カンナビノイドは、大麻草(アサ科の一年草)に含まれる生理活性物質の総称です。カンナビノイドの中でも精神高揚作用のあるTHC(テトラヒドロカンナビノール)と炎症や痛みを和らげる作用のあるCBD(カンナビジオール)が世界でも最も研究・認知されているといえるでしょう。医療の分野ではカンナビノイドの利用が注目されており、人道的な観点から「医療大麻」を合法化する国も増えています。とくに精神高揚作用のないCBDを難治性のてんかんやその他の難治・希少疾患の治療へ応用する世界的な流れがあります。
今回は世界におけるカンナビノイドの利用状況について医療用大麻を中心に説明していきます。
カンナビノイドはそれぞれの国で規制されている
カンナビノイドには向精神作用があるもの(THCなど)と向精神作用がないもの(CBDなど)があり、国によって規制基準が異なります。
とくに大麻から分離されたカンナビノイドの主な成分であるTHCには、精神高揚作用や依存作用があり、1961年の麻薬に関する単一条約によって大麻は国際的にも規制された植物になっています。
厚生労働省 千九百六十一年の麻薬に関する単一条約
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=97128000&dataType=0
しかし70年代より、いわゆるマリファナの合法化や人道的使用の見方から医療分野で使う大麻の規制を緩やかにするよう求める声が強くなり、ついに1996年に米国カリフォルニア州で医療大麻が合法となりました。その後も米国の他の州やカナダなどでも医療大麻や嗜好用の大麻の使用を認めるところが出てきました。
ちなみに日本では1948年に大麻取締法が定められて以来、大麻の栽培は許可が必要です。さらにTHCの成分が含有されている製品の扱いや医療目的での使用も認められていません。しかし一部のCBD製品の輸入品の取り扱いは可能で、個人的に使用することもできます。
28ヵ国以上が医療用大麻を合法化している
2018年のIDPC(国際薬物政策コンソーシアム)のレポート「世界各国の医療用大麻の政策と実践」によると、医療大麻を合法化したのは28ヵ国以上、医療大麻であるがん疼痛治療剤・サティベックスを承認したのは20ヵ国以上などとなっています。
とくに2020年頃から大麻草の使用を合法的に認める国は増えてきており、医療でもその活用が期待されています。
ここでは医療用大麻について、主要な国の動向を見てみましょう。
南北アメリカ:ウルグアイが国で合法化、米国も州ごとに合法化が進む
南アメリカにあるウルグアイは、世界で初めて大麻の使用および商品化することを合法化した国として知られています。医療用、科学研究、産業・嗜好用での大麻の利用を合法化されてはいるものの、実際には合法的に大麻を販売できる薬局は限られているという現状があります。
医療用大麻の先進国である米国では、1996年にカリフォルニア州で合法化が始まり、現在では全米の半数以上の州で医療大麻が合法となっています。医療用大麻だけでなく、医療用・嗜好ともに合法化となっている州も多いです。
カナダでは1999年に医療大麻が承認され、2018年に嗜好用の大麻の所持や使用も合法化となっています。カナダが国として大麻が解禁としたのは、ウルグアイに次いで世界で2番目ということになります。
ヨーロッパ:合法化に積極的な国もあるが政策は限定されている
オランダは2001年に医療用大麻が承認され、医療用大麻局や大麻の製造流通を独占する企業も設立されています。サティベックスと5種類の大麻を使うことができます。
ドイツでは2017年にてんかんなどの特定疾患の最終治療の手段として医療用大麻を使った治療が健康保険制度の対象となっています。医療用大麻を使うには認可された医師による処方が必要です。
イギリスでは2006年に承認され、がん疼痛治療薬である医薬品(サティベックス)のみが合法化されています。他の治療薬の効果がなかった場合など、特別な場合に限られており、専門医による治療フォローや一定期間使用して効果がなければ中断となる仕組みになっています。
中東・アジア:イスラエルは初めて医療用大麻合法化
イスラエルは、1992年に世界で初めて医療用大麻を合法化した医療用大麻の先進国です。厳しい規制のもと医療用大麻・研究が許可されており、1ヶ月に使用できる量も国によって定められています。
フィリピンでは2016年に医療用大麻が承認され、治療を受けるには特別許可を得た専門機関で治療を受けることが決められています。
世界の他の地域と比べて、日本をはじめ依然としてアジアには厳しい規制や政策が敷かれているといえるでしょう。
