大麻由来の成分CBD(カンナビジオール)がスポーツや仕事&勉強のサポートに役立つらしい、そんな話を耳にするようになりました。海外ではCBD配合の機能性ドリンク、アスリート向けのCBD製品がすでに多数発売されています。身体や精神・頭脳のパフォーマンスを最適化するヌートロピックス食品も人気の昨今。CBDにスマートドラッグとしての効果は期待できるのでしょうか。
ライフハックとしての利用者増加
近年、麻に含まれる成分カンナビノイドの一つCBD(カンナビジオール)にスポットがあてられています。ウェルネス・サプリ的な使用から難治性てんかんの発作治療や化学療法の副作用緩和まで広範な利用方法があり、現在も様々な医薬品が開発されています。同じくカンナビノイドの1つTHC(テトラヒドロカンナビノール)のように向精神作用(「ハイ」や「精神混乱」の状態を引き起こす)がないのも特徴です。
CBDを摂ることで個人差はあるものの
- 痛みや炎症の緩和
- 集中力の向上
- 不眠や不安状態の緩和
- 精神安定作用
といったメリットが得られます。このため、不眠や痛みといった特定の症状緩和だけでなく、パフォーマンス向上やライフハックの一つとして利用する人も増えており、海外ではドラッグストアなどでCBD配合の様々な商品が手軽に手に入るようになりました。
2018年に世界アンチ・ドーピング機関(WADA)がドーピング薬物の規制対象からCBDを外したことをきっかけに、スポーツ界でも愛用者が一気に増えているのも最近の傾向です。筋肉の炎症や痛みケアを目的にしたCBD配合クリームやオイルが発売され、有名スポーツ選手がプロデュースするアスリート向け商品も人気です。
また英イングランドのラグビー選手チャーリー・シンプソン=ダニエルがプロデュースするCBD入りチョコレート「ウィザード」のように、スポーツの枠にとどまらずグルテンフリー・低糖・高ファイバー・ヴィーガンといったウェルネス界で人気のポイントを押さえた、より広い層をターゲットにした商品もみられるようになりました。
スポーツ界での利用
スポーツ選手も大麻製品を使用していると聞けば、パワフルな即効性を期待してしまいがちですが、プロの使い方はアフターケアが中心。
しかし2002年にフランスで1,152人のスポーツ学生を対象に実施された調査では、彼らが大麻の持つリラックス効果をパフォーマンス向上のために頻繁に利用していることや、男性学生の方がこのような目的で大麻製品を使用する傾向が高いことが分かっています。英「ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・スポーツ・メディシン」に掲載された記事ではマリファナ喫煙は全体的に運動能力を低下させることを指摘。
大麻といっても成分がまちまちである上、向精神作用を持つTHCなど様々な成分が含まれていることも考慮すると、出所不明な大麻を喫煙し一定の効果を得ることは難しいといえるでしょう。
近年話題となっているアスリート向けCBD商品は、エネルギー・ブースト的な即効性ではなく、筋肉の炎症緩和など身体のアフターケアを重視した製品が主流です。これらのケアグッズは炎症や痛みを効果的にケアし、十分な休息を得ることが結果的にパフォーマンスの向上につながるという考えのもとに開発されています。
またカナダのトロントウエスタン病院の脳神経外科医チャールズ・テイター博士は、無作為で選ばれた100人のNFLプレーヤーを対象に、脳しんとうの後遺症治療の研究開始を発表しました。
大麻由来の成分はスマートドラッグ的な即効性を期待するよりも、アフターケアに取り入れて次のパフォーマンス向上を促す。そんな使い方が現在のところ最も取り入れやすく、かつ効果的であるようです。
ヌートロピクスとしてのCBD
英ガーディアン紙は2016年、多忙な英国の大学生が大量の課題を乗り切るため、ナルコレプシー患者などに投与される精神刺激薬モダフィニルを、眠気を覚ましや集中力を上げるスマートドラッグとして濫用するケースが増えていることを報じています。もちろんこういった薬は特定の病気を治療するために開発された薬物であり、個人判断で服用することは非常に危険も高く副作用も大きくなります。
