自然界に広く存在し、植物の精油にも多く含まれる成分テルペン。人体に様々な作用を与えると言われています。大麻草に含まれるテルペンにはどんな種類があるのでしょうか。本稿では麻のもう一つの注目成分、テルペンについてご紹介します。
テルペンって何?
大麻やヘンプオイルが持つ独特の香り。この香りは麻に含まれるテルペンによるものです。テルペンとは植物などに含まれる揮発性の高い成分のことで、植物それぞれの香りを放つだけでなく、その種類によって人体に影響をもたらします。例えばレモンやオレンジなど柑橘系のフルーツの香りの正体もテルペンです。
このテルペンという言葉は、テレビン油という言葉に由来しているそう。テレビン油は木の樹液、または木から蒸留した樹液のことで、古くから香料や燃料、抗菌や防虫剤、塗装材などに利用されてきました。オレンジから生成されたオイルがテレビン油と同様に使えることがわかり工業利用が始まったことから、現在では塗料溶剤化や医療品まで産業界で様々な用途に利用されています。例えばオレンジオイルに含まれるテルペン「D-リモネン」は香りが爽やかで、油をよく落とすので天然の万能クリーナーとして、キッチン周りなどの洗剤の材料などに利用されています。
これらのテルペンはどれも揮発性が高く、一定の温度になると一斉に蒸発するのが特徴。これが、朝の空気の匂いが清々しい理由の一つであるといわれています。またテルペンは植物の自衛にも役立っています。特定の成分と香りで害虫や菌類を寄せ付けないようにして、生存のため自らを守っているのです。
香りは体にダイレクトに働く
樹木や柑橘類、ハーブなどの匂いをかぐと爽やかな気分になるのは、香りが脳に働きかけるためです。森林浴でスッキリと落ち着いた気分になるのもテルペンの効果であると言われます。森林浴効果をもたらす森の香りはフィトンチッドと言われますが、これは樹木が発散する揮発性物質で主成分はテルペン類の一つ「ピネン」です。ヒーリングやマッサージにも使われるエッセンシャルオイルにも同じような効果があり、セラピストはマッサージを受ける人の体調や体質によってどんな植物のエッセンシャルオイルを使うかを目的別に選んで使用します。
人類は、植物が心身の健康に役立つことを経験則として知っており古くから薬草として役立ててきました。例えばカモミールやラベンダーはリラックス効果をもたらし、お茶などに利用されます。ティーツリーオイルには抗菌効果があり、殺菌やにきびなどの皮膚トラブルにも利用されます。見回してみると、薬として使われる植物のリストは無限大。現在では産業利用も進み、香料や溶剤、インクなど様々な用途に使われるテルペンですが、化石燃料よりも環境への影響が少ない再生可能な資源として、新たな可能性が期待されています。
麻に含まれるテルペンは100種類以上
では大麻の中に含まれるテルペン類にはどんな種類があり、どのような効果を持っているのでしょか。大麻には100種類以上のテルペンが含まれており、他の植物と共通する成分も多く見られます。主な種類は以下のものです。
<ミルセン テルペン>
ミルセンは、麻科の植物に最も多く含まれるテルペンで、他にもタイムやレモングラスなどのハーブ、そしてマンゴーなどにも含まれています。リラックス効果と抗炎症作用があり、安眠にも役立つほか、糖尿病にも効果があるとして研究が進められています。
<リモネン テルペン>
レモンやオレンジなど柑橘系の果物にも含まれており、爽やかな香りを持っています。すべての大麻に含まれているわけではありませんが、強い抗真菌性と抗菌性を持っているほか、ストレスを解消したり気分を高めるのに役立ちます。
<ピネン テルペン>
ピネンは松やヒノキ、杉の木にも多く含まれ「森林浴の香り」ともいうべき爽やかな香りを持っています。気管支拡張薬として使用されてきたほか、古くから強力な抗炎症作用と防腐作用を持つことで知られています。
<リナロール テルペン>
リラックス効果で広く知られるテルペンです。ラベンダーなどにも含まれ、ストレス解消、抗不安、抗うつ効果が知られています。麻に含まれるカンナビノイドTHCの向精神作用によって引き起こされることがある副作用のバランスをとるのに役立ちます。
<カリオフィレン テルペン>
スパイシーでウッディな香りのこのテルペンは、黒胡椒やシナモンにも含まれています。不安、うつ症状、炎症の緩和にも有効とされるほか、胃腸を護る働きがあり、特定の潰瘍の治療に役立つほか炎症性疾患や自己免疫疾患の治療に有望とされています。
<フムレン テルペン>
食欲を抑制する働きがあるというこのテルペンは、ホップ、クローブ、高麗人参などにも含まれ、抗炎症作用と抗菌作用も確認されています。
組み合わせが生み出す「アントラージュ効果」
大麻草に含まれるさまざまなテルペンは組み合わせることで相乗効果が生まれ「アントラージュ効果」と呼ばれる作用を生み出します。
例えば大麻草に含まれるテルペン類とカンナビノイドの一種CBDは、大麻の中でも精神活性作用が強いTHCの作用を和らげバランスを調整します。
また2015年に大麻研究で有名なイスラエルで行われた研究によると、純粋なCBDだけよりも、CBC、CBG、CBN、CBDVなど大麻に含まれる他のカンナビノイドを含む製剤の方が、鎮痛作用、抗炎症作用などの効果が優れているということが分かりました。単体のカンナビノイドには一定の使用量を超えるとその効力に限界点が現れますが、様々な成分が相互に作用し合うことで、単体では成し得ないパワーを発揮することもあるのです。
市販のCBDオイルなどの表示で見かける「フルスペクトラム」という言葉は、 CBD の他にも麻に存在する様々な天然カンナビノイドやテルペンなど様々な成分が含まれていることを指しています。つまりCBD以外にも麻に含まれる成分をまんべんなく摂取できるという意味になります。
(注・日本で発売されている商品に関しては、現在国内ではまだ合法化されていないTHCは除去されています)
理解を深め、上手に使おう
大麻草に含まれるテルペンについて知ることで、大麻関連製品を選ぶ際に自分に合った商品を、選びやすくなります。含有量については商品や品種によって異なりますので、ラベルを確認したり製造メーカーのウェブサイトをチェックすることで、あなたにぴったりのオイルを選び、健康増進やリラックスタイムに上手に役立ててみてはいかがでしょうか。
<参考資料>
https://www.cannabistech.com/articles/why-bioactive-terpenes-will-soon-share-headlines-with-cbd-cannabinoids/
https://www.projectcbd.org/ja/science/terpenes-and-entourage-effect
https://bit.ly/2P2Giax
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17559833/