スイスでは2022年8月1日、医療用大麻が完全合法化されました。娯楽用大麻の試験的プログラムも実施しているスイスですが、今後どのような動きが予測されているのでしょうか。
よりアクセスしやすい医療大麻を
スイスでは2022年8月1日から医療大麻が完全合法化されました。これにより患者は医師から処方箋を受け取りやすくなり医療用マリファナをもっと手軽に入手できるようになります。スイスはこれまでも医療用大麻は合法とされてきましたが、処方には特別な許可が必要で連邦公衆衛生局に申請したのち許可が下りるまで長く待つ必要がありました。今回の完全合法化は需要の大幅増加を受け、大麻医療へのアクセスを簡易化した形です。この法律改正により今後は他国への輸出も可能になります。
スイスで処方される医療用大麻には、医療効果の高い高レベルの生理活性成分CBD(カンナビジオール) が含まれており、規制物質として扱われることも多いTHC(テトラヒドロカンナビノール)の濃度は上限1% までと定められています。
ヨーロッパ諸国や米国でも、合法の大麻製品に含まれるTHC含有量を1%まで引き上げることが検討されているため、スイスは世界でいち早く商品競争力を高めたといえます。
EUで一歩リード
欧州では輸出入をスムーズに行うため、多くの国で向精神作用を持つTHCのレベルを0.2%未満で保つことが求められてきましたが、欧州議会は2023年に発効する新しい共通農業政策の一環として、2021年11月にこのTHCレベルを0.3%に引き上げることを認めました。
これは米国で流通するCBD製品などと同じ値になります。国全体としては禁止されているものの、州ごとの法律で大麻の合法化が進んでいる米国では、同じく大麻草に含まれる向精神作用を持つ成分THCの含有量が0.3%未満の場合、連邦法の下で合法とされています。
経済効果も大きい
法律改正による経済への影響も大きくなります。ジュネーブ大学では2022年6月、スイスでの大麻合法化による売上高は年間約10億3000万ドル(約1400億円)に達し、フルタイムの雇用数は約4400件になると推定したレポートを発表しました。ここには生産、輸入、貿易などだけでなく、警察、司法制度、ソーシャルワーク、医療などの合法的な経済活動も含まれています。
医療大麻合法化によって生み出される直接的な付加価値は、スイスの GDP の約 0.06%、これに相当するといいます。これは自動車や自動車部品の生産に匹敵する総付加価値(0.08%)に匹敵する規模と言われています。
医療大麻があつかう領域
医療用大麻が有効とされる病気は広範囲に渡ります。
主な疾患としては
アルツハイマー病
筋萎縮性側索硬化症(ALS)
HIV/エイズ
クローン病
てんかんとその発作
緑内障
多発性硬化症と筋肉のけいれん
重度および慢性の痛み
がん治療による重度の吐き気や嘔吐
などが挙げられます。これらの病気や症状があるからといって必ずしも医師による大麻治療が適用されるとは限りませんが、大麻医療が利用できるチャンスは今後どんどん広がっていくでしょう。
また医師にかからずとも不眠解消やリラックス、ストレスや痛み緩和、筋肉疲労回復のためにサプリメントとして大麻由来成分CBDを利用している人は世界的に増えています。CBDは大麻草から抽出された生理活性成分カンナビノイドの一種で、精神作用ほかの副作用を引き起こさず安心して使うことができます。中毒や依存性などもないため多くの国で合法となっています。日本では大麻草の茎と種から抽出されたCBD、または有機化学合成の非大麻由来CBD成分の利用がすでに認められています。
医療大麻は安全なのか?
サプリメントとして使うCBDにおいては心配すべき副作用はほとんど報告されていませんが、濃度が高く、THCが多めに含まれることもある医療用大麻を使用した場合、考えられる副作用には以下のようなものがあります。
心拍数の変化
めまい
集中力と記憶力の低下
別の処方薬と相互作用
食欲増進または減退
中毒症状
幻覚または精神疾患
しかし娯楽目的のマリファナ使用と異なり、病気を治療し症状を緩和するように処方されるため、医師との相談の上で治療に用いる限りそれほど大きな心配はないといえるでしょう。
医療大麻には、液体やカプセル、乾燥させた葉などさまざまな形態があり、目的や使いやすさによって使い分けることができます。
娯楽大麻も合法化されるのか?
スイスでは娯楽用大麻の試験導入も行われています。スイスのバーゼル市では2022年9月より娯楽目的成人用大麻販売の試験的プログラムが行われます。これはスイスでの大麻合法化の可能性に向けた第一歩になります。保健局は法律で禁止されているにもかかわらず国内には22万人の大麻常用者がいると推定しており、大麻の娯楽使用に対する規制を再検討し、ブラックマーケットでの流通を抑えることを見込んでいます。
ドイツも同様の取り組みを行っています。欧州では北米大陸ほど解禁は進んでいないものの、大麻へのイメージは大きく変わってきており、この2国のどちらかがまず最初に娯楽大麻を解禁するだろうと見る向きもあります。
大麻を合法化したカナダや、州単位で合法化に進んでいる米国と同じように、EU圏も大きく変わっていくのかもしれません。
まとめ
古代から病気の治療や神事、生活用品などに使われ、栽培が奨励されてきた大麻ですがスイスで 1951 年に初めて禁止されました。それから70 年が経ち時流は解禁の方向へと向かっています。医療だけでなく産業分野でも可能性が注目されているこの植物と今後どう付き合っていくのか。多くの国で大麻禁止が公共のために最適な政策であるかどうかについて検討が続いています。
<参考資料>