NBA(全米バスケットボール協会)が、選手のマリファナ使用禁止ルールを取りやめることを発表しました。新しいポリシーではどのようなガイドラインが定められているのでしょうか?
いよいよプロバスケ界も大麻解禁へ
北米プロバスケットボールリーグ(NBA)が2023年4月、選手組合との新たな労働協定の結果、選手の大麻使用を認めるというニュースが報じられました。
これまでNBAでは選手の大麻使用が禁止されていましたが、選手たちの健康と心身のケアを重視し、州や国の法律に基づいた上での使用を認めることに。今回規制解除により、今後7年間は労使協定によって選手の大麻使用検査が行われなくなります。
同様の決定は、アメリカのメジャーリーグベースボール(MLB)やナショナルホッケーリーグ(NHL)でもすでに行われています。
スポーツ選手が大麻を好む理由って?
大麻解禁が進むアメリカでは、スポーツ選手の大麻利用が増えています。これは大麻に含まれるカンナビノイドと呼ばれる生理活性成分が、激しいトレーニングによる筋肉疲労やダメージをすみやかに修復サポートし、試合のプレッシャーからくる精神的ストレスを緩和したり怪我などの痛みを和らげてくれるためです。
また大麻に含まれる成分の中には神経細胞を保護するカンナビノイドも含まれます。例えば身体と身体がぶつかり合う激しいアメフトのようなスポーツでは脳しんとうや頭部の怪我はつきものです。頭部負傷から回復したものの、恒久的な行動障害や神経障害に苦しみ、学習能力や記憶力が低下してしまう『外傷性脳損傷(TBI)」に苦しむ人や最悪の場合は早死にしてしまう人もいます。
このような背景から、NBA選手を始めとするプロアスリートの多くが大麻合法化を支持してきました。元スター選手のJ.R.スミスやアル・ハリントンは2019年にニューヨークで議員に働きかけを行い大麻合法化を推進。ハリントンは、2021年のGQマガジンのインタビューで「選手の85%の何らかの形で大麻製品を使用している」とコメントしています。
スポーツによって大麻使用のルールはちがう
今回の新協定で、NBA選手たちは罰金や出場停止といったペナルティを受ける心配なくリハビリや心身のケアに大麻製品を使うことができるようになります。
米フォーブス紙によると、アメリカ合衆国の21の州とワシントンD.C.およびグアムでは、娯楽用および医療用の大麻が完全に合法化されています。またNBAチームが存在する州の70%以上で、向精神作用を持つ大麻成分THC(テトラヒドロカンナビノール)の使用が合法化されています。
日本では「ダメ。ゼッタイ。」キャンペーンの普及で、危険なイメージばかりが強調されることの多い大麻ですが、以下の事例ように北米を中心とする海外では事情は変わってきています。
●2018年にWADA(世界アンチドーピング機構)は、大麻成分の1つであるのCBD(カンナビジオール)を禁止物質のリストから除外し、スポーツ市場でのCBD利用が大きく成長するきっかけとを作りました。ただし、他の大麻成分を含む大麻草そのものの摂取は現在も禁止となっています。
●メジャーリーグベースボール(MLB)は2019年のオフシーズンに大麻を禁止物質リストから除外し、選手が休暇中に大麻を使用することを容認しました。ただし試合やトレーニング、ミーティングなどの間に大麻の影響下にあると判断された場合は、処罰の可能性があります。
●総合格闘技UFCでは2021年に、大麻検査の陽性反応を理由にファイターを処罰しないと発表しています。
●国際オリンピック委員会では、世界アンチ・ドーピング機構の薬物使用ポリシーに従い、競技シーズン中の大麻使用を禁止していますが、オフシーズンの使用に関しては禁止していません。
ドーピングはもともと筋肉増強剤など、心身に深刻な損害をもたらす薬物や、コカインやアヘン系の薬物、メタンフェタミンなど、中毒性の高いドラッグからアスリートの心身を守るためのものです。副作用が少なく薬理効果の高い大麻はアスリートの心身ケアに役立つ代替成分として受け入れられるようになってきています。
普段から副作用の大きいオピオイド系鎮痛剤を服用し、体の痛みを抑えてプレーを続ける選手が多く、中毒や依存症に陥ってしまうケースが増えているのが大きな理由とされています。
アスリートに嬉しい大麻成分とは?
スポーツで最高のパフォーマンスを発揮するためには、トレーニングだけでなく栄養と十分な休息も重要です。その上でアスリートをサポートしてくれる大麻の有効成分について詳しく見ていきましょう。
スポーツに限らず、現在もっとも注目されている大麻成分がCBD(カンナビジオール)です。
CBDは通常、大麻植物に5〜15%の割合で存在し、心身にポジティブな影響を与えることが注目されています。精神活性作用はなく「ハイ」の状態を引き起こしたり、中毒や依存症を引き起こす心配はありません。鎮痛作用、炎症抑制によって筋肉痛や関節痛を和らげ、体を酷使しやすいアスリートの回復サポートに役立つほか、ストレスや不安を和らげ安眠に導く効果があります。また重度のてんかんの発作や痙攣を抑えるために医薬品として使用されることもあります。
そしてもう一つよく知られている成分がTHC(テトラヒドロカンナビノール)です。
この成分は精神活性作用を持つことでよく知られていますが、そのほかにも鎮痛や鎮静効果も高く、吐き気を抑えたり、食欲を増進させる優れた医療効果も持っています。
スポーツ選手は大麻を喫煙するとは限らず、ドーピング違反の心配がないCBD成分をベイプの形で吸引したり、CBD配合の筋肉バームを塗ったり、サプリメントと取り入れるほかにも、チューインガムやグミの形で取り入れている人が多いようです。
まとめ
1998年の長野冬季オリンピックに出場したカナダのスノーボード選手が、大麻の陽性反応によって金メダル剥奪&失格の危機に直面し、大麻がドーピング物質リスト入りするきっかけになったといいます。
これまで多くのアスリートが大麻検査で陽性反応を示し、無給出場停止処分を受けたり失格になってきました。彼らの多くは副作用の少ない心身ケアの一環として大麻を使用していましたが、その行為が逆に彼らのキャリアにとって不利となる時代が長く続いていたのです。
今回のニュースのようにここ数年でスポーツ界の意識も大きく変化し、アスリートたちはセルフケアに引け目を感じることなく取り組むことができるようになっています。規制緩和によって彼らはさらなる成果を上げ、私たちを熱狂させてくれるのではないでしょうか。
<参考資料>
https://basketnews.com/news-187562-nba-lifts-ban-on-marijuana-for-players-in-new-cba.html