隠語も含めさまざまなネーミングで呼ばれることの多い大麻。何がどう違うのか、基礎の「キ」から解説します。
大麻草の定義とは
海外での大麻合法化のニュースや逮捕事件、医療大麻にまつわる議論などを耳にする際「大麻ってマリファナのこと?どこか違うの?」と疑問に思った経験はないでしょうか。
大麻植物にはヘンプ、マリファナ、カンナビスといったよく知られた呼び方のほかに、数百におよぶ隠語が存在します。
大麻取締法の第一条では、
この法律で「大麻」とは、大麻草(カンナビス・サティバ・エル)及びその製品をいう。 ただし、大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く。) 並びに大麻草の種子及びその製品を除く。
と定義されています。
大麻草とはアサ科アサ属の一年草である学名「カンナビス・サティバ・エル (Cannabis sativa L.)」のこと。古くから繊維利用のために世界各地で栽培され戦前までは日本でも麻素材といえば、大麻製を意味していました(※)。
※大麻草の栽培が大麻取締法で禁止されるようになってからは、繊維として「麻」と表示できるのは亜麻(あま、リネン)と苧麻(ちょま、ラミー)の2種類だけで、おお麻(大麻)は指定外繊維の扱いとなっています。
マリファナもヘンプもカンナビスも呼び方や形質・含まれている成分は多少違ってもほぼ同じ植物のことを指しています。
以下では呼び方や使われ方の違いについてご紹介していきます。
ヘンプ
ヘンプと大麻は同じ植物を指し、古来からヨーロッパの国々では大麻をヘンプと呼んできました。国により呼び方や綴りはやや変化しますが、英語でHemp、ドイツ語ではHanf、オランダ語でもHennepと表記されます。大麻産業が盛んな近年ではヘンプは精神活性成分(THC=テトラヒドロカンナビノール)の含有量が低い産業用の大麻=インダストリアル・ヘンプを指すことが多くなっています。産業用ヘンプは栽培のたびに成分検査が行われることが多く、THCの含有量が基準値を上回った場合は破棄しなければならないこともあります。
カンナビス
カンナビスという呼び方は、大麻草の学名にも使われている通りラテン語が由来となっており、スペイン(canabis)やフランス(cannabis)といったラテン語系民族の多い国で使われてきました。しかし現在では医療用・産業用・嗜好用を問わず大麻草全般を指す言葉として広まっています。これはアメリカでは人種差別的な意味合いが含む「マリファナ」という言葉を、よりニュートラルな呼び方に変えようとする風潮に合わせてのことです。
マリファナ
マリファナは、大麻草の最も一般的な俗語として知られていて、大麻草の持つ精神活性成分(THC)の効果を楽しむために喫煙される大麻のことを指すことがほとんどです。これは米国のメキシコ系移民の使う大麻を表すスペイン語「marihuana」が語源になっていると言われています。南米大陸からの移民労働者たちが持ち込んで喫煙したため、米連邦で大麻が違法となった時代には人種的マイノリティや犯罪と関連づけられて語ることが多くなりました。 産業界・医療界では大麻が「ヘンプ」「カンナビス」と呼ばれ、犯罪事件の時はマリファナといまだ呼ばれるのが多いのはこのためです。 このような歴史から米国でも現在ではネガティブな意味を持たない「カンナビス」という呼び方が使われるようになってきています。
同じ植物でも成分はかなり違う
産業利用されている大麻草(ヘンプと呼ばれることが多い)は「THC含有量が0.3%以下をキープすること」など、国によって栽培できる大麻草の品種がかぎられています。 嗜好用大麻のTHC含有量は一般的に10〜15 %程度とされていることと比較すると、同じ大麻草といっても大きく幅があることがわかります。
大麻が非犯罪化されているオランダでは、コーヒーショップと呼ばれる大麻カフェ兼大麻ショップがあり、さまざまな種類のコーヒーを楽しむように、いろんなタイプの大麻が取り揃えられています。オランダの精神衛生・依存症研究所では大麻の効能に関する年次調査を毎年実施しており、THCレベルを5段回に分けています。
低レベル=0%〜5%
中レベル=5%〜10%
高レベル=10 〜15 %
かなり高い=15 〜20 %
極度に高い=20 %以上
2022年の最新データによると、最も人気のある大麻草の THC レベルは 14.6%。これは英国の警察が押収した嗜好用大麻の THC レベルの平均値 15.0% とほぼ一致します(英国では医療用大麻のみが合法)。
つまり大麻を楽しむ場合でも、お酒と同じく味わいや酔いの度合いには段階があり、とにかく強ければ良いというものではないようです。またTHCレベルが 25% を超えることはめったになく、あったとしても誇大表示のケースがほとんどのようです。
品種改良によって様々な品種が生まれる
同じ植物でも含有成分が大きく異なるのは、プロによる品種改良が行われてきた結果です。オランダでは古くからチューリップをはじめとする花や様々な野菜、農産物の輸出が盛んで、高収量が可能な品種を意味出すための品種改良のノウハウにも長けています。
大麻の品種改良も同様で、株の交配が繰り返され新しい品種が次々と生まれています。精神を高揚させる THCの レベルを大きく下げ、医療効果が高くより安心して使える成分CBD(カンナビジオール)だけをブーストした株も生まれ、自然界では決してみられないような量のTHCやCBDを含む大麻品種も生まれているのです。
大麻のニックネームは300種類!
大麻草の最も有名な俗名はマリファナですが、日本でもハッパ、草といった呼び方をされることがあるなど、世界には様々な大麻草のニックネームがあります。
大麻の部位や、(バッズ、ナグ、ウィード、ガンジャなど)
樹脂を使ったもの、(ソリッド、チョコ、ハシシ、チャラスなど)
そしてタバコのように巻いたものでもその呼び方は変わります。
米国麻薬取締局が2018年まとめたデータでは、大麻草や大麻樹脂を指すスラングは英語だけでも300種類にも上りました。
ユニークなのは「420(フォー・トウェンティ)」という呼び方。70年代のカリフォルニアで生まれたニックネームですが、現在では4月20日が大麻の日、午後4時20分は大麻タイムに制定されるなど世界中に普及しています。
まとめ
大麻の呼び方は実に様々。名前で混乱するのも無理のない話ですし、見た目もお菓子のような製品が増えたため、若者や子どもが違法大麻と知らずに使用し逮捕されたり体調を崩すケースもあるようです。
知識をつけることは自分の身を守るために重要なこと。知らないためにうっかり騙されてしまうことも珍しくありません。「大麻は危険・ダメ」なのか「害はない・安全」といった議論も、大麻に関する基本知識がなければ考えることさえできなくなります。
長らく禁じられてきた大麻の所持や使用が合法化に向かう今、大麻に触れる・触れないにかかわらずメリットやデメリットなど知識のアップデートも大切な課題となっています。
<参考資料>
https://dutch-passion.com/en/blog/what-is-a-high-amount-of-thc-for-cannabis-n969
https://www.npr.org/local/309/2019/09/19/762044859/pot-weed-marijuana-what-should-we-call-it
https://www.dea.gov/sites/default/files/2018-07/DIR-022-18.pdf