オーストラリアで大麻を使ったジンが製造され実験販売を開始しました。嗜好用大麻を合法化している国では精神作用のある大麻成分THCを含むアルコールがすでに販売されていますが、大麻とアルコールの組み合わせは安全なのでしょうか。
大麻が香る、フルーティなジン
オーストラリア南西部、ターコイズブルーの美しい海で知られる街デンマークの蒸留酒製造所では、2021年末に大麻を使ったジンを発売され話題になっています。これは風光明媚なレインツリー農園にある「カンナビス ボタニカル蒸溜所」で蒸留されたジンで、香り高いベースを作るために、敷地内で栽培された産業用ヘンプをヘンプ エタノールに変えカンナビス サティバを使用して蒸留酒のベースを作っています。
大麻らしいグリーン感のある風味に、ジンのもつキーフレーバーとなる鮮やかな風味のジュニパー、フィニッシュにはほのかな柑橘系のニュアンスがあるとのこと。また隣にあるグルメなレストラン「ザ・ダム」と提携して、シーフード他地元の素材を取り入れたコース料理とペアリングしてこれらの大麻ベースのジンをカクテルで楽しめるようになっています。
メニューの例としては、大麻ジン、ルビー グレープフルーツ、シャンパンで作られた「ボタニカル 75」 。 ほかにも蒸溜所から直送のジンジャービールとフルーティなセルツァーも楽しむことができ、タップでの購入や持ち帰りすることも可能です。これらのドリンクには規制物質とされている大麻由来成分のテトラヒドロカンナビノール(THC)の含有量を守った、安全で合法的な大麻が使用されています。
大麻とアルコールの組み合わせは安全?
嗜好用大麻を合法化した国では、いわゆるマリファナの「ハイ状態」を引き起こすTHC を含んだアルコールがすでに販売されていますが、大麻成分とアルコールの組み合わせは安全に楽しむことができるのでしょうか。
大麻成分としてよく知られる2大成分は、健康効果が高く副作用が少ないというCBD(カンナビジオール)と、様々な薬理作用はあるが精神作用を持つTHC(テトラヒドロカンナビノール)です。CBDはすでにドリンクからお菓子、コスメまでまで様々な製品に配合されていますが、THC は規制されていることも多いため現在はあまり普及していません。一方で、嗜好用大麻を合法化した国や地域では、すでにTHC を含むアルコール飲料がすでに販売され人気となっています。
CBD、THCともドリンクに溶けやすく、大麻成分入りのアルコール飲料を作ること自体は簡単です。大麻の合法化が進んでいるアメリカとカナダではすでに様々な大麻入り飲料が作られています。しかしアルコールやカフェインなど、私達がすでに親しんでいる合法的な物質であっても、カフェインの大量に入ったエナジードリンクとウォッカをブレンドしたカクテルなど「生理学的効果を持つ物質同士を組み合わせることは危険だ」という意見も根強くあります。
カフェインとアルコールの同時摂取は、両者の相互作用によって急性アルコール中毒が発症しやすくなると言われています。酔いを感じにくくなるため飲み過ぎてしまい、結果として急性アルコール中毒を引き起こしてしまったり、代謝スピードが遅くなり中毒症状を引き起こすケースがあるのです。
アメリカで実施された実験によると、アルコールとカフェインを同時に、または同日に摂取すると飲酒量が増えやすくなることが分かっています。これは、アルコールの分解速度がカフェインよりも遅いことが関係しているようです。
同様の可能性を考慮して、精神活性成分を含む大麻ドリンクが合法化された場合は「ノンアル飲料オンリーにするべきだ」という専門家の意見もあります。
大麻がアルコールの毒性を軽減?
