ドイツでは、4月から医療用大麻の合法化が予定されています。しかしその実現多くの人が思い描いていたものとはかなり違う形になりそうです。
波乱に満ちたスタートか
ドイツ連邦議会(下院)は2024年2月23日、嗜好用の大麻の個人所持と栽培を認める法案を可決しました。予定では4月より、18歳以上の成人にかぎり、25グラムまでの大麻の所持、3株までの栽培が認められるようになります。しかし当初の予想以上に医師や司法団体の反対は根強く、波乱に満ちたスタートが予測されます。ドイツはマルタ、ルクセンブルグに次ぐ大麻自由化にうまく踏み切ることができるのでしょうか。
ヨーロッパの多くの国では娯楽用大麻の使用は禁止されています。しかしオランダやスペイン、そしてイギリスのように、売買したり問題行為を起こさない限り「違法ではあるが罪には問わない」というグレー対応で黙認されている場合が多いのも現状です。
しかしブラックマーケットにおける粗悪品の取引が広がり若者が影響を受けていることや、犯罪組織の資金源になるとのことから、「大麻を合法化して国が管理するべき」という声も昔から上がっていました。
ドイツで医療用大麻が合法化されたのは2017年です。これは一部のがんや多発性硬化症、重度のてんかんなどの疾病患者が対象でした。従来の化学薬品ではうまく取り扱えなかった健康問題が、大麻をはじめとする植物由来の両方で改善した例も報告されています。
しかし嗜好用大麻の合法化はこれとはかなり異なる意味合いを持っています。
大麻で注目されている成分とは
大麻には、生理活性物質のカンナビノイドが100種類以上含まれています。これらはそれぞれ異なる作用を持ち、古くから薬草として利用されたり、現在では特定の成分を抽出して医薬品として利用されることも増えてきました。
数多くある成分のうち、主に注目されているのは以下の2つの成分になります。
- テトラヒドロカンナビノール(THC)
精神作用を引き起こす主成分として知られる(多幸感、リラックス効果など)
鎮痛効果、吐き気を抑える効果など
記憶力、集中力、判断力などの低下 - カンナビジオール(CBD)
精神作用がなく使いやすい
抗炎症作用、抗不安作用、抗酸化作用など
痛みの緩和、睡眠改善、リラックス効果
医療目的で使用されることが多い
大麻にはこれらのカンナビノイド以外にも、テルペンやフラボノイドと呼ばれる健康効果のある天然成分も含まれています。これらの成分が重なるって作用することで、カンナビノイドの効果を調整したり、独自の効果を発揮するという説もあります。
合法化のメリット・デメリット
医療大麻は、その中に含まれる特定の成分や大麻の葉を喫煙することによって、体内に含まれる成分を取り込んで病気の症状を軽くしたり、化学療法の副作用を和らげたり、病気の状態を改善するために使われます。ただしこれらの医療利用には、医師との相談の上で処方される必要があります。
一方、嗜好用大麻は大麻の成分を取り入れることでお酒を飲むように心地よい陶酔感覚(向精神作用)を楽しむことが目的です。18歳から25歳までの若者大麻消費者の数は過去10年間で2倍になり、違法に取引されることで若者が犯罪組織と関わって危険な状況にさらされたり、逮捕されることで仕事や学業に影響を受けるケースが増えています。さらに、逮捕の際に人種差別が関与することも懸念されています。
そしてブラックマーケットで流通している限り、国は汚染された大麻や過剰に濃縮された製品が出回っていることをコントロールできません。非合法な大麻の流通は犯罪組織に資金を供給し続け、悪循環を生み出し続けています。
合法化をすれば、大麻が「クリーンになる」という考えから、今回の合法化が進んでいるのですが、野党や医療界からは大きな反対の声が上がっています。その理由は、依存性や若年層の常用による脳への影響が懸念されること、治療目的ではないため摂取量を設定しにくく過剰摂取のリスクがあること、大麻の喫煙運転による交通事故の懸念、犯罪が増加し、司法負担が増えるといった可能性などが挙げられます。
ルールと価格のバランスがポイント
4月からドイツでは、18歳以上の成人に限って25グラムまでの大麻の所持と3株までの栽培が認められるようになります。ただし学校、遊び場、スポーツ施設の近くでの喫煙は禁止され、大麻製品の広告やスポンサーシップも禁止される予定で、値段も現在の相場より高価になると言われています。
大麻合法化の進んだ米国の一部の州のように、認可された販売店(ディスペンサリー)で比較的自由に大麻を販売できるという政府の当初のアイデアは、「大麻ソーシャルクラブ」と呼ばれる非営利団体の中で、限られた量の麻薬を配布するという形にとって代わられることになりました。各クラブの会員数の上限は500人で、施設内での大麻の摂取は禁止され、会員資格はドイツ在住者のみとなります。
このように大麻所持を合法としながら、なおかつ合法大麻の購入を難しくするという矛盾したやり方は、人々が非合法マーケットにさらに流れてしまう危険性を秘めています。
どっちつかずの政策は人々の混乱を招くだけとの声も上がっています。
ヨーロッパの他の国ではどうなっている?
2021年に欧州で初めて嗜好用大麻を合法化したのはイタリア、シチリア島の南に位置するマルタ共和国です。18歳以上のマルタ国民は一定量の大麻の所持や自家栽培が可能となっています。またドイツと同じように大麻クラブが設けられていますが利用できるのはマルタ国民だけであり、海外観光客は利用を禁止されています。
隣のイタリアでは医療大麻は合法化され、軍事製薬工場で栽培が行われています。嗜好用大麻は違法ですが、嗜好用については様々な規制があるものの、少量に限っては暗黙で公認されているのが現状です。また気候の良いイタリアは繊維目的やTHCの含有量が少ない産業用大麻の生産が盛んで、大麻の繊維を使った優れたエコ建材「ヘンプクリート 」の産出国としても知られています。スペインも似たような状況にあり、個人使用と栽培は非犯罪化(罪には問わないというグレー対応)されていますが、売買や公共の場での使用は違法になっています。
まとめ
理想的な大麻合法化実現に向けて調整を続けるドイツ。ブラックマーケットを取り締まり、子供や若者の保護を高めるという二大目標を達成することはできるのでしょうか。ただ大麻合法化を行うだけでなく、今後の規制の調整も大切になります。加えて教育キャンペーンを通じて、合法化によって起こりうるマイナス影響を最小限に抑えることも必要になってくるでしょう。欧州一の経済国の大胆な一歩に期待が高まります。
<参考資料>
https://news.sky.com/story/cannabis-germany-legalises-possession-of-drug-for-personal-use-13079241