状緩和のために医療大麻の世界に踏み込んだという経緯があります。
彼女は「このコースを提供することで、UICの目的を達成し、医療大麻の恩恵を受けることができるすべてのオーストラリア人が、合法的に・安全に・簡単に・手頃な価格で医療大麻治療を受けられることを望んでいます。私たちの希望は本コースのような教育が、オーストラリアの医師に医療大麻を処方するに足りる知識と自信を与えることです。」と語っています。
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<参考資料>
New online course launches to plug the medical cannabis knowledge gap for trainee doctors
https://www.cannabiz.com.au/new-online-course-launches-to-plug-the-medical-cannabis-knowledge-gap-for-trainee-doctors/
Advocacy group launches Australian Medicinal Cannabis Course Online
https://www.healtheuropa.eu/advocacy-group-launches-australian-medicinal-cannabis-course-online/101807/
Medical cannabis use in the Australian community following introduction of legal access
https://harmreductionjournal.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12954-020-00377-0?mc_cid=badf7b34dc&mc_eid=bdf5a65a50