一方で、アルコールの毒性を大麻成分が緩和してくれるという研究もあります。飲酒量が過ぎると体内炎症が加速し、心臓血管疾患から肝硬変までさまざまな健康被害が発生することは広く知られています。そして大麻成分は様々な体内炎症を引き起こすタンパク質分子(インターロイキン)を抑制する働きがあるというのです。
米コロラド大学ボルダー校の研究者らは、アルコール乱用者の体内インターロイキン量を調べました。すると飲酒はインターロイキン-6 の増加に関係していましたが、大麻ユーザーではこの度合いが低いことがわかりました。またインターロイキン-6 はアルコールへの渇望の強さとも関連しているとされます。また大麻ユーザーは別のインターロイキン「1β」の量も少なめという結果が出ました。この2つのインターロイキンは、外傷性脳損傷にも関与し、脳の機能とシナプス可塑性(=脳機能の柔軟性)にも関係しています。
一見、相反する研究結果があることからも分かるように、この研究を都合よく曲解して「飲酒が多い人は大麻使用でダメージを軽減できる」と結論づけることはできません。しかし大麻が合法化されているカナダや、州単位で合法化が進んでいるアメリカでは、大麻を吸う人は増える一方で、ビールの消費量が減少しているというデータもあります。単に興味本位でアルコールの代わりに大麻を嗜むようになったのか、大麻を嗜むようになりアルコールへの欲求が減ったのか、それとも他の要因があるのかは現在のところ不明ですが、興味深い現象だと言えるでしょう。
CBDにおいては動物実験でストレス関連のアルコール消費、禁断症状の痙攣、および衝動的なアルコール使用を減らすことができることが示唆されています。また2015年、2018年に発表されたの研究論文ではCBDがコカイン、オピオイド、覚醒剤、タバコ、および大麻中毒を抑制するのに役立つ可能性があることを示唆しています。
大麻とアルコールを使用する 120 人を対象とした 2021 年の調査では、CBD を 5 日間摂取した人は飲酒日数が少なく、実際に飲酒したときのアルコール消費量が少ないことがわかりました。これは、CBD使用がアルコール消費の抑制に役立つ可能性があることを示唆しています.
しかし複雑な要素が関係してくるアルコール使用と大麻の関係、特にTHCとの組み合わせについて理解するには、今後の臨床試験が必要とされるところです。
ノンアルで二日酔いフリーの高揚感を楽しむという選択も
THCを配合したドリンクとしては、ワイナリーが充実しており娯楽用大麻が合法なカリフォルニア産のワインが知られています。ノンアル・ワインのため二日酔いがなく、代わりにTHCの効果を楽しむことができるのが特徴で、1杯あたりのカロリーも低く抑えられています。
THC を配合したドリンクは米国を中心に増えていますが、大麻成分をただ加えるという目的だけでなく
「ソフトドリンク/アルコール飲料以外の選択肢が欲しい」
「体に優しくて楽しいドリンクが欲しい」
というニーズも増えているようです。
これは肉を食べなくてもハンバーガーを楽しめるビーガンのトレンドや、アルコールがなくても社交やナイトライフを楽しむソバーキュリアスのトレンドとも無縁ではないでしょう。
まとめ
大麻業界専門の市場調査会社ヘッドセットによると、大麻入りドリンクは米国の嗜好用大麻業界でスピード成長を遂げたカテゴリーの一つであると報告しています。また米国成人2,000 人を対象とした2022年の調査では、回答者の10%、ミレニアル世代の19% が、THC 入り飲料を試したことがあると回答しています。大麻が自分をいたわりケアする「セルフケア」の一形態としてマーケティングされることも増え、今後も利用者は増えていくものと思われます。
たんに酔いたい、ハイになりたい、飲んでうさを晴らしたいという欲求を満たすのではなく、アルコールと同じように大麻成分THCにも中毒を引き起こす危険があることを知り、リラックスして大人のドリンクタイムを「楽しむ」ことができるメンタル作りも、安全にアルコールや大麻飲料といった嗜好品を楽しむために大切な要素だといえるでしょう。
<参考資料>
https://www.theurbanlist.com/perth/a-list/the-dam-denmark
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5832595/
https://www.medicalnewstoday.com/articles/cbd-for-alcoholism#reducing-alcohol-cravings)
https://www.healthline.com/health/cbd-for-alcoholism#cbd-and-alcohol-intake