しかし多忙な現代人はなんとかして自分のスペックを上げたいと願うもの。近年ではメンタル・サポート成分を持つ食品や天然由来のサプリが「ヌートロピクス」と呼ばれ、ウェルネスブームとともに世界中で流行するようになっています。明確な規定はないものの、肉体や精神の健康をサポートする食品がヌートロピクス。とくにストレス軽減やリラックス、睡眠の向上、集中力・記憶力アップなど、ブレイン・ヘルスに重心を置いた食品類という認識があります。身近なところでは覚醒作用があり頭をスッキリさせる効果を持つカフェインもヌートロピクスの一種であると言えます。
<ヌートロピクスの一例>
不眠症に効果があるとされる「バレリアン」
自然の精神安定剤と呼ばれる「パッションフラワー」
脳機能を高める「バコパモニエリ」
血液循環改善作用、痴呆症の予防「イチョウ」
忙しい日々の中でメンタルの不調を訴えたり、悩みを抱えることは誰にでもあることです。ウェルネスのトレンドによって、これらを放置してこじらせず肉体の健康と同じようにケアしたり予防するための商品が生まれています。
CBDには不安緩和など様々なメンタル向上効果が報告されていることから、上記のハーブと同じくヌートロピクスの一種として認知されるようになりました。また商品化されている製品はアスリート向けのハードで男性的なムードの商品と異なり「幸せ」「穏やか」「楽しい」といったキャッチコピーのポジティブなムードと明るい色を使ったデザイン商品が多いのが特徴です。こちらも「気分を上げる」「集中力を高める」などサポート的に取り入れるために作られています。
多くの人に役立つ成分
もちろん「楽しい」「幸せ」と謳っているとはいえ、大麻喫煙で引き起こされる「ハイ状態」とCBDのもたらす効果は全く異なります。大麻のもたらす向精神作用はTHC(テトラヒドロカンナビノール)によるものあり、ヌートロピクス商品に使用されるCBD(カンナビジオール)とは別の成分です。CBDは麻科の産業用ヘンプから抽出され、THCは含まれていません。同じ麻に含まれるカンナビノイドであっても、THCとCBDはそれぞれ別の効果を持っていること認識しておく必要があります。
CBDにはメンタル的効果のほかにも、認知能力の改善や脳細胞の保護、依存症の緩和サポートなどにも役立つことが分かっています。またラット実験においてはエネルギーを貯蔵する「白色脂肪細胞」を、エネルギーから熱を生み出す「褐色脂肪細胞」に変える作用を促すなど、ダイエット効果にも関連する働きが解明されつつあります。
また医療目的でも、特定の難病に苦しむ人々に大幅な改善が見られることからカナダやアメリカ、イギリスなどでは医薬品として大麻由来製剤が認可されている国もあります。
世界中で様々な研究が行われていることからも、CBDのポテンシャルが医療界を始めスポーツや美容、ペット分野まで多くの業界から注目を受けていることが伺えます。
まとめ
多くの可能性を秘めているとはいえ、CBDの研究はまだ始まったばかり。専門家の間でも意見の相違があったり、知識の混乱など数多くの課題も残されています。
医薬品だけでなく、繊維や食料や燃料、建材としても利用できる麻。数千年も前から人類とともにあった麻の持つパワーが今後さらに解明されていくことを期待したいものです。
合わせて読みたい記事はこちら↓
<参考資料>
https://www.healtheuropa.eu/cannabis-in-sport/90949/
CBD as a Nootropic
https://www.mindlabpro.com/blogs/nootropics/cbd-nootropic
CBD入り板チョコ「ウィザード」
https://www.thewizardsmagic.com/
英ガーディアン・スマートドラッグの濫用
https://www.theguardian.com/education/2016/mar/01/in-their-own-words-students-share-their-views-on-smart-drugs