最古の農作物の一つとして人類の歴史と共に歩んできた麻。しかしその成分については知られていないことがまだたくさんあります。今回は、麻に含まれる成分の中でもあまり知られていない成分「デルタ8」についてご紹介します。
THCとよく似た構成
近年の大麻由来成分のブームで広く知られるようになったCBD(カンナビジオール)。陶酔作用があるTHC(テトラヒドロカンナビノール)ともに、大麻成分として最も知られているのがこの2つです。CBDに健康的なイメージがあるのとは裏腹に、麻薬成分として捉えられることも多いTHCですが、使い方によっては難病患者の治療や辛い症状の緩和に役立つことが解明され、医学的処方が許可されている国も増えています。
大麻草に含まれる薬理成分カンナビノイドは100種類以上見つかっていますが、人体にもたらす効果がまだよくわかっていないものも多く未知数の力を秘めています。
一般的に知られるTHCはその麻薬的効果で知られ「デルタ9−テトラヒドロカンナビノール」とも呼ばれます。そして最近、注目を浴びているのはそのいとこ的存在である「デルタ8」です。一般的なデルタ9THCと化学的構成は似ているのですが、デルタ8 THCは向精神作用、つまり陶酔作用や「ハイになる」作用が低く、治療に利用できる可能性が指摘されて注目を浴びるようになっているのです。
このデルタ8は麻の中に微量しか存在しないため、有効利用するには、成分を抽出分離する必要があります。麻の種類にもよりますが、デルタ9 THCが含有量20%を超える場合があるのに対し、デルタ8 THCは0,3〜0,5%程度と推定されています。
デルタ8の持つパワー
カンナビノイドは、人体に備わったバランス調整機能であるエンドカンナビノイドシステム(ECS)に働きかけ、人体に様々な作用をもたらします。このECSは、人間だけでなく魚類から哺乳類まで、全ての生物が持っている機能です。内因性カンナビノイドがカンナビノイド受容体と結びつき、細胞内に様々な反応を引き起こす仕組みになっています。
このECSは、食欲、痛み、免疫調整、感情制御、運動機能、成長と老化、神経保護、認知と記憶などの機能をもち、細胞同士のコミュニケーションを支えています。しかし外部からのストレスや疲労、老化によってこの働きが弱まってしまう場合があり、様々な疾病を引き起こしてしまうことがあります。
偏頭痛や過敏性腸炎症、自己免疫疾患、そしてうつ病のような精神疾患の一部も、ECSのシステム不全が原因ではないかと言われています。
内因性カンナビノイドは体内で作り出すことができるのですが、ストレスなどで体内のバランスが崩れてしまい、カンナビノイド欠乏症になっている時、外から麻由来のカンナビノイドを摂取することでそれらを補い、バランスを取り戻すことができると考えられているのです。
大麻研究の父とも言われるイスラエルのラファエル・メコーラム教授による研究では、デルタ8は免疫系に強力な効果があることを示しています。 また、1970年代に行われた実験によると、ルイス肺腺癌の腫瘍増殖がデルタ9-THC、デルタ8-THC、そしてカンナビノール(CBN)の経口投与によって抑制されたことが分かっています。またデルタ8-THCとカンナビノール(CBN)投与で20日間連続して治療を受けたマウスでは、腫瘍のサイズが減少したことも報告されています。この腫瘍減少は、CBD投与ではみられなかったそうです。
※ラファエル・メコーラム教授
1960年代初頭に内在性カンナビノイドと植物性カンナビノイドを発見して以来、大麻研究の父として知られています。また彼の研究グループは、主要な植物カンナビノイドであるTHC、CBDなどを最初に単離することに成功しました。他にも、至福を意味する内在性カンナビノイド「アナンダミド」について多くの研究を行ってきました。
がんの症状改善も
他にも、THCにはがん患者の化学療法の副作用である吐き気が大幅に軽減されることもよく知られています。1995年に行われた研究では、さまざまな血液がんを患う3〜13歳の8人の子供に、デルタ9-THCより向精神性が低いデルタ8-THCを投与する治療が行われました。THC治療は各抗腫瘍治療の2時間前に開始され、6時間ごとに24時間継続されたそうですが、嘔吐が完全に防止された上、副作用もほぼみられませんでした。すべての症例で嘔吐が予防され、研究チームはデルタ8が効果的な制吐剤であると結論付けています。
まとめ
デルタ9と比較して含有量が少ないデルタ8ですが、抽出技術の進歩によりこの成分が有効に利用できるようになりつつあります。
また大麻から抽出、精製したデルタ9の構造を変化させ、デルタ8に変換するという方法も発見されたそう。
タイプによって効果は異なりますが、使い方によってストレス緩和や安眠から病気の抑制まで、人類に素晴らしい恩恵を与えてくれる麻由来成分カンナビノイド。技術の進歩や研究が進むことで、医療はもちろん、個人の生活の質もぐんと向上させてくれそる、そんな期待が高まります。
<参考資料>
https://cbdflowers.co/delta-8-thc-the-medical-goodness-of-hemp-with-just-a-little-high/
https://cbdtesters.co/2019/08/21/interview-with-raphael-mechoulam-the-father-of-cannabis-research/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1159836/
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/002432059500194B?via%3Dihub