
米国で進む州ごとの大麻合法化によって、里親養育事件が20%近く減少したという研究結果が発表されました。虐待やネグレクトといった事件も減少傾向にあるという意外ともいえる結果が出ています。
大麻合法化で子どもの生活環境が改善する?
アメリカでは州ごとに独自の大麻合法化が進んでいます。医療用マリファナの処方が過半数の州で認められ、州によっては嗜好用大麻もOKというエリアもあります。合法化賛成派は大麻合法化が税収を増やし、健康にも良いとポジティブな意見を持っていますが、反対派は未成年者への悪影響や犯罪、交通事故が増えることを懸念しています。
どちらが本当なのでしょうか。最新の研究によれば、医療用大麻の合法化については少なくとも子供の生活環境に良い変化をもたらす可能性が高いことが示されました。
医療大麻が合法化された米国の州では、合法化後の3年間で親の薬物乱用により里親養護施設に入る子供の数が約20%も減少したと報告されています。一方、娯楽用大麻の合法化においては里親養護施設への入所数に大きな変化は見られなかったといいます。
この研究結果は、医療用大麻の合法化が親の心身の健康を改善し、子どもへの悪影響を軽減できる可能性が高いことを示しています。
メンタル疾患や麻薬中毒が改善する効果
ジョージア・カレッジとジョージア大学の研究者たちは、大麻合法化により、大麻に対する偏見が減少し、医療用大麻が適切に使用される可能性が高まり、里親養護施設への入所事件が減少するか、あるいは合法化によって里親養護施設のケースが増加するかについて調査を行いました。
まず2007年から2019年までの全国の里親養護ケースに関するデータを収集し、薬物乱用に関連する養子縁組ケースの割合の変化を調査し、合法化された州と禁止された州を比較しました。さらに、州の失業率や一人当たりの収入などの要因も考慮に入れました。
その結果、娯楽用大麻を合法化した場合、他の州と比較して親や十代の薬物乱用に関する里親養護施設への登録数に大きな変化は見られなかったのですが、医療用大麻の場合は、明確な変化が見られたといいます。
合法化から最初の2年間で、各州では薬物乱用に関連した里親養護事件が平均で8%から10%減少しました。3年目には、事件数が18%減少し、「医療用大麻を合法化した州では、親の薬物乱用に関連した里親養護施設への入所者が約700人減少した」という結果が得られました。
米国では「親の薬物乱用」は、子供が里親に預けられる理由として「虐待やネグレクト」に次いで2 番目に多いといわれています。
※アメリカの連邦法では、大麻はまだ違法な薬物とされ合法化に関して議論が続いています。しかし州ごとに大麻の規制権限を委ねているため、ある州で大麻を合法した場合は、政府の取締りの対象外になります。
親のメンタルヘルスに好影響

大麻の合法化が親のメンタルヘルスに及ぼす影響や、医療用大麻が虐待やネグレクト、ドラッグ中毒などの状況にどのように影響するかについては様々な研究が行われています。
ミシシッピ大学の研究では、娯楽用大麻の合法化が子供への虐待やネグレクト、親の投獄、アルコールや他の薬物の乱用を減少させ、子供たちが里親施設に預けられる数を約10%減少させる可能性があることが示唆されています。
大麻は長年にわたって麻薬として禁止されてきたため「精神に支障をきたし、依存症や被害妄想を引き起こし、犯罪の引き金になる」など、悪い側面ばかりにスポットが当てられていました。このようなネガティブなイメージは、大麻が違法であるがゆえに非合法の市場で取引され、犯罪組織によって利用されることから生じていました。
その一方で大麻の研究が進むにつれ大麻の成分には痛みを減らしたり、がんなど特定の病気を改善する、リラックスや安眠作用、ストレスや不安の緩和、多幸感、依存症の緩和といったポジティブな効果がたくさんあることに注目が集まるようになりました。また心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治療にも大麻の利用が検討されるなど活用の場は広がっています。
大麻の持つ医療効果
これらの作用は大麻草に含まれる生理活性成分カンナビノイド類によって生まれます。
大麻に含まれる100種類以上カンナビノイドは医療効果を持つものも多く、一部は医薬品やサプリメントとしてすでに広く使用されています。中でも効果が高く副作用がほとんど見られないCBD(カンナビジオール)は人気が高い成分の1つです。
医療大麻が合法化されている州では、医師の処方などにとしたがい「ディスペンサリー」と呼ばれる大麻薬局で病気や症状の治療に合わせた製品を入手することができます。
医療大麻が適用される病気・使用上には以下のようなものがあります。
一部の精神疾患、特に不安症状やPTSD(心的外傷後ストレス障害)
てんかん、特に難治性てんかん
多発性硬化症(MS)
パーキンソン病
筋肉痙縮
ALS(筋萎縮性側索硬化症)
がんの痛み管理
もちろん、未成年の子供たちには大麻の影響について他の薬品と同じく医療しなければなりませんが、大人が医療大麻を治療の一部として使用することで、心のトラブルやストレスが改善され、それによってアルコールや薬物の誤用が減少し、子どもたちの生活環境が良くなる可能性は十分あると考えられます。
大麻と子どもの幸福に関する複雑な現実

大麻の合法化はまだ新しい取り組みであり、児童福祉の判断基準はケースごとに異なることがあります。
また各家庭の状況も異なります。大麻の使用が原因で親が親権を失うケースや、鎮痛剤として知られるオピオイド中毒の治療を受けているというだけで子どもが裁判所によって連れ去られるといった悲しいケースも存在します。
大麻合法化は現在過渡期にあり、そのために不公平な結果が生じることがあるいう問題も浮上しているのです。
国全体で大麻合法化を行ったカナダでは必要に応じて適切な対応をするために、まだまだ課題はあるものの、米国に先行して児童育児放棄や虐待の報告を調査する独自システムが導入されています。
ブリティッシュコロンビア州の児童家族開発省では「親の薬物使用が子どもに影響を与えない限り、(当局は)気にしない」とコメントしています。
親のハッピーが子どもの成長を支える
親が健康で心の平穏を保ち、子供たちに愛情をたくさん注げる場所は、子供たちにとって最も大切なものです。たとえばお酒は楽しいものですが、飲みすぎや健康に注意、規制が必要なことがあるように、大麻に関しても品質の確認や十分な知識、指導、自己コントロールが必要です。 また、家族や友達がお互いを支え合えることのできる信頼関係を築くことも大切です。
米国における調査では大麻合法化の賛成派は大多数を占めています。
これは合法化によるビジネスチャンスの可能性だけでなく、虐待や薬物中毒による家庭崩壊が根付く米国で、人々が心の癒しを求めているという心理的な要因も影響しているのかもしれません。
<参考資料>