最近ファンを増やしている大麻由来のウェルネス成分CBD(カンナビジオール)はプロスポーツ界でも人気。しかし、オリンピックなどの大会でドーピングに当たる可能性はないのでしょうか?本稿でご紹介します。
大麻使用で「金メダルはく奪」のピンチに陥った五輪選手
1998年の長野冬季五輪。カナダのロス・レバグリアティ選手がマリファナの主成分THC検査で陽性となりスノーボード金メダル剥奪&失格の危機に直面するというニュースがメディアを賑わせました。
1991年にプロになり、長野オリンピックで初めて正式種目となったスノーボード競技で金メダルを獲得したものの陽性反応。いっときは金メダルをはく奪された彼でしたがが「大麻はカナダでは非犯罪であり、競技パフォーマンスを強化する効能は発表されていない」と訴え、最終的にメダルを取り戻すことができました。
プロスポーツ界では記録やパフォーマンス向上のため筋肉増強剤や興奮剤の使用し、健康を害したり死亡する選手がいることからスポーツ界におけるこれらの薬物を禁止しています。
パフォーマンスに直接関係のない大麻まで対象にする声はおかしいという声は当時から上がっていたものの、これ以来スポーツ界では大麻製品の使用は長らくタブーになっていました。
また、安全かつ公正な環境のもとでスポーツ大会が行われるよう1999年には、世界ドーピング防止機構WADAが設立されました。これをきっかけに国際オリンピック委員会(IOC)が取り締まっていたドーピング検査がWADAに移管されることとなります。 ドーピングとして分類される薬品には興奮剤、麻薬性鎮痛剤、筋肉増強材、利尿剤,人工ホルモンといった物質が含まれます。
2000年のシドニーオリンピックからは血液検査が導入され 2001年には日本アンチ・ドーピング機構(Japan Anti-Doping Agency:以下JADA)も設立されています。
大麻使用に関しては長年にわたる議論の結果、2018年になり使用禁止リストからCBDのみが除外されました。
長野の冬季五輪から23年後。2021年に開催された東京五輪は125 年の歴史の中で初めて、アスリートたちが大麻製品の使用についてオープンに話せるようになった画期的な大会といわれています。
禁止リストから除外され一気にポピュラーに
大麻由来成分CBDをリストから外そうという声は2012年開催のロンドン五輪から大きくなっていきました。これはロンドン五輪男子柔道に出場した米国代表のニコラス・デルポポロ選手がドーピング検査で大麻成分が検出されて失格になった事件が発端となっています。
CBDは健康効果や回復効果は認められているものの、スポーツ競技の能力を直接的に向上させたり、筋肉増強剤のように内臓障害や心筋梗塞など深刻な副作用を引き起こすことはありません。「検査の本来の目的を見誤っているのではないか、筋肉増強剤アナボリックステロイドや持久力を高めるエリスロポエチンなど、より深刻なダメージを引き起こす禁止薬物に力を注ぐべきではないか」という意見が大きく支持されるようになったのです。
その結果、WADAは 2018年に大麻そのものや大麻成分の1つである向かう精神作用のあるTHCは禁止のまま、副作用のないCBDのみを使用禁止リストから除外。CBD製品はアスリートにとってより身近なものになり、ドーピング検査に違反してしまう心配もなくなりました。CBDをトレーニングのルーティンに取り入れている五輪選手やプロスポーツ選手も急増しています。中でも大麻の合法化が進む米国ではその傾向が顕著で、五輪金メダリスト、そして2019年FIFA女子ワールドカップでMVPと得点王に輝いた米国のミーガン・ラピノー選手はCBDファンとして知られています。
しかし、なぜこのようにスポーツ界でCBDがもてはやされるようになったのでしょうか。
CBDがスポーツ界で注目の理由とは?
