米国では嗜好(しこう)品としてのマリファナの合法化が州ごとに進んでいます。合法前と合法後で、どのような変化が起きたのでしょうか。
20世紀初頭に規制された大麻草
ヘンプ、カンナビス、マリファナ、ウィードなど様々な呼び名で知られる大麻草。有益な農作物として栽培されてきた植物ですが、喫煙などで摂取すると気分を高揚させる効果があるため米国では1913年以降規制薬物の対象になっていました。これにはメキシコの移民労働者に対する人種的偏見のほか、禁酒法の影響や宗教的な背景があったと言われています。
その後大麻の研究や社会に及ぼす影響について調査が進んだ現在では、2012年に全米で初めてコロラド州とワシントン州で娯楽用大麻が解禁されたことを皮切りに、2021年10月までに20州を超える州で再び合法化されました。
米連邦レベルではいぜんマリファナが違法であるにもかかわらず、合法化に対する国民の支持が急速に高まっているのは、宗教的な背景などから大麻の害が誇張されすぎていたと感じる人が増えていることや、大麻に優れた医療効果や健康化をもたらす成分が含まれていることが知られるようになりビジネスとして非常に可能性がある作物であるという理由があります。
解禁への動きが続いている理由
大麻には、カンナビノイドと呼ばれる100を超える薬理成分が含まれていますが、その1つに精神の高揚をもたらす作用のあるTHCと呼ばれる化合物があり、これが大麻を規制させている主な理由です。しかし現在では「大麻」という植物全体ではなくTHCという成分を規制した方が良いという考え方に変わってきており、大麻合法支持派は民主党の間で主流となり、共和党の一部もその考えを支持するようになっています。
2021年はじめのニューヨーク州での大麻合法化は大きな話題となりました。クオモ知事は21歳以上の成人による3オンス(約85グラム)までの大麻所持や、たばこ喫煙スペースでの使用、個人使用を目的とした自宅での小規模の栽培も認められました。今後は過去に大麻関連で有罪判決を受けた人々の犯罪歴も抹消されると報じられています。
どの州で合法化された?
2021年10月現在で娯楽用大麻が合法化されている米国の州は以下の通りです。
<娯楽用マリファナが合法の州>
コロラド
ワシントン
アラスカ
オレゴン
ワシントンDC
カリフォルニア
メイン
マサチューセッツ
ネバダ
ミシガン
バーモント
グアム
イリノイ
アリゾナ
モンタナ
ニュージャージー
サウスダコタ州(合法化措置は承認されたが、現在、州最高裁で審理中)
ニューヨーク
バージニア
ニューメキシコ
コネチカット
※米国には50の州といずれの州にも属さない連邦政府直轄区のコロンビア特別区があります。
調査会社ギャロップが2020年に実施した世論調査によると、米国の成人の68%が大麻合法化を支持しています。またピュー・リサーチ・センター2021年4月に発表した世論調査結果でも、米国成人の60%が医療用および娯楽用の大麻を合法化すべきだと回答し、31%が医療用大麻のみ合法化すべきだと考え、どのような使用形態も合法化すべきではないと答えたのは8%だったことが報じられています。
2000年から2019年にかけて、マリファナは合法であるべきだと考えるアメリカ人の割合は2倍以上に増えました。
合法化によって起こるかもしれない変化
大麻合法への議論には賛成派・反対派ともに様々な意見があります。医療大麻の効果に関しては一定の認知がされているため、ここでは大麻そのものを摂取する精神活性化合物THC(テトラヒドロカンナビノール)がメインの争点となっています。
<賛成者の主張>
合法化により犯罪件数が減る、税収増、刑事司法支出が減る、公衆衛生を改善、交通安全の向上、経済の活性化
<反対者の主張>
マリファナ以外の薬物やアルコールの使用にも拍車をかける、犯罪増、交通安全の低下、公衆衛生の悪化、若者の教育レベルの低下
実際には何が起こった?
2021年2月に発行された米ワシントン州のシンクタンク、Catoインスティチュートによる“The Effect of State Marijuana Legalizations: 2021 Update”といレポートでは、娯楽用大麻合法化が行われた11州のデータを集計し、実際にどんな変化があったのかを報告しています。
■調査結果
成人マリファナ使用率 増加
中高生の使用 横ばい
他の薬物・アルコール使用 横ばい
マリファナの価格 一時下落してその後一定に
自殺率の増加 横ばい
暴力犯罪の増加 横ばい
運転死者数の増加 横ばい
州の国民総生産成長率 横ばい
州の税収 増加
刑事司法支出 横ばい
(このデータでは先行して合法化されている医療用大麻合法化の影響は考慮されていません。)
非常に興味深いのは、賛成派が考えるほど社会問題が改善したわけではないが、反対派の考えるような悲惨な状況にもならず、ほとんどのデータが横ばいであること。現時点では賛成派も反対派もほとんど予想が外れるという結果になったのです。
まとめ
結局、合法化によって増えたのは成人のマリファナ使用率とそれに伴う税収のみ。
大麻喫煙はタバコと同じく喫煙によってタールを吸い込むことになるので健康被害を引き起こす可能性があり、アルコールを大量摂取した場合のように認知機能が低下することも報告されています。そのため合法化された州でもタバコやアルコールと同じく年齢制限を設けるなど、合法化=野放しの状態ではありません。
また個人のメンタルヘルス面などへの影響はこのデータでは測り知ることができないわけですが、今回の調査においては合法化と犯罪率にさほど相関性はないという考察ができます。
目立った害がなく税収が増えるのであれば、チャンスを逃してはならないと考えた州も多かったのではないでしょうか。大きなステップではありますが、合法化と課税によって品質管理ができ、闇マーケットへの資金提供を減らすことができるというメリットは、アメリカだけでなく他の国でも考慮すべきファクターといえるでしょう。
<参考資料>
Pew Research Center
https://www.pewresearch.org/fact-tank/2021/04/16/americans-overwhelmingly-say-marijuana-should-be-legal-for-recreational-or-medical-use/
Cato Institute, The Effect of State Marijuana Legalizations: 2021 Update
https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=3780276