イタリアでは、おどろいたことに軍が大麻を生産しています。今回は嗜好用大麻が半・合法状態にあるイタリアの大麻事情についてご紹介します。
イタリアで大麻は合法なのか?
アメリカを追うようにして大麻規制が変化しつつあるヨーロッパ。マルタ共和国では2021年にEUの中で初めて大麻が合法化され、ドイツでも現在、合法化への法整備を進めています。
イタリアでは2021年に議会投票により大麻改革案が承認され、個人使用に関しては大麻への対応がかなり緩和されました。医療用はすでに合法化されていて、レクリエーション目的の大麻はまだ非合法。しかし非合法とはいえ「個人的に楽しむ範囲に限っては犯罪としては扱わない(非犯罪化)」という扱いになっており、自宅で最大4株まで大麻草を育てることも許可されています。
またカンナビス・ライト(Cannabis Light)と呼ばれる、精神作用を起こす成分が低い大麻は、たばこ専門店やオンラインショップなどで購入することができます。身分証明書を提示すると自動販売機でも大麻を購入することができるなど、大麻を取り巻く状況はかなりオープンになっているようです。
国をあげて大麻作り?
イタリアはオランダ、カナダ、デンマーク、ドイツなどから大麻を輸入していますが、医療用大麻のニーズが増えるにともなって、軍がフィレンツェにある軍施設で大麻栽培を行い国内の生産量を上げて価格を下げようとしています。
これは合法大麻の価格をリーズナブルに保つことで、ユーザーが危険な闇マーケットに手を出すのを防ぐため。大麻合法化がマフィアや犯罪組織の資金増につながらないようにする必要があるからです。
イタリア国防産業庁では現在、品質の高い大麻を国内生産して年間必要量の約半分をカバーしており、がんやパーキンソン病など痛みの緩和を必要とする人々のために役立てています。 将来的には完全な国内自給が目標です。大麻草の栽培はで照明や水、温度などが厳密にコントロールされた屋内施設で水耕栽培されて、2023年には大麻成分をブレンドしたオリーブオイルの生産も計画中と発表されています。
なぜ軍が担当することに?
イタリア軍が合法大麻生産を行う理由は2つあります。
1 つは、犯罪や悪用の危険がない安全な施設で大麻を生産するためです。大麻の品質管理と、盗難や横流しといった不正を防ぐには、セキュリティのしっかりした軍施設はぴったりです。
そしてもう 1 つは軍の製薬関連の知識とインフラです。
軍は昔から化学兵器の解毒剤や風土病の薬、生産率が低いために大手製薬会社が作りたがらない希少疾患のための薬を生産してきました。つまり新しく投資しなくても、大麻を大規模に生産するノウハウと場所、人材がすでに整っていたのです。
パンデミック初期に大きな被害を出したイタリアでは軍が出動して治療テントを設置し、ワクチンを輸送するなど軍のミッションを公衆衛生部門へ大きくシフトさせました。このようなことも背景となり、軍が大麻を生産するに至ったといわれています。
収穫された大麻 2 種類は「FM1 」「 FM2 」というブランド名で登録されています。FMとは「Farmaceutico Militare(軍用医薬品)」 の略です。それぞれに異なるレベルの生理活性成分カンナビノイド、THC(テトラヒドロカンナビノール)が含まれています。
民間ではヘンプクリート生産が盛んに
民間での大麻生産はどうでしょうか。イタリアにおける産業用大麻は食品や環境に優しい建築用建材に加工されます。
日本ではネガティブイメージのつきまとう植物ですが、大麻は海外で優れた産業植物として注目を集めています。花や葉から抽出された成分は薬品やサプリメントに、茎の繊維部分は衣料や紙、断熱材、生分解性プラスチックの原料となり、種は食用やオイル、バイオ燃料などに利用されます。現在ポピュラーな品種は精神活性作用成分の少ない安全なインダストリアル・ヘンプ=産業用大麻です。
産業用ヘンプは樹木よりもはるかに速く成長し、森林の数倍の CO2 を吸収します。森林のCO2吸収量は通常、1ヘクタールあたり年間2〜6トン。一方、産業用大麻のCO2吸収量は1ヘクタールあたり年間8〜15トンとされています。
イタリアの気候は温暖で大麻草の栽培にも適しています。このため大麻の丈夫な繊維と石灰をブレンドして作られるヘンプ製建材「ヘンプクリート 」の生産が盛んになっています。これはヘンプ+コンクリートを組み合わせた造語で、コンクリートと同じく自由な形に成形したり、レンガのような形にして使うことも可能。このヘンプクリート は「環境責任を果たす」をテーマにしたパリ五輪のスポーツ施設にも使用されています。
強度があり、断熱性や耐火性、防音、防カビ効果など様々なメリットがあるヘンプクリートとはサステナブルな都市作りにぴったり。イタリア南部にあるヘンプクリートで作られた集合住宅と太陽光発電でエネルギーをまかなう持続可能な多層住宅プロジェクトCASE DI LUCEは麻と石灰で建てられた建物群としてはヨーロッパ最大級とされています。
まとめ
1940年代までイタリアは世界有数の大麻生産国でした。戦後に化学繊維の使用が増え、大麻が違法薬物として風当たりが強くなったためイタリアの麻畑もほぼ全滅しましたが、近年の大麻産業ブームにより再び栽培量が増えています。
イタリアでは何年にもわたる単一栽培の小麦栽培や化学肥料によって土壌汚染が起こり、土が痩せてしまうという問題も起きています。大麻はその丈夫な根で土地を耕し、土壌を浄化します。大麻栽培は新しい産業や雇用を生み出すだけでなく、イタリアの大地を再生するための解決策ともなってくれているようです。
<参考資料>