CBD=カンナビジオールはなぜここまでスポーツ界の話題を集めているのでしょうか。
CBDは大麻に含まれる生理活性成分カンナビノイドの1種でリラックスや安眠サポート、体内の炎症の緩和、神経保護する作用などを持っています。この炎症緩和効果は、酷使した筋肉の炎症を回復するスピードを早めてくれます。
日常的に激しいトレーニングを行うアスリートたちは、素早く体力と筋力を回復できるようにCBDを活用しています。鎮痛効果も高いため、副作用の心配のある化学薬品を使わなくても怪我のケアができるほか、試合前のプレッシャーからくるストレスや緊張、不眠状態を和らげる目的にも使われます。
スポーツ選手に限らず、例えば忙しいビジネスパーソンにも、安眠やリラックスのためにCBDをリラックスタイムのために試している人も増えているようです。お酒と違って二日酔いやむくみなど次の日に影響が出ないのが大きなメリットです。気分が落ち着き集中力が高まると感じる人も多く、オン・オフを問わず利用している人が増えています。
「移動」がネックになりやすい
このようにメリットの高いCBDですが、国を越えてCBD製品を含む大麻製品を持ち出すことを規制している国が多く、試合のための移動が多いスポーツ選手には不便というデメリットもあります。またWADA禁止薬物リストから外れていても、国によって大麻成分への規制が異なるため、事情をよく知らず所持していたことで逮捕されてしまうケースもあります。2021年には英国でフットボールのコーチをしていた男性が、ドバイでCBD製品を所持していたために25年の禁固刑を言い渡されるという事件が起こりました。
CBDを使ったグッズには、日本を含めまだ禁止されているカンナビノイドTHC(テトラヒドロカンナビノール)が微量に含まれていることがあります。THCは薬理効果もありますが、精神を高揚させる作用があるため多くの国ではまだ規制されています。このため利用する際には細心の注意を払う必要があります。
CBD製品にはCBDのほかに大麻に含まれる他のカンナビノイドも一緒に含まれているタイプと、CBDだけを抽出しブレンドしているタイプがあります。前者は「フルスペクトラム」「ブロードスペクトラム」と呼ばれ、後者は「アイソレート」と表示されています。購入の際に参考にしてみましょう。
また「フルスペクトラム」タイプは日本国内で禁止されているTHCも微量ながら含まれています。誤った製品を購入し、うっかり法律を犯してしまうことがないよう成分表をチェックしましょう。良心的なブランドでは第三機関による詳しいラボテストの結果をオンライン上や製品付属の成分表で確認することができます。
パリ五輪ではどうなる?
WADAによると、2023年の禁止物質リストに大麻が引き続き掲載される予定になっています。医療大麻を解禁する国が増え、お酒と同じように嗜好用大麻を楽しめるエリアがあることを考えると、このダブル・スタンダードはしばらくの間混乱を引き起こしそうです。
例えば陸上女子100メートルで金メダルの有力候補と期待された米国のリチャードソン選手はオレゴン州での五輪代表選考会で優勝して五輪出場が決まったものの、薬物検査で大麻の陽性反応が出たため資格停止処分を受けました。
オレゴン州では大麻が合法化されており、21歳以上の成人は娯楽目的のためであっても大麻を使用たり所持することができます。このため「合法の大麻を使用したせいで五輪出場資格を奪うのは差別だ」という批判の声が上がり、多くのアスリートがリチャードソン選手を指示する声明を上げました。
2024年のパリ五輪が近づいていますが、フランスでは欧州で生産されたCBDのみ合法という姿勢をとっています。栄養やトレーニングのルーティンをキープしパフォーマンスを維持したい選手にとって、移動のたびに使用する製品を変えなくてはいけない状況はストレスの原因となってしまいます。
さまざまなバリアが残るCBD製品ですが、2024年のパリ五輪までにこれらの状況はどう変わっていくのか展開が気になるところです。
<参考資料>
https://www.villagevoice.com/2022/12/05/are-olympic-athletes-allowed-to-use-cbd/