産業作物ヘンプから作られる建築建材は、環境に優しいだけでなく丈夫さやコストの面でも優秀といわれます。フランスではパリ近郊のクロワシーボーブールにヘンプ製コンクリートブロックを使った初の公共建造物が登場し話題となっています。
フランスに登場した「大麻製」スポーツセンター
この「ピエール・シェベット( Pierre Chevet)」と名付けられたスポーツセンターは、
様々な公共建造物を手がけ、様々な賞を受賞してきたパリの建築事務所Lemoal Lemoal Architectesがデザインによるものです。
380平方メートルの建物は、大麻を原材料にしたコンクリートブロックやパネルを用い、環境ガスの排出を極力削減した建材を全面利用。国内の公共建造物としては初の試みとなります。
この建物で使われている大麻を原材料にした「ヘンプクリート (ヘンプ+コンクリート)」。 ヘンプ繊維(麻の茎の木質の内部)を粉砕したものと石灰と混ぜ成型して作られます。
建材などから発生する化学物質による室内空気汚染等と、それによる健康影響(=シックハウス症候群)が問題になっていますが、ヘンプクリートは化学薬品の量が非常に少なくてすむ上、成長の早い作物として材料が枯渇する心配がなく持続可能性(サステナビリティ)の高い建材としても注目されています。
また建築業界では建築資材のコストが上昇し、それに伴い建設費用も増えていますが、麻を利用することで強度などを犠牲にせずコストダウンが可能になります。
スペースと安全を確保
スポーツセンターはヘンプクリートブロックの壁で作られ、外観は麻ブロックを保護する白いヘンプ繊維パネルで覆われています。パネルやブロックの原料となるヘンプは、建設現場から500 km以内で栽培および製造され、輸送によって発生する環境ガス排出を最小限に抑え、地域経済をサポートしています。
建物内部はヘンプクリートの壁に隣接して支えられている木製の半アーチ型構造で、柱のない空間を実現しスペースを確保できます。壁の下部は麻のしっくいが塗られています。
この半アーチ構造の壁上部はブロックを露わにし、建物の音響性能に配慮しています。ヘンプブロックは、乾式で組み立てることができ、接着剤やモルタルを必要としないインターロック型を採用。防カビ性と耐火性を兼ね備え、高い防音性を保つことができます。
環境問題の解決策をアピール
建設業界における脱CO2を進めるためには、建材自体にサステナビリティの高い素材を使うほかにも、空調など長期にわたる消費エネルギーを減らす工夫も必要になります。
壁や屋根、床下の断熱材などにヘンプクリートを使用することで従来の建築物に比べて50%のエネルギー消費削減ができるとされ、これによりエアコンの消費エネルギーを減らし、環境ガス排出量を長期にわたって抑えることができるというメリットもあるのです。また、公共スポーツセンターでヘンプ建材を採用すること自体が、サステナブル建材の利点をアピールするプロモーションとなっています。
フランス政府のサステナブル都市計画
フランスは、従来のコンクリートや鉄鋼に代わり、環境負荷の少ない、木材やヘンプ、わらなどのバイオベース建築材を使った低排出の街づくりで世界のリーダーになることを目指しており、政府はすべての新しい公共建築物が少なくとも50パーセントの木材、またはその他の天然素材で建設されることを保証する計画を発表しました。
フランス通信社(AFP)によると、この措置は2022年までに実施され、フランス国が資金提供するすべての公共建築物に適用されます。
この動きを受けて、パリの18区にはすでにヘンプクリート を利用した15ユニットの公営住宅も誕生しました。1階に2つの店舗スペースを確保し各フロアに3戸の住居をそなえ、バスルームやキッチンは中庭に面するよう配置。自然光を最大限に取り入れ、景観や、換気に配慮した現代的で親しみやすいデザインです。
また建築基準法が改正されるにともない、市民が地域に樹木を植えやすくなるなど、都市緑化計画も進んでいます。
パリ五輪への布石
マクロン仏大統領の気候行動計画の一環として行われるこのパリ=サステナブル都市計画は、パリで2024年に開催される夏季オリンピックとパラリンピックに向けた低炭素都市実現を目的としています。開催まで3年を切った現在ではエッフェル塔周辺など市内の名所の緑化が進み、近郊地区に100の都市農場を作ることも計画され、エコへの取り組みはさらに加速しています。
世界的に有名なマドレーヌ広場、バスティーユ広場などは、すでに歩行者に優しいデザインへ改修済み、隣、車の進入ができない自転車専用道路も増えています。五輪開催となる2024年までには街中でのディーゼル車の通行が全面禁止され、2030年までにはガソリンエンジン車にも同様の措置が取られる予定になっています。
公共交通手段の充実やEVへの移行、フードロスなど環境問題について私たちが取り組めることはたくさんありますが、建設物に関してはまだ個人では如何ともしがたい状況に置かれています。
オリンピックという世界的イベントに向けたフランスのグリーン建築計画をお手本に、世界の都市が生まれ変わっていく未来も近いのではないでしょうか。
<参考資料>
https://www.dezeen.com/2021/08/01/hempcrete-pierre-chevet-sports-hall-lemoal-lemoal/
https://www.dezeen.com/2020/02/12/france-public-buildings-sustainability-law-50-per-cent-wood/