日本では医療用大麻は使えないがCBD製品使用は可能
世界で医療大麻を承認する国が増えていますが、日本では医療用大麻はいまだ法による規制があり使用できません。
しかし大麻に関連する薬や製品が全く使えないというわけではなく、輸入された大麻の成熟した茎・種子由来の医薬品以外の「CBD製品」を使うことができます。日本においてはCBDを含むカンナビノイド製品はオイルやカプセルなどの形や状態に関係なく、大麻草に由来したカンナビノイド成分を含むものとされています。
一方で、輸入品であるCBD製品の中には含まれている成分が不明であったり、違法成分であるTHCが含まれている場合などがあり、使用には十分注意する必要があります。そのため2017年よりCBD製品の品質管理に関する自主規制(NAMP認証)の取り組みが始まり、より安全にCBD製品が入手できるような仕組みとなっています。
一般社団法人日本薬用植物研究推進協会「CBD(カンナビノイド)の認証制度について」
https://www.nippon-yakushokuken.com/authentication/
一般社団法人日本臨床カンナビノイド学会「カンナビノイド製品ガイドライン2017年版」
http://cannabis.kenkyuukai.jp/images/sys/information/20170403081836-202D2C7D1E5570E5AE6A445686CF6EE9AA3262F720B53E8E91A6C3870E3A560A.pdf
医療用大麻は日本ではまだ使用を認められていませんが、最近医療用大麻の治験が始まる可能性が示唆されています。
難治性のてんかんに対する治療薬としてイギリスの製薬会社が開発した「エピディオレックス」が、一定の条件を満たせば治験として国内の患者に投与することは可能という見解が示されてます。このエピディオレックスは、CBDが精製されたものでTHCに見られるような精神高揚作用はないと言われています。よって今後日本での動向が注目されています。
まとめ
今回はカンナビノイド成分が含まれた医療用大麻の世界の動向について主要な国に関して見ていきました。
医療用大麻を承認する背景は国によって異なり、また承認した後の規制の内容も違います。しかし医療用に限らず、嗜好用大麻の規制緩和も世界的に広がる傾向があり、とくに先進国での今後の動向は注目すべきでしょう。日本でも医療用大麻が認められる方向がより強まることが期待できるともいえます。
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参考URL
世界保健機関(WHO);カンナビジオール(CBD)事前審査報告書,世界保健機関(WHO)薬物依存に関する専門委員会(ECDO)第39回会議,2017年
http://cannabis.kenkyuukai.jp/images/sys%5Cinformation%5C20171206225443-F93DD6CFE8B1C092970601FFD88BDBE2E5F96AE8B22F18642F02F65C6737547F.pdf
国際薬物政策コンソーシアム(IDPC)「世界各国の医療用大麻の政策と実践」
http://cannabis.kenkyuukai.jp/images/sys%5Cinformation%5C20180528163600-E58B5FB67156756A1AEF6628181C36D0B731B1B620BCB72E8B1FBC1AA4E60F1F.pdf
日本臨床カンナビノイド学会 基礎情報 「法制度 海外と日本の比較」
http://cannabis.kenkyuukai.jp/special/?id=19144
一般社団法人日本化粧品協会
https://japan-ca.jp/cbd/
週刊医学界新聞「大麻抽出製剤が変える難治てんかん医療事情」
http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA03320_03
Department of Health & Social Care 「Cannabis-based products for medical use」NHS England,2018
https://www.england.nhs.uk/wp-content/uploads/2018/10/letter-guidance-on-cannabis-based-products-for-medicinal-use..pdf